2月に渡邊がトレードで戻ってくると知ったときには、ジャクソンJr.はすぐに連絡を入れたと言う。「彼がフェニックス(サンズ)とブルックリン(ネッツ)でKD(ケビン・デュラント)と一緒にプレーすることが好きだったのは知っている。でも僕は、彼とまたプレーできるのがうれしい」。渡邊のグリズリーズとしての「2度目」のデビュー戦を終えたあと、笑顔で話していた。
◆NBAのトップ選手も認めた渡邊雄太の存在
ジャクソンJr.がそうであったように渡邊は、NBAでかけがえのない友人をたくさん作ってきた。
例えば、トロント・ラプターズでチームメートだったパスカル・シアカム。NBAトップ級の選手である反面、チームメートだったときは、何かと渡邊にちょっかいを出してきた人懐っこい選手でもある。
渡邊がラプターズのトレーニングキャンプに初めてきたときは、2ウェイ契約としての過去2年、NBAで33試合しかプレーしていなかった。1年前にNBA王者となったラプターズは、優勝に大きく貢献したカワイ・レナ―ドこそ他チームへ移籍していたが、ラプターズのカルチャーを築いてきたシアカム、カイル・ラウリー、フレッド・バンブリートらがまだ健在で、渡邊は無保証の契約でその中に飛び込んだ。
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しかし、そんな彼らを印象づけるのに時間はかからなかった。「雄太は常にエネルギーに溢れていて、全力を尽くす。彼が最初に入ってきたとき、そういう姿にみんな感心したよ」とシアカム。ラプターズ時代はミネソタ・ティンバーウルブズのアンソニー・エドワーズのダンクをブロックしようと立ち向かったものの豪快なポスタライズダンクを決められてしまい、その映像で一躍有名になってしまった渡邊だが、「彼は恐れることなく何にでも飛びついていた。いつもチームに貢献しようとしていた。チームメートとして、いてほしい選手。最高」と話し、「僕らはいつまでも友達だ」と優しい表情を見せた。
◆後進へ道を拓いた渡邊雄太の功績
ドラフト外という立場からNBAに6年間も留まり、本人が望めば最低でも7年はプレーできた渡邊。それがどれだけ凄いことかを誰よりも知っているのは、NBAの下部組織Gリーグで3シーズンプレーし、今季はBリーグ長崎ヴェルカに所属した馬場雄大かも知れない。
NBAという「てっぺん」を目指して馬場は、「死ぬほど」努力した。自らがNBAのトレーナーと練習している中で、NBAでプレーするような選手は、誰もがそれほど真剣に取り組んでいるところを間近で見たからだ。そんな中、馬場はスリーポイント力を上げ、より力強くなり、スキルを磨いた。昨季はマーベリックスのワークアウトにも呼ばれており、「めっちゃ良かった」と言う。しかし、昇格の声はかからなかった。
「プロフェッショナルとして最高の準備をしないといけない」と厳しい日程、移動が続く中、一生懸命にやり続けた。だが、NBAへの道がなかなか開かず、焦りを感じたこともあった。「このタフな時間をいかにどう乗り切るかっていうのはあります。タフというか、メンタルがちょっとね」馬場はため息をついた。
その馬場も、「いろいろあったけど最高の6年間でした」との渡邊のX投稿に「沢山の夢や希望をありがとう!!断言できるのは、あなたの存在がなかったら今の僕はここにいません」とのコメントを入れて引用リポストした。
今年の2月NBAオールスター・ウィークエンドの開催地インディアナポリスで行われたバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(BWB)に有望な高校生として日本から選ばれた東山高校3年生の瀬川琉久は、アメリカの大学進学を目指すことを明かし、そう思ったきっかけについて、渡邊や八村から刺激を受けたことを挙げていた。渡邊がNBAでの6年間を含むアメリカでの11年でやり遂げてきたことは、馬場のような同世代から、高校生である瀬川のような次世代の確かな道しるべとなった。
◆伝えなくても実践していた恩師からのメッセージ
最後に、渡邊の恩師でもあるジョージ・ワシントン大元ヘッドコーチで現バトラー大のモーリス・ジョゼフアシスタントコーチに6年前、渡邊へのメッセージを聞いたときの言葉を記したい。
「(メッセージは)たくさんある。でも最も伝えたいことは、これから彼がプレーするのはプロであり、ビジネスが絡んでくるレベルだということ。今後サラリーキャップの問題に出くわしたり、解雇を経験したり、あちこちのチームを行き渡ったり、自分にはコントロールできないいろんなことに出くわすだろう。ビジネスの世界だから、それは仕方のないことだ。でもジムで練習したり、睡眠をしっかり取って疲れを癒したり、正しい食生活を送ったり、トレーニングしたり、自分でコントロールできることはしっかりすること。エキストラワークをし、必死になって努力し、トレーニングキャンプであれ、練習であれ、ゲームであれ、万全な状態で臨むことだ。そういうことをすることで成功が見えてくる。彼はハードワーカーだし、人間性も素晴らしい。彼のような人間は、壁にぶつかっても自分のやるべきことをやって成功できるはずだ」
崖っぷちに立たされても、いつも這い上がっていた渡邊にこの言葉を残念ながら伝える機会は最後までなかった。
しかし、ジョゼフコーチからのメッセージは、渡邊に届いていた。
それは渡邊雄太が挑み続けたNBAでの軌跡が証明している。
文=山脇明子