普段の生活で身近な石鹸。それを使ってさまざまな立体作品を作る「石鹸アート」というものがあります。本物そっくりのスイーツやフルーツ、そして透明でキラキラした宝石のような石鹸まで、美しい作品を作っている石鹸アート作家の木下和美さんに、作品作りについて話をうかがいました。

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■ 石鹸アートとの出会い

 実は鍼灸師、柔道整復師でもある木下さん。石鹸作りを始めたのは、通っていた鍼灸大学の卒論ゼミでアロマテラピーに出会ったことだといいます。

 香りで心身をリラックスさせるアロマテラピーを施術に取り入れるうち、家庭でもアロマテラピーでリラックスしてほしいと思い、アロマ石鹸を本格的に作り始めたのだとか。その過程で優しい香りと柔らかな泡に包まれる心地よさのとりことなり、石鹸作りにのめり込んでいったそうです。

 石鹸アートに取り組む以前、創作活動の経験はなかったといいますが、小さい頃からシーグラス拾いや花の香り、スイーツは大好きだったとのこと。そういったところからも、アロマ石鹸作りが良い形での導入になったのかもしれませんね。

 初めてチャレンジした石鹸アートは、ピンククレイを使ったピンクと白のしましま石鹸。思いがけず綺麗に縞模様ができ、石鹸へデザインを施すことに夢中になったのだそう。「仕事が終わってから毎日石鹸を作って改良し、デザイン石鹸を作っていました」と話してくれました。

 木下さんがデザイン石鹸作りを始めた2006年〜2007年当時、石鹸にデザインを施す人がほとんどおらず、身近に教室も存在しなかったため、自身で試行錯誤しながら作っていたとか。ツートーンだけでなく、マーブル模様や市松模様など、色の境界を明確にするべく、石鹸生地の流し込み方などを日々工夫していたそうです。

■ 透明な「宝石石鹸」

 石鹸作りでひとつの転機となったのが、透明な宝石石鹸でした。シーグラスなど透明感のあるものが好きだったこともあり、透明な石鹸作りに成功してからは透明度を上げるために研究を重ね、何気なくカットしてみたら宝石のような美しさに心を奪われたのだそう。



 これをきっかけにし、発色など試行錯誤しつつ色々な宝石石鹸を作ってはSNS(Instagram)にアップしていたという木下さん。その活動が出版社の目に留まり、ついに作品や作り方を集めた書籍を出版するようになりました。



 いわゆる「石鹸」と総称されるもののうち、固形石鹸は脂肪酸ナトリウムを主成分としたもの。油脂と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水を原材料とし、そこにグリセリン(保湿成分)、シュガー、エタノールを添加して透明石鹸が作られるそうですが、材料やメーカーが異なると透明感や使用感が変わるので、材料選びは慎重さが要求されるとのこと。



 また、石鹸素地にもMPソープ(電子レンジなどで加熱し溶かして型に流し込める石鹸)、アミノ酸石鹸などといった種類がありますが、それぞれ表現しやすい模様があるのだそう。木下さんは作りたい作品に合わせてチョイスしていると話します。



 作品の中には、透明な石鹸に花が封じ込まれたものもあり、まるで草花の一瞬を固定したかのよう。これも石鹸なのですね。



■ 本物そっくり!「スイーツ石鹸」

 木下さんの石鹸アートで、宝石石鹸と同じく代表的な存在がスイーツを模した石鹸。こちらも書籍化されており、白色のMPソープを材料に作られているそうです。



 まるで本物のケーキのようなスポンジやホイップクリーム。実際のものと同じように、石鹸を細かくホイップし、作られているそうです。

 「材料によってがっちり固まるクリーム、ふわっと固まるクリーム、固まらないクリームなど、材料を変えることによって調整できます。ホイップクリームは石鹸を溶かしてホイップして作るのですが、さらになめらかな質感を出すためにコーンスターチを配合してホイップしていきます」

 木下さんによると、ただホイップするだけでなく、ホイップしすぎても、また足らなくてもうまく絞ることができないそうで、温度も重要になっているとのこと。スイーツでのホイップクリーム作りも、温度管理やホイップ量によってうまく絞れるよう固さを調整していますから、ほぼ同じような感じですね。



 ケーキの形に仕上げるには、型に流し込んで層を作ったり、別に作っておいたパーツを挟んだり、といった作業となります。ここでもベースとなる生地の泡立て具合と素材の組み合わせ、温度が重要になってくるそうで、適切な泡立て加減と適切な温度を見つけ出すまで、何度も失敗を重ねたそうです。



 トッピングとなるフルーツも、もちろん石鹸でできています。イチゴはよりリアルに見えるよう、表面と内側の色付けを変えているそうで、さらにデコレーションでトッピングするイチゴと、ケーキの中に挟んでいるイチゴは作り方も変えているんだとか。



 フルーツの中でも、ブルーベリーとバナナは特に評判の良いものだそう。ブルーベリーはブルーム(熟した果実の表皮にできる粉のようなもの)など、表面のツヤ感がイチゴとは異なるので、石鹸の種類を変えているといいます。



 バナナの場合はマットな質感であるため、ツヤが出過ぎないよう調整します。「バナナのスジの太さを意識したり、色の濃淡もリアルさを出す大事なポイントになります」と木下さん。



 圧巻なのがミルフィーユを再現した作品。細かく重なるパイ生地の質感や垂れていくクリーム、表面を飾るパウダーシュガーなど、さまざまな技法が詰まっています。このようなスイーツ石鹸は、身近な道具を使っているのだそう。



 「小回りの利くナイフを用いてパイ生地の層を作り上げています。また焼けたパイのしなりは指で押し、しならせることによってパイの動きを出すようにしています」



 何の説明もなく皿に置かれていたら、思わず口に運んでしまいそう。でも水に濡らすとちゃんと泡立ち、手や体を洗うことができるのですから驚きです。



■ 石鹸アートで大切にしていること

 ご自身の中で、特に思い入れのある作品についてうかがうと、宝石石鹸とスイーツソープ(特にミルフィーユ、ショートケーキ、シュークリーム)、そしてバナナやアミノ酸宝石石鹸をあげてくれました。



 アミノ酸宝石石鹸との出会いは、4~5年ほど前のことだったといいます。海外にアミノ酸石鹸というとても透明な石鹸があることを知り、マカオで石鹸アートのレッスンを開催した際、アミノ酸石鹸の作り方を教えてもらったのだそう。

 「MPソープで宝石石鹸を作るデザイン工程を応用し、透明なアミノ酸宝石石鹸が完成しました。私はラブラドライトという石が好きで、その石のような表現ができた時は嬉しかったですね」



 木下さんは作品作りだけでなく、石鹸アートのワークショップも国内外で開催。宝石石鹸とスイーツソープ作りのレッスンは海外の教室からも招待され、北京、香港、台湾、マカオ、ジャカルタ、ドバイでレッスンを行ったそうです。

 「私は最初石鹸が手作りできると思っていなかったですし、油から作られるということも知りませんでした。自分で材料を選んで好きな色と香りをつけ、オリジナルの石鹸が手作りできることを知っていただきたいです。原料を選ぶ、作って、飾って、使って楽しんでくれたら嬉しいですね」



 作品作りで大切にしていることをうかがうと、木下さんは次のように答えてくれました。

 「石鹸はお家で使うことが多い生活必需品。使用するたびに汚れを落とし、香りや使用感を楽しんでいただきリラックスしていただける石鹸作りを心がけているのですが、その上で綺麗、カラフル、透明感、可愛い形など、見た目でもワクワクしていただけるよう、心がけています」

 木下さんは「あなたの誕生石がつくれる ジュエルせっけんキット(ポプラ社)」、「ハンドメイドの宝石せっけんの教科書(エクスナレッジ)」、「リアルな見た目や感触が楽しい 泡立てて作るスイーツ石けん(グラフィック社)」、「心と体がうるおう 肌にやさしい手作り石けん(大泉書店)」と4冊の本を上梓しています。



 また、作品はInstagram(kinoshitakazumi)で見られるほか、詳しい情報は木下さんが代表を務める「アロマティカラボ」公式サイトに掲載されています。

<記事化協力>

アロマティカラボ 木下和美さん(HP:https://www.ass-aromatica.jp//Instagram:kinoshitakazumi)

(咲村珠樹)