医療漫画の金字塔『ブラック・ジャック』の新作が、11月22日に発売される「週刊少年チャンピオン」52号に掲載されることが決定した。手塚プロダクション取締役で手塚治虫の息子にあたる手塚眞氏や、慶應義塾大学の栗原聡氏らが取り組んできた、AIと人間がコラボレーションして作品を生み出す「TEZUKA2023」プロジェクトの一環として制作されるもの。

(参考:【写真】手塚治虫の漫画・復刻版『魔法屋敷』を試し読み

  既に、3年前に行われた「TEZUKA2020」プロジェクトでは、AIを駆使した新作漫画『ぱいどん』を生み出しているが、今回は手塚治虫の中でも屈指の名作とされる『ブラック・ジャック』の新作ということもあって、話題性は十分だ。現に、今回の発表には『The・かぼちゃワイン』などの代表作をもち、手塚治虫のアシスタントを務めたこともある漫画家の三浦みつる氏らプロも、X上で反応している。

  前作『ぱいどん』も賛否両論、様々な意見が寄せられたが、今回は3年前以上にAIの技術も進化し、関心も高まっている。さらに、今年2023年は、『ブラック・ジャック』の連載が開始して50年という節目なのだ。そんなこともあって、前作以上の反響があることは間違いないであろう。読者の審判はどうなるか、注目される。

  手塚治虫は60歳という若さで亡くなったこともあり、「もしも今、手塚治虫が生きていたら」という「もしも」の話が多く語られる漫画家でもある。AIに関しても、「もしも手塚治虫が生きていたら、積極的に取り入れようとしたのではないか」と考える人もいる。そういった妄想が膨らむほど、手塚治虫は常に漫画界の最前線にいようとしていたし、伝説的なエピソードに事欠かない人物なのだ。

  個人的に「TEZUKA2023」プロジェクトに望むことは、技術が一層進化したら、未完成になっている過去の作品の続編を制作して欲しいと願う。遺作として有名な『グリンゴ』『ネオ・ファウスト』『ルードウィヒ・B』のほか、構想を練っていたとされる『火の鳥』の大地編やアトム編、未完のままになっている『どついたれ』など、手塚ファンであれば続編を読みたい作品は山ほどある。単行本がいまだに発見されていない『モモーン山の嵐』の内容をAIに構想させてみても面白いだろう。

  AIはまだまだ進化の途上にある。今後、漫画家の仕事にどのように関わっていくのか。5年後、10年後の漫画制作の現場はどのようになっているのか。AIと人間のかかわりはどのようになっていくのか。まったく想像もつかないが、『ブラック・ジャック』の新作はそうした未来を占う試金石になることは間違いないだろう。

(文=山内貴範)