「F-16をウクライナへ」の拭えない懸念 誤操作で一発アウトのリスク ロシア機とは根本から違う!

ウクライナ空軍待望の戦闘機F-16が供与される見込みです。ただ戦闘機がそろってもパイロットがいなければ戦うことはできません。加えて同国がこれまで使っていた旧ソ連機とは根本的に異なる点も。事故が続発する可能性があります。

ロシア側の侵略を阻止する有効手段

 ロシアによる侵略が続くウクライナ。2023年7月現在はウクライナが反攻し、逆にロシアが守勢に回っている状況ですが、ロシアの守りは堅くウクライナの領地奪還は容易ではないと目されています。

 この戦争は「どちら側も航空優勢、いわゆる制空権を確保できていない」という、ひとつの大きな特徴があります。ウクライナ、ロシアともに相手の地対空ミサイルに押され、満足に航空作戦ができないでいます。地上軍を前進させるには飛行機やヘリコプターによる空輸や戦闘機などによる対地攻撃が必須ですが、両軍ともこれを満足にできていない状況にあるのです。

 こうした情勢から、ウクライナは西側諸国に対して一刻も早く戦闘機の支援が必要であると訴えてきました。ただ、これに対する西側諸国の反応は鈍く、開戦から1年が過ぎてようやく重い腰をあげ、F-16の供給実施が決まっています。

 F-16の多くは1980~90年頃に生産された古い機体ですが、ブロック50/52と呼ばれる仕様と同等の性能にアップグレードされているため、ロシア製のSu-35SやSu-30SMなどと対等に戦うことができるでしょう。

 やや遅きに失した感はありますが、F-16のウクライナ配備によって領土奪還の成功率はより高くなり、少なくともロシア側のこれ以上の侵略拡大には大きな効果が見込めます。

 ただし、それには「十分な数のF-16が配備されたならば」という絶対条件が付随します。

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今後数年で最大1000機の余剰F-16が出るかも

 現在、NATO(北大西洋条約機構)諸国では最新鋭のF-35戦闘機の配備が進んでおり、F-16については今後数年で数百機から約1000機もの余剰が出ると見込まれているので、ウクライナが機体を揃えることはおそらく容易です。しかし、そのF-16を操縦するパイロットはどこにいるのでしょうか。

 飛行機の操縦は、軍隊のあらゆる職務のうち最も難易度が高く、長期間の勉強と訓練が必要です。戦時になってパイロットが足りずに困るのは第1次と第2次の両世界大戦のときから変わっていない、おなじみのパターンです。

 ウクライナ空軍は、戦闘機に関してMiG-29やSu-27といったロシア製戦闘機を配備しているため、パイロットたちはアメリカ型の戦闘機へ機種転換訓練を受ける必要性があります。とはいえ、ロシア式とアメリカ式では、とくに戦闘機については設計思想が全く異なるため、決して容易ではありません。

 たとえば速度や高度、距離の表記はロシア機の場合、メートルやキロメートルといった我々日本人でもわかりやすい単位を使うのに対して、アメリカ製のF-16では「フィート(約0.3m)」「ノット(約1.85km/h)」を使用します。こうした問題は様々な箇所で発生します。

 おそらくパイロットにとって最も恐ろしい違いは「姿勢指示器」ではないでしょうか。姿勢指示器はその名の通り機体の姿勢を表示する計器であり、ロシア機もアメリカ機もヘッドアップディスプレイなどに投影されますが、F-16はロシア機とは完全に逆転して表示されるのです。

 ほかにも一例をあげると、機体が左に傾いているとき、ロシア機における表示は左に傾きますが、アメリカ製のF-16は逆に傾きます。これはロシア機が地球を基準とし「機体の姿勢」を表示するのに対し、アメリカ機は自身を基準とし「水平線の見え方」を表示するという、考え方の違いにあることが原因です。