本作の主人公は平安時代の高名な絵仏師・良秀。彼は醜悪な容貌とは裏腹に天才的な技術に恵まれ、数々の傑作を世間に送り出してきました。ある時良秀は主人の大殿の命令で地獄絵を描くことになり、苦渋の決断を迫られます……。
一体『地獄変』とはどんな話なのでしょうか?あらすじや魅力を解説していきます。
『地獄変』の簡単なあらすじ・登場人物を紹介
著者中島 悦次 出版日
本作は説話集『宇治拾遺物語』に収録された『絵仏師良秀』をベースに、芥川が創作した短編です。
物語の中心となるのは絵仏師・良秀。彼はとても醜く傲慢な男ですが、素晴らしい絵の腕から堀川の大殿に気に入られます。一方で良秀の描く絵には怪しい噂が付き纏い、美女の絵姿が恨み言を零す、似顔絵のモデルは魂を抜かれてしまうと恐れられていました。
良秀には溺愛している一人娘がいました。父親に似ず美しく優しい少女です。当時権勢を誇っていた貴族である堀川の大殿は娘を見初め、女房として屋敷に迎えるものの、最愛の娘を奪われた良秀はこれに憤慨し、たびたび「返せ」と陳情します。
娘もまた大殿の求愛を拒み続け、親子の板挟みになった彼はある恐ろしい企みを思い付きます。
ある時、良秀は大殿の依頼で地獄絵を描くことになります。地獄絵とは当時流行っていた地獄変相図の略で、人が往生する過程や地獄で苦しむ様子を赤裸々に描いた、猟奇的な趣向が好まれました。
広告の後にも続きます
ところが、良秀には知られざる欠点がありました。彼は実際に見たものしか描けなかったのです。
試行錯誤の末どうにか半分ほど描いたものの納得できず、良秀は「燃え上がる牛車の中で焼け死ぬ女房を描きたい」と言い出します。大殿は良秀の頼みを聞き入れ、牛車に娘を押し込めて火を放ちます。
灼熱の業火に巻かれ、豪華な着物もろとも牛車の中で焼け死ぬ娘を良秀はまんじりともせず描き写し、その異様な気迫に大殿は戦慄しました。
後日、地獄絵を描いた屏風の完成と引き換えに良秀は命を絶ちます。
芥川龍之介に共鳴する芸術家の狂気?絵に魂を売った良秀の恐ろしさ
本作の魅力はクライマックスの牛車炎上シーンと、凄まじい……あるいはおぞましいの一語に尽きる良秀の生き様に凝縮されています。
冒頭、良秀は極めて鼻持ちならない男として登場します。彼は自分の才にうぬぼれ周囲にいばりくさり、ただひとり娘にだけ心を開いていました。
2022年7月13日