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台湾の音楽フェス『大港開唱 MEGAPORT Festival』で印象的だったアーティストは?(後編)

Real Sound

『大港開唱 MEGAPORT Festival』那屋瓦少女隊Nanguaq Girlsとの1枚

<土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.3>

 前回に続いて、3月30、31日の2日間、台湾南部の高雄で開催された音楽フェス『2024 大港開唱 MEGAPORT Festival』で印象に残ったアーティストについてお届けします。

(関連:台湾の音楽フェス『大港開唱 MEGAPORT Festival』で印象的だったアーティストは?(前編)

 このフェスでユニークだったのが「出頭天」というルーフトップに組まれたステージ。ここで観た「榕幫Banyan Gang」が面白かった! 台南出身3人組のHIPHOPグループなのですが、何が面白いって、台湾の古い歌謡曲をサンプリングしていたりして、他にはないユニークなムード。この日はドラムのサポートが入っていました。バンドスタイルでのライブの動画もあるので、その都度、いろんなスタイルでやるのかな? 屋上なので高雄港を見渡すことができて、風通しが良くて気持ちよかった! 音楽性とのコントラストが痛快でした。

 今、大学生くらいの世代を中心にめちゃくちゃ人気があると、台湾のいろんな音楽関係者に教えてもらったのが、2日目に登場した「庸俗救星Vulgar Savior」という4人組のバンド。「卡魔麥(カモメの当て字)」という一番離れた場所にある屋内ステージの最初という、もしかしたら人が集まりにくいかもしれないタイムテーブルだったのですが、なんと入場規制がかかっていました。

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 「庸俗救星Vulgar Savior」は2020年結成、『大港開唱』には初出演。一口に言ってしまうとシティポップ的かなと思いますが、ロック、R&B、ファンクなどが混じり合って、都会の日常に似合うスタイリッシュなサウンドがとても気持ちいいです。演奏も上手い。そして「Marry Me」というプロポーズソングの演奏中、ロマンチックな事件が起きたのです。この曲はギタリストのレイが、2021年に自身がプロポーズするために作曲したもので、今ではこの曲を使ってパートナーに気持ちを伝えるファンが多いらしいのです。もう想像できると思うのですが、お察しの通り、客席でサークルができたかと思うと、なんと1人のファンがその場でプロポーズ! 会場中、大歓声に包まれ、たくさんのスマホがサークルの中心を撮影しようと掲げられます! ステージからも(おそらく祝福の)言葉が。とはいえ、言葉が分からないもので、一応バンドに問い合わせてみました。すると、そのプロポーズした彼はずっと前から計画を立てていて、他のファンの人たちにも協力を呼びかけていたそうなんです。そしてバンドは、この日に必ず演奏すると彼に約束して、計画については知らないふりをしていたんですって。実際にこんな風にライブの最中にファンがプロポーズしたのは、これが初めてなんだそう。メンバーも涙ぐんだとか? ラウドロックでぶつかり合うためにサークルができるのはよく見ますが、こんなキラキラしてロマンチックなサークルは見たことがないです。思い出したらウルウルしちゃう。

 ちなみにこの日の衣装は、雑誌『GQ』の「2024 GQ Suit Walk 名人改造計畫」という企画によるスタイリング。『GQ』チームがハイエンドとストリートをミックスしたスタイルを準備したそうです。他にも2023年にはFRED PERRYのスポンサードで「FROM DA TOP 直接來」という日本の「THE FIRST TAKE」のような動画コンテンツにも出演していて、どのような層から人気なのか想像できます。

 前編にも書いた港の近くの一番大きなステージ「南霸天」の初日の幕開けは、日本でも人気の「大象體操Elephant Gym」によるマスロックで痺れたのですが、2日目は私にとって未知のアーティスト「李權哲 Jerry Li」でスタート。暑さを忘れさせてくれるような洒落たサウンド! ブルース、ソウル、ファンクの匂いもします。「ひとりSuchmos、いや、tonunやん!」と、つい声が出てしまいました。歌もいいしギターもいい! いい表情で、いいギターを弾く! 興奮してしまいました。彼は、「雲端司機 CLOUDRIVER」という名前でも活動していて、2021年にリリースしたアルバム『愛情一陣風』で、25歳という若さで『第33回金曲奨』の最優秀アルバムプロデューサー賞を受賞。デビューは19歳のとき。若き才能ですね。MVもユーモア溢れていて、センスの塊だと思いました。たくさんのアーティストとのコラボもしていて、いきなり気になる人になりました。

 「女神龍」ステージの2日目のラスト、大トリを飾ったのが「鄭宜農Enno Cheng」。大体1組40~60分間の持ち時間なのですが、彼女だけ70分間というロングセットで、主催とお客さんからの期待値の高さが窺えます。実は現場で見ることができなかったので、動画を探して見入ってしまったのですが、前編で紹介した「洪佩瑜Pei-Yu Hung」と、もうひと組「那屋瓦少女隊Nanguaq Girls」がゲストで登場していました。ここでは「鄭宜農」と「那屋瓦少女隊」について紹介させてください。

 まず鄭宜農は、受賞歴も多数、ミュージシャンであり俳優でもある女性アーティスト。とても知的で力強く魅力的な方です。自身のYouTubeチャンネルの番組「邊走邊唱的女子」では、毎回女性ミュージシャンが出演、町を歩きながら、音楽制作に関する不安や葛藤を率直に語り合い、鄭宜農と演奏もします。きっと彼女は、自分と同じ女性ミュージシャンを応援し、多様な女性が受け入れられる場を作りたいのではないでしょうか。このチャンネルには「洪佩瑜」も「那屋瓦少女隊」も出演しています。

 「那屋瓦少女隊」は同じ日の早い時間に、同じステージに出演していたのですが、台湾原住民の歌手「ABAO」がプロデュースしている新しい若手原住民ミュージシャンの女性3人組。台湾華語とも台湾語ともまた全然違う言葉の響きがエキゾチックでカッコよかったです。最初はHIPHOPで会場中が手を挙げて踊り、R&Bのグルーヴに揺れ、最後の原住民の民謡まであっという間に感じました。原住民の言葉は大まかに分けても16種類あるそうですが、ライブではパイワン族、ブヌン族、ルカイ族、サキザヤ族、アミ族の言葉など、6つの原住民の言葉を使用。本人に尋ねると、言葉を分かる人は多分そんなにいないだろうとのことでした。ABAO曰く、若い原住民の子達はみんな、音楽の生まれつきのセンスがあるし、声もいいし、パフォーマンス力もあるから、みんなで活動すれば、たくさんの人に現在の原住民音楽のことを知ってもらえるのではないかと、このプロジェクトがスタートしたそうです。鄭宜農もきっと3人の音楽的才能とプロジェクトの意義に共感して、フックアップしたいと思っているのでしょう。

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