『銀河英雄伝説 Die Neue These 激突』メインビジュアル (C)田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会

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実は、もの凄い大発明だった?

 累計発行部数1500万部、アニメ・マンガ・ゲームなどの題材にもなったベストセラーSF小説『銀河英雄伝説』。そのなかに「ガイエスブルク要塞」と呼ばれる超兵器が登場します。

 ガイエスブルク要塞は、帝国歴488年のリップシュタット戦役で登場します。ブラウンシュバイク公爵をリーダーとした、貴族連合軍が本拠地として使用したのです。

 主人公であるラインハルトが、貴族連合軍の宇宙艦隊を撃破したことで、要塞単独での交戦は無意味となり、ガイエスブルク要塞の巨大な攻防力は発揮されませんでした。

 翌帝国歴489年、銀河帝国の科学技術総監シャフトは、ラインハルトに「叛乱(自由惑星同盟)軍に奪取されたイゼルローン要塞を攻略するために、これに匹敵する要塞でイゼルローンを攻撃する」という方策を提案します。

 シャフトは指向性ゼッフル粒子の開発など、実績のある科学者なのですが、ラインハルトは「要塞の構築中に破壊される」と、頭から否定します。

 シャフトは「既に構築されている要塞を、イゼルローン回廊に移動させる」という提案をして、許可を得ます。シャフトは放置されたガイエスブルク要塞に、12個のワープエンジンを取り付け、イゼルローン回廊へと移動させます。

 無敵と思われたイゼルローン要塞の四重複合装甲を、ガイエスブルク要塞の主砲である硬X線ビーム砲「ガイエスハーケン」はたやすく貫通し、今まで無敵だったイゼルローン要塞に大損害を与えます。

 同盟軍はヤンの戦術指揮により、ガイエスブルク要塞の通常航行エンジンを破壊して、推力バランスを崩し、イゼルローン要塞の主砲である「トールハンマー」でガイエスブルク要塞を破壊します。

 ラインハルトは、敗戦の責任をシャフトに問います。シャフトは「作戦指揮の失敗が敗因で、技術面の問題ではない」と自信満々に言いますが、憲兵総監ケスラーに汚職を追及され、地位を負われるのです。

 劇中で、ラインハルトはガイエスブルク要塞を全く評価していませんし、その後で類似の兵器も登場しません。しかし、シャフトの「作戦指揮の失敗が敗因で、技術面の問題ではない」は間違いなのでしょうか。

『銀河英雄伝説』は、度々「補給の大切さ」が説かれる作品でもあります。実際、同盟軍は補給能力を無視した侵攻を行い、アムリッツァで大敗を喫しています。

 ガイエスブルク要塞は艦隊1万6000隻、将兵200万人を収容できる軍事拠点です。同規模のイゼルローン要塞は「要塞内で必要物資を生成できるので、自給自足可能」な拠点として描かれており、貴族連合軍の本拠地だったガイエスブルク要塞も、同じような能力を備えていると見るべきでしょう。

 そんな移動する補給拠点は「無用の長物」ではなく「画期的新発明」なのではないでしょうか。移動しないガイエスブルク要塞を、移動式に改装するのに1年もかかっていません。帝国内各地の要塞を「移動式」に改造したり、イゼルローン要塞以上の攻防力を持つ移動式要塞を建造したりしていたら、どうなっていたでしょうか。

 劇中で、ガイエスブルク要塞は、イゼルローン要塞の主砲を受けて破壊されています。逆を言えば「宇宙艦隊の攻撃では、簡単に破壊できない」のです。

 同盟軍でガイエスブルク要塞を破壊できる主砲を有するのは、イゼルローン要塞だけです。イゼルローン要塞にぶつけなければ、容易に破壊できないわけです。

 ガイエスブルクのような移動式要塞は「敵中深く進攻しても、補給・修理拠点として使用できる」補給兵器として使ったら、輝いたのではないでしょうか。

 帝国領から同盟領に侵攻するルートは、要塞のないフェザーン回廊もあります。移動式要塞+収納した艦隊で、フェザーン回廊から同盟の首都惑星ハイネセンを目指したら、どうなったでしょうか。

 この場合、複数の移動式要塞に、ラインハルトやロイエンタール、ミッターマイヤーのような有能な指揮官を擁する艦隊を搭載して、エンジン部分を守ります。そして、要塞の補給力を活かして敵地深くでも補給を維持し、ハイネセンを目指すわけです。

 ハイネセンには「アルテミスの首飾り」と呼ばれる防衛システムがありますが、これはどう見てもイゼルローン要塞よりも能力は低く、ガイエスブルク要塞の主砲で瞬時に破壊されたことでしょう。

 このようにされた場合、同盟軍側に移動式要塞はないのですから、いかにヤンの知略をもってしても、対抗するのは難しかったように思えます。

 シャフトの移動式要塞の着眼を軽視し、収監したラインハルト。その後のイゼルローン攻防戦で帝国軍が多大な犠牲を払っていることを考えると、シャフトの「作戦指揮の失敗が敗因で、技術面の問題ではない」は正しく、「ラインハルト最大の判断ミス」であった可能性もあるのではないかと、筆者には思える次第です。