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ラグビータウン熊谷市、日本全国からファン来訪。仕掛け人が語る成功の裏話

パラサポWEB

というのも、パナソニックエレクトリックワークスは、主にライティング照明器具を扱っている会社で、甲子園球場やエスコンフィールドHOKKAIDO、東京ドームといった多くのスポーツ施設の照明設備などを手がけているからだ。

「さくらオーバルフォートに関して言えば、我々の最終目的は練習所の照明や電光掲示板、あるいは空調などを納品させてもらうこと。そのためにいろいろな人脈や情報を使って、最適な組み合わせやスキームを提案させていただきました」

こうして小谷野氏が作り出したスキームは見事に成功し、三者に利益をもたらしただけでなく、地域活性化にも発展した。

進化し続けるラグビータウンで観光客増加、人口も回復傾向に

「さくらオーバルフォート」で行われたイベントにやってきた方々

熊谷市は2018年の夏に最高気温41.1度と、国内の観測史上最も高い気温を記録。以前、熊谷市は20万都市だったが、この記録の発表後、人口は20万人を割った。

「暑いというネガティブなイメージのせいで人口が流出したのではないかと、当時の市長はがっかりされていました。それが、ワイルドナイツが協定を結んで以降、徐々に人口が回復傾向にあります。もちろん、理由はそれだけではないでしょうが、熊谷市はもちろん、商工会議所のメンバーなども協力してワイルドナイツを応援して、市全体がラグビーで盛り上がりました。おかげさまでワイルドナイツも誘致した初年度に日本一になり、その後2連覇しています」

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その他にも、現在の市長が「ラグビータウン熊谷」をマニフェストに掲げ、JR熊谷駅の前にはラグビーのゴールポストが立ち、訪れる観光客の気分を盛り上げている。

「2022年3月には選手も一般の方も利用できる整形外科、ワイルドナイツクリニックができましたが、都市公園法という法律によると、さくらオーバルフォートがある公園内には医療施設を作ることができませんでした。そこで、商工会議所の会頭が公園に隣接する土地を持っている方を紹介してくださり開院にいたったんです」

現在、電動アシスト自転車が借りられるワイルドナイツサイクルステーションが2拠点、サイクルポートが熊谷市内に23箇所設置されている

また、JR熊谷駅から熊谷スポーツ文化公園までは徒歩で50分かかるため、熊谷ラグビー場で大きな試合がある場合、増便したバスやタクシーを利用して来場してもらっていた。そこでもっと気軽に訪れてもらうため、商工会議所が電動アシスト自転車を120台購入し、ワイルドナイツサイクルステーションを設置。これによって、15分で駅と行き来できるようになるなど、さくらオーバルフォートができて以降も、まちは発展し続けている。

「おかげさまで、平日でも1日100~200人、土日になると600~800人ぐらいの観光客が訪れるようになり、町おこし、地域活性化に繋がっています」

行政×スポーツの成功の秘訣は、地元との連携

さくらオーバルフォートの練習場。4基のナイター用LED投光器が設置されていて、夜でも練習が可能

さくらオーバルフォートは「行政×スポーツ」による地域活性化の成功例と言えるだろう。なぜこんなに成功することができたのだろうか。

「昔はスポーツで地域活性化というと、民間企業が土地を買ってホテルやスタジアムを作って、民設民営で行ってきました。でも、今は民間企業もそんなことが簡単にできる時代ではありません。一方で自治体は国体を誘致したといっては、補助金などを活用して箱物を作りますが、その後有効活用できず維持費の捻出に困っている。そういったお互いの課題や資源をうまく組み合わせれば、スポーツで地域活性化することは、まだまだ可能だと思っています。それには熊谷市もそうでしたが、商工会議所と連携をすること。県民のため市民のために役立つことをして、地元の力を借りる。そうやって一緒に盛り上げていくことが大切です」

熊谷市では商工会議所がワイルドナイツの後援会を立ち上げ、前売りチケットの販売にも一役買っているという。

世界で活躍する人材の育成で地域活性化を

photo by Shutterstock

「少子高齢化が進む日本では子どもが少なくなっていますが、私は子どもたちにもっとスポーツの選択肢を与えてあげたいなと思っています。最近では野球やサッカーやバスケットボールなど海外で活躍する選手が増える一方で、水泳の授業を廃止する自治体が増えています。教師の負担軽減など理由はさまざまですが、先生が泳げない、水泳が得意じゃないというケースもあるそうです。そんな時代ですから、これからは行政だけじゃなく、公民連携で民間も入れて子どもたちを育成する時代になっていくと思います。スポーツを教える場合もただ競技の練習をするだけでなく、将来、海外で活躍できるように、英語やフランス語を取り入れる。そうした海外に向けたプロスポーツと教育を連携するような施設を作るとしたら土地のある地方は最適で、スポーツを活用した町おこしの可能性はまだまだあるのではないでしょうか」

今回、小谷野氏のお話を伺って、スポーツでまちおこし、まちづくりをして成功するには、地域の人々がみんなで盛り上がれる空気を醸成することが大切なのではないかと感じた。建物を作って終わり、あるいは熱心な一部のスポーツファンのためではない。そこに暮らす誰もがスポーツを身近に感じることができるようになれば、自然とまちは元気になっていくのかもしれない。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社

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