悩み多き飛雄馬と違って、明朗快活だった蛮

 放送時の子供たちが夢中になったのは、番場蛮が繰り出す斬新な魔球の数々でした。マウンドから1.5メートル近く垂直に跳び、高角度から投げ込む「ハイジャンプ魔球」。さらにその改良形である「エビ投げハイジャンプ魔球」。蛮が魔球を投げる瞬間、グランドは「領域展開」のごとく異界と化すことになります。

 コマのようにグルグル回転して投げるのは、「大回転魔球」です。人気イラストレーターのみうらじゅん氏は、大リーグで活躍した野茂英雄選手のトルネード投法を見て、「あっ、大回転魔球だ」と思ったそうです。

 さらに蛮は空手の修行を積み、硬球を素手で握り潰して投げる「分身魔球」を開発します。『巨人の星』の星飛雄馬(CV:古谷徹)は魔球をライバルに打たれると、立ち直るまでにかなりの時間を要しました。でも、番場蛮(CV:富山敬)は魔球を打たれても、すぐに新魔球のヒントを見つけ、復活します。飛雄馬のようにくよくよ悩まず、明るく快活な性格だったところも、蛮の魅力でした。

 美形キャラの眉月光をはじめとする個性豊かなライバルたちとの対戦に加え、長嶋選手や、当時は南海ホークスの監督兼4番打者だった野村克也選手らの実話タッチのエピソードも盛り込まれ、あっという間の全46話でした。

 ちなみに原作マンガを描いた井上コオ氏のアシスタントを務めていたのは、ボクシング漫画『リングにかけろ』で大ブレイクする車田正美氏です。蛮が生み出した多彩な魔球は、『リングにかけろ』の主人公たちのフィニッシュブローに少なからず影響を与えているようにも感じます。

(広告の後にも続きます)

原作では衝撃的な死を遂げたが…

 最終回も忘れることができません。原作の『侍ジャイアンツ』は、分身魔球を多投し過ぎた蛮がマウンド上で絶命してしまうという、あまりにも衝撃的な結末でした。

 原作の最終回より2週間前に放映されたTVアニメ版は、異なるエンディングとなっています。蛮の最後の相手は、大リーグを代表する大打者レジー・ジャクソンをモデルにしたロジー・ジャックスです。蛮が投げる魔球の数々を、ロジーは簡単に打ち返してみせます。さすがは大リーグの二冠王です。万事休す状態に追い込まれた蛮ですが、最後の最後に新魔球を思いつくのでした。

 それまでの魔球をすべて組み合わせた「ミラクル魔球」で、大勝負に挑む蛮でした。蛮の野球への熱い想いを込めた渾身の一球に、ロジーのバットは宙を切ることになります。頭でイメージしたことを、すぐに実戦で活用できる蛮の度胸のよさには惚れ惚れとさせられます。最後まで明るく、常識破りな主人公でした。

 日本のプロ野球がもうすぐ開幕します。今年はどのチームが、どの選手が活躍するのでしょうか。番場蛮のような破天荒キャラの登場に、期待したいと思います。