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妊娠すると男性ホルモンが思春期の男性並み!? アスリートが妊娠中もトレーニングを続ける理由

パラサポWEB

「女性は妊娠すると、男性ホルモンが中高生の男子並みに分泌されることがわかっています。男性ホルモンは筋肉を成長させる働きがありますから、妊娠中に適切なトレーニングをすれば、筋肉量を増やして、競技力向上につなげられるわけです。実際、アスリートの強化育成の研究が進んでいた旧東ドイツでは、女性アスリートの強化方法として妊娠が推奨されていたくらいですから」(松田)

阿部が着けていた腕時計型のウエアラブルデバイス。「交感神経と副交感神経のデータを測り、妊娠後期の睡眠の深さを確認しています」(松田)

松田医師自身は、妊娠中も妊娠前と同程度のトレーニングは可能と考えているという。ただし、妊娠を維持するために必要であり、感染防御の働きをし、早産の予防に重要な「黄体ホルモンの分泌量」、「心拍数の変化」、早産の可能性を示す「子宮口の長さ」などをチェックすることが大切という。また、お腹が大きくなってきたら足元が見えにくくなったり、うつ伏せが難しくなったりするため、個々の状況に合わせたトレーニング内容の工夫も必要だ。

なお、妊娠中のトレーニングに関する具体的な評価項目とその基準や、妊娠・出産を経験した女性アスリートの経験談といった情報は、国立科学スポーツセンター(JISS)が出している。

多くのサポートのもと雪上合宿が実現

松田医師の薫陶を受け、妊娠中も全力でトレーニングに臨む気満々だった阿部。しかし、「妊娠中ぐらいゆっくりしたら」「そんなに焦ってトレーニングする必要はあるのか」「出産で腹直筋が伸びたり骨盤がゆるんだりするなど、女性の体は変わる。出産後、頑張ればいいから妊娠中のトレーニングは不要」といった妊娠や妊婦のトレーニングに対する誤解や理解不足に直面し、歯がゆい思いをすることもたびたびだったという。

トレーニングの記録をつけたり、病院での定期健診を行ったりしたうえで出産直前まで体を動かした

その阿部をサポートしたのが、日本障害者スキー連盟だ。

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「私たちは、友里香ちゃんのように才能あふれる選手には末永く活躍していただきたいと思っています。少子化で今後、ますます選手候補が少なくなることを考えても、また、女性活躍という点においても、妊娠中も強化指定選手として活動したいという友里香ちゃんの希望を受け入れ、支えることは必要、との結論に至りました」

こう説明するのは、日本障害者スキー連盟女性チームの田原麗衣リーダーだ。もっとも大切なのは、気軽に相談できる女性スタッフの存在だろうと、まずは田原さんを中心に女性チームを発足。所属先企業に妊娠中の活動継続への理解を求めたり、JISSの指導を仰ぎながら、阿部の地元にトレーナーを派遣したり、合宿地の選定や合宿中の医療機関の調整などに奔走した。

そして、阿部は妊娠4ヵ月目の10月まで他の選手とともに強化合宿に参加。12月には阿部のために計画された雪上合宿に参加した。
「私の場合、悪阻もほとんどなく、体調がよかった。松田先生がいる病院で定期的に診察を受け、血液検査やホルモン検査などの数値を見てもらいながらトレーニングを続けました」

雪上合宿で笑顔を見せる阿部 photo provided by Abe herself

実際に、臨月の阿部のもとに派遣された渡瀬由葉トレーナーは言う。
「合宿に来る前は、アクティブな友里香ちゃんのことだから、おなかが大きくなってからも頑張りすぎてるんじゃないかな、と思っていました。だけど、強度をおさえてトレーニングしているし、友里香ちゃん自身が血圧や心拍数を測り、しっかり体調管理している様子を見て安心しました」

この日はポールウォークで約1時間歩いたあと、パーソナルトレーニングジムに向かった。平地でのローラースキーや約1時間の登山で汗を流す日もある

多くのサポートのもと、出産予定日の3日前までトレーニングを続けた阿部。とにもかくにも、今の状況で許される限りのことはやった、というすがすがしい気持ちとともに、初めての出産に臨んだ。

<【連載2】は6月9日(金)公開予定!>

阿部友里香|パラノルディックスキー

岩手県山田町生まれ。2010年バンクーバーパラリンピックをテレビで観たのがきっかけで、15歳で競技を始める。クロスカントリースキーとバイアスロンでパラリンピックに3大会連続出場。左上腕機能障がい。日立ソリューションズ所属。

text & photo by TEAM A

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