『東京大学物語』第1巻(小学館)

【画像】え…っ? ヒロインの水野遥が衝撃の姿に!これが『東京大学物語』のラストです(3枚)

妄想で締めくくった名作

 マンガ作品のなかには、ずっと好評だったのにもかかわらず、肝心な最終話で「ぶっ飛んだ」展開を繰り広げ、読者を困惑させた作品も存在します。今回は、「人気マンガの変わりすぎた最終話」を振り返りましょう。

※本記事には各作品の内容の核心に触れる記述が含まれます。

『東京大学物語』

 1992年から2001年まで「ビッグコミックスピリッツ」にて連載された『東京大学物語』(作:江川達也)の最終話は、今まで積み重ねたドラマを一気になかったことにする「夢オチ」という驚きの展開が描かれました。

 同作は高校生である主人公の「村上直樹」が、同じ高校に通う「水野遥」にひと目惚れをし、そこからはじまる彼女との恋愛のほか、東京大学合格を目指すための勉強、遥以外の女性との情事などが描かれます。

 そして最終話では、紆余曲折がありながらも最終的に直樹と遥が結ばれてハッピーエンドかと思いきや、すべては「直樹の妄想だった」という驚きの事実が明かされます。高齢になった直樹は、死に際に「さらば… オレの妄想の女の子… 水野 遥…」と心のなかでつぶやいていました。

 しかし、さらにここから「直樹の妄想だと思っていたこれまでの物語は、小学4年生の遥の妄想だった」と展開されるのです。遥は授業中に妄想するクセがあり、作中でも「あたしはよく自分の世界に入ってたくさんの妄想をしてしまう」と語っています。

 ラストシーンでは、遥の「あたしの青春は、今… 始まったばかり」という言葉で終わると見せかけ、左下のコマでは「なんて考えている女の子がいたらいいナ」と思っている男子が登場し、さらに左のコマには「なんて考えてる男の子がいたらいいナ」と思っている女子が現れ、「この妄想は誰かの妄想である」という場面が無限に続いている様子が描かれました。

 この妄想が連鎖するというラストは未だに「ラストが夢オチのマンガ」の代表格として語り継がれています。当時を振り返った読者からは、「妄想だと思ってもう一回読み返すと、さらに面白い」「ずっと面白く読んでいた分、ラストを読み終えた時の虚無感が半端じゃなかった」など、さまざまな声があがっていました。

『焼きたて!!ジャぱん』

 2001年から2007年まで「週刊少年サンデー」にて連載された『焼きたて!!ジャぱん』(作:橋口たかし)の最終話は、自由な終わらせ方で話題になりました。

 主人公の「東和馬」が日本一のパン職人を目指す姿を描く本作は、2003年に第49回小学館漫画賞を受賞した人気作です。しかし、途中から路線を変更したのか、ギャグ要素が多く取り入れられるようになり、最終章では「地球温暖化を防ぐパン」を作るという展開を迎えました。

 物語はここからさらにぶっ飛んでいき、友人である「河内恭介」が和馬のパンを食べると、どこかで見たことのある修行僧に変身します。出てきた瞬間に登場人物たちが「ダルシム」であると認識するほど、どう見ても対戦型格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズのキャラクター「ダルシム」です。そしてダルシムの力で世界中の陸地を浮き上がらせて、温暖化による海面上昇から地球を救うのでした。

 小麦粉の味を最大限に引き出す「熟成」手法で作ったパンの美味しさや、河内が語る作品全体の「テーマ」など真面目な話題もありましたが、最終話ラストではダルシムになった河内がパン職人をやめてゲームのなかで闘い続けていることが明かされ、最後のひとコマで河内が「なんやて!?」と叫んで幕を閉じます。ちなみに、最終話である第237話のタイトルも「なんやて!?」でした。

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ロボットアニメのオマージュだった?

『GANTZ』



TVアニメ『GANTZ -ガンツ-』DVD1巻(松竹)

 最終話が賛否の分かれた人気作といえば、2000年から「週刊ヤングジャンプ」で約13年にわたり連載された『GANTZ』(作:奥浩哉)は外せないでしょう。

 同作は地下鉄のホームではねられて死んだはずの「玄野計」と幼馴染の「加藤勝」が、謎の球体「GANTZ」が置かれた部屋に転送され、GANTZの命令によって数々の宇宙人と戦うSFアクション作品です。

 物語終盤では、巨大異星人が地球に襲来し、玄野や加藤などのガンツメンバーたちは決死の覚悟で戦いを繰り広げます。

 クライマックスでは、巨大異星人の間で「軍神」と呼ばれる英雄「イヴァ・グーンド」に名指しで勝負を挑まれた玄野が大勝負を繰り広げ、激闘の果てにGANTZスーツのパワーを高めた状態で相手の頭に突撃し勝利します。

 しかし、敵が宇宙船を自爆させてしまい、玄野と加藤は何とか脱出して地球に着いた後、海を長時間漂いました。戦いで死んだ仲間たちや自分たちを待つ愛する人たちのことを思いながら、ようやく陸地にたどり着いたふたりは、ヒロインの「小島多恵」と加藤の弟の「歩」らに出迎えられます。さらに、観衆からの「ありがとう」という言葉を浴びながら、多恵の膝枕で安堵する玄野の顔が描かれて幕を閉じるのでした。

 ハッピーエンドであり、清々しいラストにも思えますが、この終わり方に関しては「かけ足すぎて物足りなさがある」「最後があっさりすぎて、もっとほかのキャラのその後とかも描いてほしかった」「なんかいかにもエピローグがありそうな感じだったのに何もない」などの声があがり、賛否が分かれることになりました。

『GANTZ』最終巻の37巻の巻末に掲載された、作者の奥先生へのインタビューによると、最終話の展開は1977年放送のアニメ『無敵超人ザンボット3』のオマージュだったそうです。

 奥先生は、「『ザンボット3』では砂浜に神勝平(主人公)が乗った頭部だけが落ちてきて、そこにそれまで彼に好意的じゃなかった人々が集まってきて感謝すると。で、ヒロインが2人いるんですけど、その内のかわいい方は爆弾にされて死に、おカッパでぽっちゃりの地味な方が生き残って彼女の膝枕で主人公がその状況に呆然とした表情で終わるという。それをほぼそのままやってますね」「あれが僕のアニメの理想的な終わり方だったんですよ」と答えていました。

 かなり前から決めていた思い入れのあるラストとのことで、奥先生が「自分がやりたいこと」を突き詰めたという『GANTZ』らしい最終話となっています。