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公園の遊具が生まれ変わる! 新感覚のインクルーシブ遊具って何?

パラサポWEB

障がいの種類・程度により、遊べる子遊べない子がいることがないようにといった配慮も重要だが、障がいのある子どもと、障がいのないいわゆる健常者の子どもの間で分断が起きないようにすることも、田嶋さんチームの課題だった。

「健常の子にとってもインクルーシブ遊具のある環境は非常に重要なんです。自分とは違う子どもから様々な刺激を受け、多様な人と関わりを持つ機会ですから。また、一口に健常と言っても発達や感覚は様々で、ブランコの大きな揺れが怖くて乗れない子どももいます。でも、KOMORIのように身体を安定できる場所で小さな揺れ感覚を楽しめる遊具と出会えれば、苦手だったブランコを少しずつ克服できていくような未来が見えてくるのではないでしょうか」

子どもたちの可能性を狭めているのは大人の先入観

インクルーシブ遊具を作ろうとして集まったプロジェクトチームは、医療ケア児のサポート施設に日参し、さまざまな障がいのある子どもと接しながら試行錯誤を重ねていくのだが、みんなにとって楽しい、誰ひとり排除しない遊具の開発は簡単ではなかった。

「今、手がけている遊具は3種類ですが、それぞれ開発の進め方、アプローチは異なります。遊具メーカーとしては、いろいろな機能が複数集まっている方が子どもたちは楽しいだろうと考えますよね。僕も、このプロジェクトを始める以前はそう思っていたんですが、実際には違いました。感覚が過敏な子どもにとってブランコは、揺れる感覚、景色の大きな変化、手に持つ鎖の冷たさが排除のきっかけになってしまうんです。ブランコでは遊べない。ですから、ブランコ遊具“KOMORI”の場合は、感覚を過度に刺激しないようなブランコ、素材は何かと考え、発泡スチロールで型を作って、子どもたちを乗せて揺らしてみたらどうなるか。検証してプロトタイプを作り……と試行錯誤の日々でした」

トランポリン遊具YURAGIは、寝たきりの子どもが健常の子どもと遊びの場を共有するにはどうしたらいいのだろうかと考えた末に生まれた。ドーナッツ型の輪に乗った健常の子どもがそこで跳ねると、傍にいる寝たきりの子どもにその振動が伝わって遊び環境が交わるのだ。

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浮き輪の形状のUKABIは、またぐことのできない子どもを排除しがちなスプリング型遊具をインクルーシブにする目的で生まれた。ヒントになったのは、“いつかこの子と海で遊ぶのが夢だ”と語ったある母親の言葉だったのだそう。仮説にたどり着いてから、ケアの現場をリサーチし、遊具はどんなサイズ感、素材が良いのか、自らの感覚で体験してみたり、紙のモデルを作って子どもたちに試してもらったり。その中で気づかされることも多かったと語る。

「KOMORIの発泡スチロールモデルを持って施設に行き、子どもたちを乗せて大人二人がかりで揺らしていると、あるお子さんがゲラゲラ笑っていたんです。自分が揺らされているのが本当に楽しいらしくて。“こんなに喜んでくれるなんて”と周囲の人が驚くほどでした」

みんなが楽しく遊べるインクルーシブ遊具を開発する過程の試行錯誤で、プロジェクトチームが驚かされたのは、一度や二度ではない。スプリング遊具UKABIの検証では、健常児は脚をバタバタさせてスプリング感を楽しむ一方、重度の障がいがある子どもたちは、UKABIの上をくるくる回って小さな振動を感じてみたり、トントンとたたきながら音を楽しむなど、自分なりの楽しみ方を見つけていた。回ったり、叩いて音を出したりするなどの遊び方は全く想定しておらず、障がいのある子どもたちは自由に遊べないと思っていたのは、単に大人の勝手な先入観であったことを思い知らされたのだそう。

「私たちは、医療的ケア児と健常の子どもたちが混ざり合って遊んでもらうために、こういう風にしたら良いのではないかといろいろ考えて、理想を形にしていくんですが、遊具ですから安全面を考慮しなければいけません。施設に持って行き実際に試してもらうと構造的な課題が出てきたり、理想と現実を上手く折衷していくのに苦労しました」

そう語ってくれたのはUKABIを担当した髙津友美氏。ともに開発に当たった堂脇由香梨氏とは、公園に行って紙の模型を使って試してみるなど、実際に使用する側の目線を重視して試作を繰り返した。

「医療的ケア児については、こんなことはできるけれど、ここまではできないだろう……というようなイメージがあったんですが、実際に施設に行ってみると驚かされることがたくさんありました。大人が思いも寄らないような遊び方をする子どもたちがいて、学ぶことが多かったです。私たちが今まで作ってきた遊具と違って、医療的ケア児が安心して遊べる、ちょっとした自分の動きが体全体で体感できるような遊具を開発するのは大変ではあったのですが、やりがいに繋がりました」(堂脇氏)

みんなが当たり前に一緒に遊べて繋がっていけるような習慣・場所作りを

さまざまな試行錯誤を経て生まれたジャクエツの「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズ。周囲の反応はどうだったのだろうか。

「医療的ケア児のいる幼稚園や保育園では、もちろん子どもたちを楽しく遊ばせたいと考えていたわけですけれども、今まではどうしていいかわからなくて、DIYで遊具を作ったり、人の力で何とかしていたんです。そんな中、我々が新しい提案をしたことによって、こんな形、こんなあり方があったんだとすごく喜んでもらえました」(田嶋氏)

「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズは、障がいがある子どもたちが、たとえば車いすに乗ったまま遊べるようにするなど、大人がサポートして遊べる環境を整えることを目指しているのではない。遊具で遊びたいけれども遊べない子どもを遊び場に取り戻し、すべての子どもたちの遊びの媒介となるような遊具のあり方を着地点としている。

「僕個人としての考え方なのですが、こういう遊具のあり方が広まっていけば、全国に2万人ほどいると言われる医療ケア児が幼稚園や公園に出て行くことができる。排除されていた子どもたちが遊び環境を取り戻すことができれば、多様な子どもたちが地域で自由に遊ぶことになり、その土地の豊かさにつながり、多様な文化が生まれるんじゃないでしょうか」(田嶋氏)

さまざまな試行錯誤を繰り返し、学びも多かったという開発チームの3人。左から田嶋氏、(ひとりおいて)髙津氏、堂脇氏

遊具の置かれた場から多様な文化が生まれる。そのためには、遊具を増やしていくなどといった空間的な課題はもちろんだが、どういう公園や幼稚園のあり方が良いのか。どんな子どもたちも安全に遊べるためのシステム作りも重要だと、田嶋氏は語った。ジャクエツが目指すのは、単なる遊具作りに留まらない。田嶋氏、そして髙津氏、堂脇氏も視線はさらに未来へ向かう。

「医療的ケア児のために作った遊具が、健常の子どもたちにとって楽しくないものではよくないと思っています。みんなが当たり前に一緒に遊べて、遊具を通じて繋がっていけるような習慣作り、場所作りをしていきたいです」(堂脇氏)

「弊社は、外で遊ぶ遊具のほかにも、室内で遊べる遊具、幼稚園などに絵本コーナーなどを作るための備品など、扱っているものは多岐にわたるので、それらにもインクルーシブの考えを取り入れた展開をしていきたいと思っています」(髙津氏)

「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズの第1弾として生まれたYURAGI、KOMORI、UKABIの3つの遊具が拡げる世界はどんなものになるのか。これからも期待して見つめていきたい。

筆者がジャクエツのインクルーシブ遊具を知ったのは、あるTV番組だった。たった10分にも満たない時間だったが、田嶋さんが出演し、どんな風に遊具を開発しているのかを体を使って説明していた。その番組も、社内で遊具開発に対して懐疑的だった人の気持ちを変えることを後押ししてくれたのだそうだ。私たちは、体が動かせない人には自分がサポートすることだけを考えがちだが、“インクルーシブ”とは、みんなが一緒に楽しむこと。今回の取材では、その原点を忘れてはいけないことを教えられた。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:ジャクエツ

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