世界唯一の乗りもの「スカイレール」ついに廃止 “合理的な交通手段”のはずが普及せず 強みは弱みにも

広島市内で運行していた新交通システム「スカイレール」が2024年4月末に役目を終えました。いわゆるニュータウンの足として導入されたこの乗りもの、一見してロープウェイのようですが、じつは様々な輸送手段のいいとこ取りです。

ロープウェイとモノレール、さらにはリニアの要素も

 世界で唯一、広島市にしかなかった乗りもの「スカイレール」が2024年4月30日昼に運行を終了、5月1日に廃止されました。

 スカイレールは、正式には株式会社スカイレールサービスが運営する「広島短距離交通瀬野線」という軌道線です。開業は1998(平成10)年で、それから四半世紀にわたって、広島市安芸区にある住宅団地「スカイレールタウンみどり坂」への交通手段として運行されてきました。

「スカイレールタウンみどり坂」はいわゆるニュータウンで、最寄りのJR山陽本線瀬野駅から広島駅まで約20分という良好なアクセス性が特徴。しかし、山腹を造成して住宅地が造られているため、傾斜地を徒歩で駅まで移動するのはひと苦労です。そこで、住宅地へのアクセス鉄道(新交通システム)として建設されたのがスカイレールでした。

 結んでいるのは「スカイレールタウンみどり坂」の中に設けられたみどり中央駅と、麓にあるJR山陽本線の瀬野駅に隣接して設けられたみどり口駅とのあいだ約1.3km。その間を定員25人の車両(ゴンドラ)が行き来していました。

 このゴンドラゆえに、一見するとロープウェイのようにも思えるスカイレールですが、走行用の桁は鋼製です。また、走行時は桁に沿うように設置されたロープの動力で進みますが、駅に入ると車両がロープからいったん外れ、リニアモーターによる駆動に切り替わります。こうすることで、ロープウェイのゴンドラと違い、桁をしっかりつかんでいるため風に強く、駅部ではロープの推進から離れリニア駆動にすることで、減速、停止、発進を可能にしています。

 そのため、車両の外観はロープウェイ、上部の桁はモノレール、走行方式はロープウェイとリニアのハイブリッドと、見た目とは裏腹に様々な要素が盛り込まれているのです。

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急斜面と大カーブの両方に対応

 文字どおり、新時代の交通システムとして生まれたスカイレール。それでは、なぜこの「スカイレールタウンみどり坂」に採用されたのか、それはこのニュータウンの立地状況、すなわち傾斜地を造成して街が造られたのに大きく関係しています。

 

 スカイレールはロープウェイと同様に勾配で力を発揮します。この路線でも、みどり口駅を出発してすぐに263パーミル(1000m進むと263m登る勾配)を駆け上がりますが、これはケーブルカー以外の鉄軌道では日本一の急勾配。たった1.3kmの路線全体で180mもの高低差があります。

 また、駅から北に延びた軌道は、そこから東西方向に長い住宅街を縦貫するように大きくカーブしますが、スカイレールは半径30mの曲線まで対応しています。傾斜に強いケーブルカーなども、このようなカーブのある線形にはできません。高低差とカーブ、ふたつの要素をカバーできる公共交通機関として、スカイレールはまさに最適だったといえるでしょう。

 加えて、もうひとつの強みが、運転士がいらないという点です。車両の管理は地上設備で行われているほか、駅なども監視カメラなどでシステム管理されており、人件費を最小限に抑えることができました。

 建設費も、モノレールと比べて3分の1以下(1kmあたり20~30億円)で済むため、前出の無人運転と併せてランニングコストを抑制できる点も強みでした。

 ただ、このような特殊な構造ゆえに、他所で採用されなかったのも事実。車両の定員が少ないため、大量輸送には向かず、急勾配に強いというメリットも山間部だからこそ有用で、平地であれば必要ありません。

 開発元の三菱重工業と神戸製鋼所は各所へ売り込みを図り、福岡市や滋賀県大津市、神奈川県の相模原市などで導入が検討されたものの、採用には至りませんでした。