とはいえ、対戦相手もトップレベルの選手。3セットもすると、国枝が用意した戦略を破ってくるという。しかし、それも織り込み済みという国枝は、そこからが大事と力を込める。
「自分の引き出しの中に二の矢、三の矢を持っておくことがすごく大切。一つ目の引き出しは破られたけど、実はこっちもあるんだぜ、と、試合中に別の戦略を出していく。すると、相手も別の引き出しを開けて対応してくるわけです。トップレベルになるほど、引き出しの開け合いなんですよ」(国枝)
多くの引き出しを持つには、やはり練習が基本となる。
「試合で使うためのテクニックや戦略は、練習で一つひとつ築き上げていく。そうして、自分の中にたくさんの引き出しを持つようになると、一つの戦略に縛られることなく、試合中にどんどん修正できるようになる。結局、そういう選手が強いんだと思います」(国枝)
「天皇杯・皇后杯 第39回飯塚国際車いすテニス大会」の決勝戦後に行われた車いすテニスクリニック負けたときこそ、成長のチャンス
試合であれば、勝者もいれば敗者もいる。自分が負けたとき、ただ落ち込むだけではなく、悔しい気持ちをどう活かすか、ということにも話が及んだ。
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国枝は、負けたときがチャンス、と語る。
「もちろん、負けた瞬間はへこみますよ。でも、シャワーを浴びて、ビデオを分析し、敗因を明確にする。なぜ負けたかということを理解すれば、次にコートでやるべきことがわかる。だから、負けたときほど、僕はモチベーションが高くなっていました」(国枝)
パラリンピック金メダリストの国枝(左)とリードという豪華な顔ぶれリードも同意見だ。
「みんな、必ずどこかで負けます。負けたときほど学ぶチャンス。自分が負けた試合を振り返って反省し、どうしたら乗り越えられるかを考えて次に活かす。そうしたら次の試合で必ずうまくいくと信じる力が出てくるし、メンタルを鍛えることで回復力につながります。ファイティングスピリットもさらに高まって、必ず次の試合ではもっといいものができると思っています」(リード)
国枝は、勝っているときの方がモチベーションを保つのが難しい、とも明かす。
「勝ち続けていると、『次、何したらいいの?』となる。でも、負けている選手はみんな僕を目指してくるし、やることがわかっている。勝った方がやることがわからないと、いつの間にか追いつかれ、追い越されちゃう。だから、結局、勝っても負けても、やることを見つけなくちゃいけない。負けているときほうがより簡単(に課題を見つけられる)と思うと、負けたことも受け入れられるし、よりポジティブに捉えられるかなと思います」(国枝)
目を輝かせながら聞き入るジュニアプレーヤーたちに、惜しみなくアドバイスを送る国枝とリード。それも自身の経験があってこそだ。
真剣な表情で二人のアドバイスを聞く参加者たち「どうしてもウィンブルドンで勝ちたかったのに、ゴードン(リード)に1回戦で逆転負けして、結構落ち込んだ年があったんです。その後、ちょうどユニクロのイベントでロジャー・フェデラーと話をする機会があった。フェデラーは芝の帝王といわれるほど芝が得意なので、グラスコートの戦い方を質問したら、『リスクを恐れるな。攻め続けろ』と。それは、彼に聞く前から僕もそう思っていたことなんです。でも、フェデラーが言うなら間違いないと思い、決勝戦で追い込まれたときに迷わず行ったら勝てた、ということがありました。そのとき、本当に強い方からのアドバイスは、頭や心の中に残り続けて、自分を助けてくれるなと感じた。みんなにとって僕らがそういうふうになれるといいなと思っています」(国枝)
これには後日談があるという。フェデラーにこのエピソードを伝えたところ、フェデラーは、「実は、だれにでも同じアドバイスをしている。シンプルなことだが、それを活かして結果に結びつけたのは、シンゴのすごさであり、超一流の証」と言ったそうだ。
今回のイベントで二人が語ったことを、しっかりと自分のものにできた選手が、次のトップ選手として台頭してくるかもしれない。
参加した矢野蒼大さん(高校1年)は「(一緒にラリーできて)とても楽しかったですし、一緒にプレーしたことが自信になります」text & photo by TEAM A