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ヨルシカ、音楽と朗読劇が織りなす美しい世界「月と猫のダンス」有明アリーナファイナル公演をレポート

DI:GA ONLINE

ヨルシカ LIVE 2024 「月と猫のダンス」
2024年4月7日(日)有明アリーナ

ヨルシカのライブツアー「月と猫のダンス」の追加公演が2024年4月6日(土)、7日(日)に東京・有明アリーナで行われた。

昨年の4月から6月にかけて開催された「月と猫のダンス」は、ヨルシカの楽曲、役者による朗読劇を融合させたツアー。追加公演では基本的なコンセプトを踏襲しつつ、演出と脚本が再構築され、さらにブラッシュアップされた内容となった。今回セットリストに加わった楽曲は「雨とカプチーノ」「ただ君に晴れ」「春泥棒」「斜陽」(ツアー本編で演奏された「老人と海」「パドドゥ」「夏の肖像」は外されていた)。出演はヨルシカ(n-buna/Comp,Vo,Gt、suis/Vo)のほか、バンドメンバーの下鶴光康(Gt)、キタニタツヤ(Ba)、Masack(Dr)、平畑徹夜(Pf,Key)、そして朗読劇を担う役者として村井成仁が舞台に上がった。

朗読劇の台本はもちろん、ヨルシカのソングライターであり、文学にも造詣が深いn-bunaが執筆。主人公は、恋人の女性と別れ、海辺の部屋で暮らす画家の男。自らの脳裏に浮かぶ風景をそのままキャンバスに描こうとする彼は、しかし、自らの創作に迷い、出口を見い出せずにいた。部屋には古いピアノがあり、絵に行き詰まると彼が唯一弾ける曲(ベートーベンのピアノソナタ14番「月光」)の冒頭を何気なく弾くのだが、あるとき、部屋の周囲にいる動物たちがピアノの音に反応していることに気づくーーというストーリーだ。ライブの場面では、ほとんどの曲でスクリーンに映像が映し出された。実写、アニメーション、イラスト、リリックビデオなど様々な表現方法を取り入れながら、音楽と朗読が織りなす世界観を際立たせていく、というわけだ。

たとえば「雨とカプチーノ」では、コーヒーカップをモチーフにしたSF的なアニメーションを投影することで、歌詞の世界を増幅(または逸脱)するような魅惑的な効果を与えていた。動物たちの鳴き声などをバンドメンバーが楽器を使って“実演”していたのも印象的だった。

「雨とカプチーノ」より

「又三郎」では派手なレーザーライトを使用。アッパーなビートとドラマティックな旋律が鳴り響き、会場を鮮やかに彩った。今回の公演は声出し、拍手、手拍子は許可されていたのだが、観客は「又三郎」のようなアッパーチューンでも静かにステージを見つめていた。一体感を求めて盛り上がるのではく、舞台で行われる表現に向き合い、音と言葉と映像を受け取りながら、思索を巡らせる。これこそがヨルシカのライブの醍醐味なのだと思う。軸にあるのはもちろん、n-bunaが紡ぎ出す言葉と旋律、そして、suisのボーカル表現だ。

「又三郎」より 「チノカテ」より

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ライブが進むにつれて、“静かな高揚感”と呼ぶべき雰囲気が会場を包み込んだ。
絵描きの男の部屋に羽虫、カメレオン、鹿、フクロウが現れ、創作意欲を取り戻す場面の後で演奏されたインスト曲「第五夜」、そして、「雪国」における美しく、切ない解放感。さらに“昔の恋人から電話があり、久々の展覧会が決まった”というエピソードを挟んで披露された「斜陽」で豊かな感動を生み出した後、「靴の花火」では巨大なスクリーン全体に映し出され、圧倒的な祝祭感を演出。通常のコンサートや演劇とは違う、まったく新しいエンターテインメントの姿がそこにあった。

「斜陽」より

終盤に演奏された「春泥棒」も強く心に残った。移り行く季節のなかで、命の儚さ、尊さと滲ませるこの曲は、「月と猫のダンス」のなかで聴くと(あくまでも個人的な解釈だが)“人は生きながらにして生まれ変われる、創作活動もまた然り”という思いが感じられたのだ。桜色に彩られたライティングや映像によって、まさに桜の季節を迎えた現実とつながるような感覚を味わえたことも記しておきたい。

「左右盲」より 「春泥棒」より

ライブの最後は、絵描きの男が展示会(部屋を訪れた動物をモチーフにした10枚の連作が舞台に置かれていた)を開く場面だった。そこに登場したのが、suisが演じる(!)元・恋人。久しぶりの会話を交わしながら絵描きの男は、「変わらないように見えて、人はみんな変わっていく。時間が流れているのは私だけではない」と心のなかで呟くのだった。

芸術を追求することと、それを他者に伝えることのバランス。自分の表現や生き方にこだわることと、固執することをやめて変化しつ続けることの意味。「月と猫のダンス」には観る人の数だけ解釈やテーマがあるし、おそらくは観返すたびに印象が変わるはず。この舞台をもう一度、いや、何度でも観たい。そう感じたのは私だけではないだろう。

SET LIST

朗読/プロローク

朗読(1)

  • 1
  • 2