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【#10】文化放送アナウンサー西川あやのの読書コラム/他者から投げられる評価ボールは、毒か?薬か?

ホンシェルジュ

(私の魅力って、パッパラパーなところだったんだ……)

妙に納得してしまって、おまけにこの時期は自分を暗い人間なのかもしれないと思い始めた時期だったから、パッパラパーに見られているのなら安泰だ……と心が楽になって、本当に前向きになったのだった。

パッパラパーに括られて、目の前の雲が晴れてゆくという経験は初めてだったけれど。

 

しかし、何気ない会話の中でこうしたボールがいきなり飛んでくることは、ちょっとした恐ろしさも潜んでいる。

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蹴りたい背中 (河出文庫)
著者綿矢 りさ 出版日2007-04-05

 

高校1年生で陸上部に所属する長谷川初美(ハツ)と、モデル・オリチャンの熱狂的ファンである同級生の蜷川智(にな川)。他のクラスメイトと距離を取る2人の奇妙な関係を描く芥川賞受賞作だ。

 

この作品は、3月末から配信を始めた「夜ふかしの読み明かし」というポッドキャスト番組をきっかけに最近読み返した。「おいでよ!クリエイティ部」でご一緒している哲学者の永井玲衣さんとXXCLUBの大島育宙さんと共通の作品を読んで語り合ったり、哲学対話を行なったりしている。

 

ひょんなことから繋がりを持ったハツとにな川の2人は絶妙な距離で関係を続けるが、体調を崩しているにな川のお見舞いに出向いたハツとの会話にこんな一節がある。

 

「クラスのひとたちどう思う?」

桃を黒塗りの箸で細かく割りながら。でも一口も食べずに、何気なく言ってみた。

「レベル低くない?」

にな川は私を見つめたまま一瞬止まったが、やがてすべて了解したというふうに頷き、

「あぁそういえば、長谷川さんも、生物の班決めの時に取り残されてたもんな。」

 

“取り残されてた”という響きが胸にぐんと迫ってきて、慌てた。友達とかに無頓着で、というかオリチャン以外の現実に無頓着だから、絶望的な言葉をさらっと口にすることができるんだ。

 

このリアリティにはぞっとした。

登場人物の誰にも悪気がない中で、自分に対する他者からの視線の中身を知る。性格診断の占い結果を読むときや、同じ部署の上司と面談しているときのような心構えをしていないから、言葉が軌道をはずしたボールのようにぽーんと心の中に投げ込まれる。その後のボールの処理の仕方には十分注意したい。

作中ではこのあと、ハツが“人見知りをしている”んじゃなくて“人を選んでる”んだと弁解をするけれど、サブカル系やパッパラパーの分類に括られて、すっかり納得して前を向いているような私のような処理の仕方もある。

生きている中で、自己評価のあやふやさに気づいたり、ばったりと出会う他者からの評価に納得したり、憤ったり。どこにも正解なんてないので、その迷いや気づきを楽しみながら過ごしてゆくしかないのだ。

 

 

このコラムは、毎月更新予定です。

info:ホンシェルジュTwitter

writer Twitter:西川あやの

related radio program:西川あやの おいでよ!クリエイティ部

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2023年5月16日

提供元: ホンシェルジュ

 
   

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