余談ながら文庫版の表紙を担当しているのは漫画家のふみふみこ。可愛い絵柄とエグい中身の落差が表紙詐欺と話題を呼びました。
8月5日発売
— ふみふみこ (@fumifumiko23235) July 28, 2022
白井智之先生
「お前の彼女は二階で茹で死に」
文庫版の装画を描かせて頂きました。
今まで読んだことがないような衝撃作です。
ぜひご一読を。 pic.twitter.com/CfnDryyoEz
注目してほしいのはメインとなる登場人物たちのとち狂いっぷり。
赤ん坊の息子を殺された母親に開口一番「お前も愛人と母校の校庭でヤッたのか?」「なんでヤッてないんだ?マン毛を剃らなかったからか?」と聞くなど、不謹慎な言動のオンパレードはいっそ清々しいほどです。
以下、章タイトルです。
『ミミズ人間はタンクで共食い』
『アブラ人間は樹海で生け捕り』
『トカゲ人間は旅館で首無し』
『水腫れの猿は皆殺し』
一覧にするだけでヤバさが伝わりますよね?
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ちなみに『ミミズ人間はタンクで共食い』は、ミミズ人間の赤ん坊が肉食ミミズの水槽に落とされ、生きたまま食べられていました。悪趣味が過ぎます。
主人公ポジションのヒコボシからしてとても自己本位で胸糞悪い人物として書かれており、共感や同情が一切できません。自分の目的や利益の為なら関係ない人間を平気で殺し、犯人や証拠を捏造するのですから、完全に一線をこえていました。正義感や職業倫理はクソくらえ。
キーパーソン・ノエルも同様で、こちらは年中発情している強姦魔。自殺する度胸もなくずるずる生き続けた上、行く先々で女を犯しまくる最低のクズ野郎でした。
常識的で良心的な人物もいることはいますが、彼女たちにはもれなく悲惨な運命が待ち受けています。
特に救いがないのがマホマホ。彼女こそ『お前の彼女は二階で茹で死に』の悲劇のヒロインです。
初登場時からゴキブリが徘徊する暗く不潔な部屋に監禁され、食事はカニパンひときれしか与えられないマホマホ。内緒で飼っていた友達のミミズすらヒコボシに踏み潰されてしまうのですから、可哀想の一言ではすみません。その後もヒコボシはマホマホに無体な暴行を働き、あるいは恫喝し、嫌がる彼女に無理矢理推理をさせます。
この物語の世界において、マトモであることは必ずしも幸せの近道になり得ません。むしろその反対、バッドエンドへの布石なのです。
スッキリ勧善懲悪な小説を求める方には間違ってもおすすめできませんが、被虐ヒロイン……もとい可哀想で可愛い女の子に萌える読者なら、不憫すぎるマホマホの顛末にぞくぞくするような快感が得られるのではないでしょうか。
著者ふみふみこ 出版日
レイプする相手によって推理が変わる多重構造ミステリー
『お前の彼女は二階で茹で死に』のポイントは、ノエルが各章でレイプする人物により、マホマホの推理が変化するということ。
結論を述べれば、ノエルが誰がレイプをしたかは最後まで明かされません。
毎回ノエルは二人から三人以上の女性と出会い、誰をレイプするか悩んだ結果、たった一人を選びます。この「誰を選ぶか」によって、ガラリと事件の様相が変わってくる鬼畜な発想が面白い。
マホマホがヒコボシに提示するのはあくまで可能性に過ぎず、オンリーワンの正解ではありません。
ヒコボシはその選択肢から好きな方を選び、あるいはどちらも選ばず新たな証拠を捏造し、犯人を検挙していきます。真実は二の次、自分の目的最優先なのです。
しかしそこは名探偵マホマホ、彼女の推理はロジック重視で説得力抜群。ミミズ人間の体質や性質に纏わる特殊な設定を上手く活用し、異様な事件をクレバーに解剖していきます。
分岐した展開双方に一定以上のリアリティーが備わっている為、読者がより好みの方を選べるのもメリット。
一個の事件から複数の推理が生じる多重構造ミステリーでは、他にバークリーの『毒入りチョコレート事件』が傑作と名高いので、ぜひ手にとってください。
著者アントニイ・バークリー 出版日2009-11-10
『お前の彼女は二階で茹で死に』を読んだ人におすすめの本
白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』が気に入った方には、平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』をおすすめします。
こちらも白井智之作品に負けず劣らずエログロスプラッタで悪趣味炸裂。登場人物のサイコパスな言動にも磨きがかかっており、極上の狂気を堪能できました。
継父に虐待される少女と殺人鬼の出会いを描いた『無垢の祈り』は、マホマホに萌えた読者の琴線に響きます。
著者平山 夢明 出版日2009-01-08
本作の容赦ないバイオレンス描写が気に入った方には舞城王太郎をおすすめします。
女子高生のパワフルな一人称語りが痛快な『阿修羅ガール』も、『お前の彼女は二階で茹で死に』と同じく住宅街で起きた乳児殺害事件が発端となっているので、読み比べてみてはいかがでしょうか。
著者舞城 王太郎 出版日2005-04-24