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実話怪談の真骨頂!湿った恐怖を堪能できる、郷内心瞳『拝み屋怪談』シリーズのレビュー

ホンシェルジュ

家内安全や交通安全、安産祈願や合格祈願、地鎮祭に屋敷祓い、先祖供養にペット供養……他にも遺族のカウンセリングや冠婚葬祭に纏わるアドバイス全般など、心瞳が受ける依頼の大半は穏当なもので、その土地に根差す何でも屋としての拝み屋の素顔が見えてきます。

とはいえ、ごくまれにとんでもなく危険な依頼に当たるのも事実。

豊富な語彙と巧みな描写で紡がれる怪異は、目に映像が浮かんでくるような生々しさ。もちろん視覚だけでなく、触覚・嗅覚・聴覚・味覚と五感全てに訴えかけてくるじっとり湿った文体は、空気感を重視する和ホラーの真骨頂。

近年デビューを果たした実力派ホラー作家の中でも最恐格なのは間違いありません。

京極夏彦・三津田信三・小野不由美・澤村伊智らの仄暗く熟成された世界観や、ホラー・伝奇・ミステリーを絶妙な配分で融合した作風が好きな方はきっと気に入ります。

拝み屋怪談 怪談始末 (角川ホラー文庫)
著者郷内 心瞳 出版日

点と点が線になる快感、伏線を周到に張り巡らせたミステリー

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さて、数多く刊行されている『拝み屋怪談』シリーズの白眉といえるのが『花嫁の家』。

「語ると障りがある」として作者が公開を控えてきた本作は、それも頷けるほどの怖さ。

しかもホラーにとどまらず、周到な伏線を張り巡らせたミステリーとしても素晴らしく、終盤で次々明かされる真実に衝撃を受けました。

あえて類似作品を挙げるなら小野不由美『残穢』でしょうか。

一見無関係と思われた登場人物たちや、箸休め的に配置された別々のエピソードが有機的にリンクし、予想だにしない地平に読者を連れ去ります。その叙述トリックがきちんと物語の核心に絡んできて、ただのサプライズで終わらないのも素晴らしいです。

『花嫁の家』のキーパーソンとなるのは二人の若い女性、千草と霞。

千草は旧家の娘でシングルマザー、霞は旧家の嫁で新婚。共通項は双方ともに先祖の所業に纏わる呪いを被っていること。

好対照に配置された彼女たちの意外な接点が判明した瞬間は、驚きと納得に声を上げてしまいました。

『花嫁の家』には他にも敵味方問わずエキセントリックな個性の持ち主が多く登場し、エンターテイメントとしての完成度を高めています。

筆頭が千鳥のいとこ・芹沢真也。

言霊を込めた音波で対象の鼓膜を破る特殊能力を持った彼は、千草の実家・高鳥家に受け継がれる家宝を巡り、心瞳たちと対立します。心瞳と真也が繰り広げる丁々発止のカーチェイスは大変スリリングで、手に汗握ってしまいました。

母様の家‐拝み屋 郷内心瞳の怪異譚‐ 1 (BRIDGE COMICS)
著者[“武田 逸可”, “郷内 心瞳”] 出版日

心瞳に執着する美少女・桐島加奈江の正体とは

『拝み屋怪談』シリーズを語る上で欠かせないのが桐島加奈江。デビュー作『怪談始末』にて既に登場し、以降もたびたび心瞳の周辺に現れる、神出鬼没な美少女です。

愛妻・真弓が表のヒロインとするなら加奈江は裏のヒロイン。その正体は生きてる人間ではないことが仄めかされていました。

ネタバレすると、加奈江の正体は中学生時代にクラスで孤立していた心瞳が生み出した想像上の分身・タルパでした。

もとはチベット発祥の概念で、類義語にイマジナリーフレンドが挙げられます。しかし空想上の存在の域をでないイマジナリーフレンドとは違い、タルパは作成者と別の思考や感情・意志を持って活動し、霊的な実体すら備えるそうです。

『拝み屋怪談』シリーズは心瞳と真弓、そして加奈江の潜在的三角関係を扱ったラブストーリーでもあります。

妻を心から愛する一方で、自分が生み出した理想の少女に情が移ってしまった心瞳。タルパは年をとらない為、中学生の姿のままの加奈江が、三十路を過ぎた心瞳にちょっかいをかけ続けるのはなんとも切ないです。

心瞳と加奈江の関係は一口で説明するのが難しく、時に陥れられたかと思いきや、彼女のアドバイスで間一髪命拾いした経験もあり……いずれにせよ翻弄されてるのは間違いありません。

片や仕事に理解ある心優しい妻、片や永遠に若さと美貌を保ち続ける運命の少女。二人の間で揺れ動く心瞳の葛藤が、『拝み屋怪談』シリーズに感傷的な余韻を付与していました。

シリーズ内で十年以上の時間が経過しているため、夫婦関係の変化にも注目。

病気が原因の別居をはじめ、数々の困難に見舞われた郷内夫婦が最終的にどんな決断を下すのか、加奈江との決着はどうなるのか……気になる結末はぜひご自身の目で確かめてください。

拝み屋怪談 花嫁の家 (角川ホラー文庫)
著者郷内 心瞳 出版日
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2022年11月18日

提供元: ホンシェルジュ

 
   

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