野中ゆたかの投球姿が表紙になった コミック『風光る』1巻(講談社)

【画像】『風光る』で振り返る、時代を彩った野球の名選手たち

野茂、落合、桑田、清原! 絵を見れば誰かわかる再現度

 1991年から『月刊少年マガジン』(講談社)で連載開始した『風光る』は、弱小高校の野球部が甲子園優勝を目指す野球マンガです。万年1回戦敗退の常連だった多摩川高校に所属する主人公「野中ゆたか」が仲間たちとともに成長する姿は、野球マンガとしてまさに王道でした。

 ゆたかの特技は、プロ野球選手などの技術をモノマネで完全再現するもの。連載当時プロ野球界を賑わせていた名選手もモノマネされており、野球ファンにも愛された作品です。

 最初の練習試合で投入されたモノマネは、近鉄バッファローズで活躍していた「野茂英雄」選手でした。野茂選手の代名詞ともなっている「トルネード投法」は、身体に大きなねじれを作るダイナミックな投球フォームです。いかにも速い球を投げられそうで、当時の野球少年たちの多くは野茂選手をマネた経験があるのではないでしょうか。

 さらに、野中ゆたかが圧巻なのはピッチャーだけでなく、バッターも高いクオリティで再現できる点でしょう。初戦の打席では「オレ流」で有名な「落合博満」選手のモノマネを披露しました。

 当時の落合選手は神主打法を武器に前人未到の三冠王を3度獲得するなど、規格外の活躍でファンの記憶に刻み込まれている選手です。神主打法はゆったりと脱力していながらも、地面を足で掴んでいるように安定した構えが特徴的です。穏やかでいて恐ろしいほどの迫力をマンガで表現するのは難しいにも関わらず、絵を見るだけで落合選手だとわかるほど、構えや仕草などが忠実に再現されていました。

 その後のストーリーでも数々の名選手をモノマネしており、甲子園を沸かせたPL学園の「KKコンビ」清原選手・桑田選手も登場します。また、甲子園出場の際にはメジャーリーグ歴代1位の通算762本塁打を放ったバリーボンズ選手や、5度のサイ・ヤング賞を獲得したランディジョンソン投手まで完コピしています。

 ゆたかの「モノマネ」は「ピッチャー・バッター」「左・右」「オーバースロー・アンダースロー」など、二刀流どころの騒ぎではありませんでした。



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連載が続いていれば「大谷」のマネをしていた?

 2023年開催の「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)での活躍で世界中の野球ファンを虜(とりこ)にしている大谷翔平選手ですが、『風光る』が現在でも連載されていたら、マンガのなかで取り上げられる可能性は十分にあったのではないでしょうか。
 大谷選手の話題性や実力は、作中に登場した名選手たちに引けをとりません。メジャーリーグにおける投打の活躍は、野球の神様「ベーブ・ルース」と比較されるなど、本場アメリカでも折り紙つきです。『風光る』作中では球界で名の知れた選手がモノマネされており、大谷選手はその条件を十分にクリアしていると考えられます。
 これまで数多くの野球マンガが、日本の野球史に名を残す実在選手を描いてきました。WBC優勝を決めた大谷選手の活躍に、多くの人が「マンガみたい」「アニメみたい」と衝撃を受けました。大谷選手が本当にマンガやアニメで描かれる作品が登場するのかどうか、楽しみにしたいと思います。