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横溝正史、江戸川乱歩 探偵小説界の巨匠に迫る「別冊太陽」注目すべきは貴重なヴィジュアルと寄稿者の人選

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(左)『探偵小説の鬼 横溝正史 謎の骨格にロマンの衣を着せて』(右)『江戸川乱歩 日本探偵小説の父』(ともに平凡社)

 歿後40年以上経った今なお衰えぬ人気を誇っている探偵小説界の巨匠、それが横溝正史である。その作品を読んだことがないという人でも、『八つ墓村』や『犬神家の一族』といった代表作のタイトルは聞いたことがあるに違いない。

  1902年に生まれた横溝正史は、その生涯をかなり長いあいだ苦しめた結核をはじめ、戦時中の探偵小説規制や疎開、1960年代半ばの断筆……といった苦難を味わいつつも、膨大な作品を精力的に発表し続け、特に戦後の『本陣殺人事件』『獄門島』などの、名探偵・金田一耕助が活躍する作品群は本格探偵小説を日本に根づかせた。1960年代終わり頃〜1970年代からは漫画化・映像化などを伴う空前のリヴァイヴァル・ブームに恵まれ、角川文庫から刊行された作品群の総発行部数は、正史が亡くなった1981年には5500万部に達していたという。

  その後もコンスタントに映像化されたこともあって彼の作品は今に至るまで読まれ続け、2021年〜2022年前後は歿後40年および生誕120年ということで多くの作品が復刊された。2017年には幻の新聞連載長篇『雪割草』が発見され、また現存しないと思われていた1954年の映画『悪魔が来りて笛を吹く』(金田一耕助を片岡千恵蔵が演じた)のフィルムがつい最近発見されるなど、まだまだ新しい話題には事欠かないし、代表作の海外での翻訳紹介も進行している。『ミステリと言う勿れ』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『変な家』などの映画や『仮面ライダーガッチャード』第29話といったTVドラマでは、金田一耕助シリーズへのオマージュやパロディが後を絶たない。

  そんな横溝正史の偉業を総括した一冊が、平凡社の「別冊太陽」シリーズから刊行された『探偵小説の鬼 横溝正史 謎の骨格にロマンの衣を着せて』である。横溝正史研究の第一人者である山口直孝(二松学舎大学教授)による評伝、代表作の紹介、作家によるエッセイ、キーワード解説やコラム、角川文庫版の表紙イラストで知られる画家の杉本一文や金田一耕助を映画で演じた石坂浩二のインタビュー等々、充実した内容である。貴重な写真や書影などがカラーで掲載されているのも「別冊太陽」ならではの楽しさだ。

  特に注目したいのは、正史の次女で児童小説作家の野本瑠美の寄稿だ。1939年生まれの野本瑠美は、父正史の知られざる私生活、そして探偵作家たちとの交友の貴重な生き証人である。疎開先の岡山県にいた正史のもとを訪れた江戸川乱歩との感動的再会の情景、1948年に東京に戻った正史を温かく歓迎した探偵作家たちの姿、自身の命を救ったストレプトマイシンが間に合わずに亡くなった同病の海野十三の無念さを酌んで遺族を庇護したこと……など、間近で父の姿を見ていた娘の思いがこめられた情報が多い。

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  野本瑠美の寄稿でもうひとつ注目したいのは、代表作の発想源となった実際のエピソードが列挙されていることだ。正史の義兄が日本の歯車業界の先達とも言うべき人物で、その邸宅にあった時計台が『女王蜂』のホテル松籟荘のモデルになったという話などは初めて知った。成立事情が最も詳細に記されている作品は『仮面舞踏会』で、軽井沢でのゴルフコンペ、考古学者との交友、台風の襲来、正史が面倒を見ていた青年が起こした自殺未遂……といったエピソードが、すべて『仮面舞踏会』を構築する要素であることには驚かされる。

  作中に登場する美少女・笛小路美沙は、野本瑠美と兄(後に音楽評論家として大成した横溝亮一)がピアノのレッスンに通っていた家の向かいに住んでいた少女がモデルで、彼女は後に女優の嵯峨三智子となったという。だとすれば、笛小路美沙の母親で過去に四人の夫がいた大女優・鳳千代子のモデルは、嵯峨三智子の母親で、やはり生涯に四度結婚した山田五十鈴でしかあり得ないだろう。こんな秘話が読めるのも正史の肉親の回想ならではと言えよう。

  この本に先駆けて、同じ「別冊太陽」から昨年3月に刊行されたのが『江戸川乱歩 日本探偵小説の父』である。こちらは作品紹介と評伝が中心で、『探偵小説の鬼 横溝正史 謎の骨格にロマンの衣を着せて』と比べると既知の情報が多いが、「別冊太陽」が大型サイズであることをフルに活かしたヴィジュアル面の充実ぶりには陶酔させられる。乱歩に敬意を捧げる作家らのエッセイも数多く掲載されており、『黒蜥蜴』のタイトルロールの女賊の、ルパンや二十面相といった怪盗とは異質な魅力の本質を指摘した斜線堂有紀の「黒蜥蜴は女賊である」などは名エッセイと言える。また、『江戸川乱歩 日本探偵小説の父』と『探偵小説の鬼 横溝正史 謎の骨格にロマンの衣を着せて』の両方に、生前の乱歩・正史と面識があった小林信彦が寄稿していることも注目したい。乱歩・正史を直接知る人も、今やすっかり少なくなってしまった。

 
   

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