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ほとんどの人が勘違いしている「スポーツマン」の本当の意味。実は「いい奴」?

パラサポWEB

これはスポーツマンが備えるべき3つの気持ちにぴったりのエピソードだ。失敗を恐れず大舞台で最高難度の技にチャレンジする「勇気」。さらに順位をさげてしまうかもしれないが、逆転を目指して挑む「覚悟」。そして試合中は本気で戦っていても、試合が終われば相手の健闘を素直に称えあえる「尊重」の気持ち。この様子は後にさまざまなメディアに感動的なシーンとして取り上げられた。

「もう一つ、私がいいなと思うのがカーリングのエピソードです。カーリングの本場であるカナダに行くと、競技施設にバーが併設されていて、勝った方が負けた方に飲み物を1杯おごるのだそうです。そして試合中に相手チームの選手と『そろそろドリンクを決めておいた方がいいわよ』『いやいや、そっちが決めておいて』といった会話をするらしいんですね。お互いを煽るわけですが、試合後に一緒に飲むというのが前提になっているのが素敵ですよね。スポーツマンにとって、相手チームの選手は憎むべき敵ではなくて、Good Gameをするために不可欠で大切なパートナーなのです」(中村氏)

だから、真のスポーツマンは相手選手やチームに「ぶっ潰してやる」などの汚い言葉は使わないし、ましてや相手が転べばいいとか、失敗すればいいなどといった姑息なことは考えない。『スポーツマンシップバイブル』には次のような一説がある。

スポーツマンシップを理解し習慣的に実践している人は、自らの能力を相手と比較しながら自らの欠落を謙虚に自覚し、真摯に努力できます。

つまりスポーツマンシップを実践することは、自ら判断して実践する主体性や、最後までやりぬく力、さらには自分以外の人を受け入れる多様性の精神といった、人生を豊かにするために不可欠なことを身につけることができると言えるのではないだろうか。

罰走からご褒美走へ

では、スポーツをすれば誰でも3つの気持ちを備えたスポーツマン=good fellowになれるかというと、残念ながら今の日本のスポーツ指導の現場には、それを阻む難しい問題があると中村氏は言う。まずその問題の1つが日本ではスポーツをすることは辛く苦しいものだという意識が定着していること。

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「あくまでも私の肌感覚ですが、スポーツが熱狂的に好きな人は日本人の3割。残りの7割はそうでもないか、スポーツが嫌いとか苦手という人。なぜそうなるのかというと、子どもの頃に、体育の授業などで負けたりうまくできなかったりすると怒られたから。あるいは、4月生まれの子と3月生まれの子では体力も違うのに、同時に同じことをやらされて、上手下手、早い遅いと絶対能力で評価されるからです。嫌いになるに決まっていますよね。さらに最近は改善されてきましたが、多くの指導者が笑うな、歯を見せるな、言われた通りにやれと、苦しいことばかり言う。もちろん、上手くなるためにはどこかのタイミングで真剣に取り組むことは必要ですが、それと歯を見せて笑うなというのは別の話です」(中村氏)

子どもは本来、体を動かすことが好きなはずだ。それがこうした指導を続けることによって、スポーツが苦手、好きではない、体をうごかすのが楽しくないとなってしまう。その典型的な例が罰走だと中村氏。

「たとえば悪いことをしたらグランド10周といった罰がありますよね。あれって走ることは苦痛だということを刷り込んでいるんです。もし逆に、100点とったらグラウンドを10周してきていいよと言うようにしたら、走ることは楽しいことになるかもしれません。この話をすると、みんな馬鹿げていると言うんですよ。でも、それこそが罰走を刷り込まれているからじゃないかと僕は思っています。

東京マラソンは1万6500円を払って42.195キロを走りたいと応募する人が40万人もいて、その中から4万人しか走ることが出来ず、残りの36万人は悔しがっているんですよ。どうしてそうなるかと言ったら大人になって、自ら走るという選択をしてみたら、木の香りがすごく心地よいとか、風の感じ方が季節によって全然違うとか、汗をかくとめちゃくちゃ頭が冴えてくるといったことに気づいた人たちがどんどんはまっていく。つまり子どもの頃の気持ちを取り戻したんですよね。小さい子どもは、やめなさいと言っても走る。小学校の廊下に“廊下は走らない”と貼り紙がしてあるのは、放っておいたら走るから。
だから罰走をやめて、ご褒美走にする。いいことをした子だけが走れて、逆に悪いことをすると罰として走れないとしてみたらどうかと思うんです」(中村氏)

確かに一見、荒唐無稽な話のようにも思えるが、これくらいドラスティックな改革をしないと、子どもたちが心からスポーツを楽しむことはできないのかもしれない。

一方的な指導で失われる主体性

さらにスポーツマンシップを身につけるのに大きな壁となっているのが日本で長く続いてきた上からの一方的な指導。指導者が考える価値観や評価を一方的に押しつけるような指導を続けていると、子どもはスポーツを嫌いになるだけでなく、主体性を育むこともできなくなると言う。

「たとえば指導者と指導される側によくあるのが『自分で考えろ!』『わかりました、考えます!』といった会話。これってすでに言われたほうは自分で考えていませんよね。『主体的になりなさい』『はい、主体的になります』となったら、もうそれは主体的ではない。主体性や自分で考える力を育むには、まず指導者がどういう言葉をかけて、子どもたち自身にどうやって気付かせるかという仕組みを考える必要があります。しかし、日本ではこれまで主体的に育てるなんていう経験をほとんどの人がしてこなかったんです。教師やコーチ、監督だけでなく親も『あれは危ない』『これはやっちゃいけない』とダメの連続。そういう教育を受けた人が親や指導者になって、同じことを繰り返す。このスパイラルをどこかで断ち切らないと主体性は育まれないと思うんです」(中村氏)

こうした問題を解決し、スポーツマンシップ教育を根付かせるために、中村氏たちがいつかぜひ実現したいと考える教育プランがあると言う。それは、義務教育の小学校1年から3年までは体育の授業をし、4年から6年まではスポーツの授業をするというもの。体育とスポーツでは何が違うのか。体育とは、基礎体力をつけるための運動のこと。運動は赤ちゃんのハイハイや、高齢者がリハビリで歩くことも含まれる身体活動を意味する。一方スポーツは、いろいろな定義があるが日本スポーツマンシップ協会では、「運動+ゲーム」と定義している。ゲームとはルールに則って競争する遊びであり、誰かに強制されるのではなく、自らが楽しむもの。

「体育からスポーツになると何が変わるのかと言うと、自分たちで決めていくという点。たとえば授業で新しいスポーツを考えてもいいと思います。自分たちで作って楽しんでみる。面白くなければ、面白くなるようにルールを変えてみる。あるいはスポーツマンシップに関する座学があってもいい。そんな風に、義務教育のうちから、自分たちで考える力を養い、スポーツマンシップを学ぶ機会を与える。決して簡単なことではないですが、それこそが、僕たちが今、やらなくてはならないことだと思うんです」

スポーツマンシップは義務ではなく、自分を高めていくためのツール

スポーツマンシップ教育を広めていくにあたり、中村氏らが気をつけていることがあると言う。それは「こうあるべき」という理論を振りかざさないということ。

「スポーツマンシップ教育は、人や社会が理想的な姿に向かっていくための、哲学的な思考を示していると思っています。しかし、だからこそスポーツマンシップハラスメントのようなことが起こりやすいとも考えています。人間ですから、理想通りに完璧に行動するなんて出来ないじゃないですか。僕だって日々欲望にまけるし、二日酔いの朝は、昨日はなんであんなに飲み過ぎたんだろうと反省もします。それでも『good fellow』でありたいとは思い続けていますし、だからこそ、それに向かって努力もする。ただ、これが義務になってそれにがんじがらめになり、人を断罪するようになってはいけないと思うんです。スポーツマンシップは、人を断罪するツールではなく、自分を高めていくもの、それぞれの中にある美学を引き出すためのツールとして使っていけたらいいなと思っています」(中村氏)

取材中、中村氏が興味深い話をしてくれた。近年、学校や地方自治体、企業などが積極的に取り組んでいるSDGsは、みんなでスポーツマンシップを発揮しようというフレーズに置き換えられるというのだ。確かに、スポーツはスポーツマンシップを発揮し、国や民族を越え、互いを尊重し、ルールに則ってフェアにプレーすることが大前提だ。世界中の人が相手を尊重し、各自が自分の頭で考えたことを勇気を持って行動し、よりよい社会を作るために全力を尽くす覚悟を持つことができたら、理想の社会に一歩近づけるのではないだろうか。


<参考図書>
『スポーツマンシップバイブル』

中村聡宏著/東洋館出版
スポーツマンシップを理解し実践できる人材を育てるということは、スポーツ界の未来を明るくするだけでなく、より良い人を育み、より良い社会づくりに繋がる――なぜいま、スポーツマンを育てなくてはならないのか。アスリートやコーチ、さらには教育者が知っておくべき心得、スポーツの神髄をまとめた一冊。

PROFILE 中村聡宏
一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事/千葉商科大学 サービス創造学部 専任講師
1973年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。印刷会社に入社し、スポーツポータルサイト「スポーツナビ」立ち上げのプロジェクトに関わるなど、広告、出版、印刷、WEB、イベントなど多分野の企画・制作・編集・運営等業務に従事。独立行政法人経済産業研究所では広瀬一郎上席研究員とともに、サッカーワールドカップ開催都市事後調査、「Jリーグ発足時の制度設計」調査研究プロジェクトなどに参画。また、スポーツビジネス界の人材開発育成を目的としたスポーツマネジメントスクール(SMS)を企画・運営、東京大学を皮切りに全国展開。2015年千葉商科大学サービス創造学部専任講師に就任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を発足し、代表理事に就任するなど、スポーツマンシップ教育を展開する。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga

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