著:手塚治虫『ブラック・ジャック』手塚治虫文庫全集 第1巻(講談社)

【画像】近い未来、図書室に置かれるようになる可能性があるマンガ

文部科学省が定めた「教育課程の展開に寄与する」に合致して入ればOK!

 学校にマンガを持ち込んではいけません。多くの日本人がこのルールを遵守し、時に破っては罰を受けてきました。そんなマンガ立ち入り禁止区域学校でも堂々とマンガを読める空間が存在しています。そう、図書室です。

 全ての学校とはいかないにしても、相当数の小中学校にはこうした合法マンガが置かれており、マンガに飢えた、あるいは暇を持て余した生徒たちがむさぼるように読んでいました。そんな図書室に置いてあったマンガのなかより殿堂入りの作品を勝手ながら選定しました。

『ブラック・ジャック』(著:手塚治虫)

 まずはこちら。マンガの神様・手塚治虫が描いた医療マンガの金字塔です。本作は敢えて医師免許を取得せず、悪徳富豪より法外な手術料を請求するモグリの医師ブラック・ジャックのダークヒーロー的活躍を描いた作品。犯罪行為もしばしば行われている本作ではありますが、逆説的に倫理観を訴えるものが多く、正義とは何か、命とは何かを現代人に問いかけ続ける大傑作です。無修正の手術描写もある種“教育”的と考えられたのかもしれません。なお同じく手塚治虫作品ですと他にも『火の鳥』が置いてあった学校が多いようです。

『はだしのゲン』(著:中沢啓治)

 同じく図書室においてあるマンガの代表格といえば『はだしのゲン』が挙げられます。中沢先生ご自身の被曝体験をもとに描かれた本作は原爆の直接的な被害を描くと同時に、飢餓や差別問題など戦争がもたらした二次的な被害も克明にえぐり出します。次世代に戦争体験を伝承するにあたって大きな役割を果たしてきた本作ですが近年、一部地域において閲覧制限をかけるべきではないかという提言がなされ、大きな議論が巻き起こったことも記憶に新しいところです。

『あさきゆめみし』(著:大和和紀)

『源氏物語』をマンガ化した『あさきゆめみし』も図書室マンガの超常連です。平安時代の貴族社会を描いた本作はそのまんま古典の勉強に直結するため『ドラゴン桜』(著:三田紀房)でも「ぴったりの教材」として紹介されたほどでした。大和先生の独特のテンションで展開される恋愛模様と光源氏の好色ぶりにイラついた生徒も多かったはず。

 と、ここまで学校にあったマンガ殿堂入り3作品をご紹介してきましたが、そもそもマンガは学校に置いて良いのでしょうか。文部科学省は学校図書館ガイドラインの図書館資料の選定について「教育課程の展開に寄与するという観点」を重視するに止まり、マンガに過度に偏ることがなければ別段問題なく、また選定基準も各学校に委ねています。また公益社団法人の全国学校図書館協議会はこの文部科学省のガイドラインを受け、学校図書館のマンガにおいて次の基準を定めています。

(1) 絵の表現は優れているか。
(2) 俗悪な言葉を故意に使っていないか。
(3) 人間の尊厳性が守られているか。
(4) ストーリーの展開に無理がないか。
(5) 俗悪な表現で読者の心情に刺激を与えようとしていないか。
(6) 悪や不正が讃えられるような内容になっていないか。
(7) 戦争や暴力が、賛美されるような作品になっていないか。
(8) 学問的な真理や歴史上の事実が故意に歪められたり、無視されたりしていないか。
(9) 実在の人物については、公平な視野に立ち、事実に基づき正確に扱われているか。
(10) 読者対象にふさわしい作品となっているか。
(11) 原著のあるものは、原作の意が損なわれていないか。
(12) 造本や用紙が多数の読者の利用に耐えられるようになっているか。
(13) 完結されていないストーリーまんがは、原則として完結後、全巻を通して評価するものとする。

 注目すべきは「(4) ストーリーの展開に無理がないか。」でしょう。宇宙人やロボットを手術する『ブラック・ジャック』が特に問題ないとされているので、こちらの項目は極めて寛大といえます。

 では、今後どんなマンガが学校におかれるのでしょうか。児童文学評論家の赤木かん子さんは光村図書のWebサイトにおいて、子供に人気があることを大前提としたうえで、『ドラゴンボール』(著:鳥山明)、『名探偵コナン』(著:青山剛昌)、『のだめカンタービレ』(著:二ノ宮知子)などを学校図書室に入れても良いマンガとして挙げています。この考えでいけば『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴)が学校図書室に並ぶ日も近いかもしれません。『ONE PIECE』(著:尾田栄一郎)は、完結したら……ということになりそうです。