それにしてもこの本、これから小説を書こうと思っている人に向かって書いているという銘打ちですが、そこそこ文章に自信があって小説でも書いてみるかと思っている人をかなりの確率で断念させるのではないかと思える内容です。
で、この本を読むのと並行して、川上未映子の新作『黄色い家』を読み、こちらは溜息が出るような文章の運びにもう胸を掻きむしられるような思いになったのであります。これから読もうと言う人にネタバレにならないようにしますが、これはもうさすがに読んで損はない小説でした。
著者川上未映子 出版日
かなり売れているようですが、物語の導入部分だけ宣伝でも紹介されており、そこから多くの人が想像するであろう展開から、ゆっくりと着実に離れて行き、あれ?もしかしてそう言う話なの⁉と徐々に愕然とする、という僕的にはかなり未曾有の読書体験でした。川上未映子の人間描写は、ほんとヒリヒリするような皮膚感があって、読んでいる僕までいつの間にかメンヘラ人間になっているのではないかと思えるものがありました。
ところでこの小説は、さきほどの「失敗学」のジャンル分けで言えば、純文学なのかエンタメ文学になるのか?心理描写がここまで繊細だと純文学と言えるのかもしれませんが、いわゆるオチのようなものもついていて、でも心理的な抜け感みたいなものはなく、でも切なさが身に染みる。で、何より物語が面白い。
うん、やっぱり純文学作品だということに個人的にはしましょう。
広告の後にも続きます
だって感動するために読む、とか、怖さを堪能するために読む、とかそう言う時短な読者のために書かれた小説ではありませんから。
それにしても川上さんは小説の内容について編集者とかとどう言うやり取りとかするのかなあ。ちょっと気になります。
ちなみに毎週購読している「週刊文春」のことですが、もう一つ割と楽しみにしているのが林真理子さんの『夜ふけのなわとび』というコラムです。この人は昔から他愛ないことを、巧みな毒をまぶしながら、でも素直に書くのが実に上手い人ですが、日大の理事長になってもそのあたりは全く変わらない。
実は僕は、2013年に林さんの『情熱大陸』を制作したのですが、その日々のあり方がいい意味でどこまでも俗的な人で、取材を通してちょっと好きになりました。でも放送を見た編集者の人たちなどから、「林さん、なんであんな場面放送させたの?」と言われる場面があった、とのことで、放送終了後に林さんにお礼に訪ねた際、「私は全然気にしてなかったんだけど、いろいろまわりの人に言われてさあ、なんであの場面使ったんですか?」と本人に言われました。
きっと林さんのまわりの編集者は、『失敗学』の平山瑞穂さんの周囲とは違って、彼女を守ろうとする人たちばかりなのだろうなと思います。
ああ小説家。
あの取材の時に、林さんが、日本の小説家で小説だけで食べていける人なんて50人もいませんよ、と言っていたのをふと思い出しました。
著者林 真理子 出版日
info:ホンシェルジュTwitter
comment:#ダメ業界人の戯れ言
関連記事:芸能プロデューサー×直木賞“物語を紡ぐ”|ダメ業界人の戯れ言#8
関連記事:芸能プロデューサーדテレビ画面に映るもの”|ダメ業界人の戯れ言#7
関連記事:芸能プロデューサーד強くない男”のジェンダー論|ダメ業界人の戯れ言#6