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芸術顕彰の役割と意義とは? 文化庁『メディア芸術祭』終了によせて

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 となっている。

 同祭はこれまでにも、『バガボンド』(マンガ部門第4回大賞)や『デジタル・ガジェット 6,8,9』(アート部門第7回大賞)、『Wii Sports』(エンタメ部門第11回大賞)、『君の名は。』(アニメ部門第20回大賞)など、時代を代表する新奇性やクオリティを備えた作品を顕彰してきた。

 これらすべての部門で海外作品が受賞していることも特徴的だろう。この点は日本映画を念頭においている『文化庁映画賞』とは対照的だ。2018年に文化庁が内閣府に提出したクールジャパン政策にかんする資料(※4)で、メディア芸術祭が情報発信と人材育成の二つの項目で言及されているほか、内閣府の「クールジャパン戦略」のページにも同祭へのリンクが記載されているなど(※5)、少なくとも文化庁や内閣府は、『メディア芸術祭』を「クールジャパン」政策の一環として位置づけている節がある。

〈廃止は結論ありき? 現代における同祭の意義は再考の余地ありか〉

 こうした実績あるイベントにもかかわらず、9月14日時点でこの件を報道しているのは、筆者が確認できたかぎり大手メディアでは読売(※6)と朝日(※7)のみだ。それらも文化庁の見解と数本の受賞作をあげるのにとどまっている。もう少し踏み込んだインタビューをしているところもあるが、こちらも同祭が生み出したものや廃止による影響に対するメディア側からの見解はしめしていない(※8)。

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(※本稿を初回校正にまわした後、いくつかのメディアで続報があった。なかでも元選考委員の小田切博による「異質なものが同居する場・文化庁メディア芸術祭」(※9)は、本稿では十分に言及できなかった具体的な作品紹介を中心に、同祭の別の側面に光をあてている)

 一方、同祭になんらかの形でかかわってきたアーティストや研究者たちは、今回の決定で失われるものや報道の少なさへの苛立ちについて、SNS上で表明・考察している。

 デジタルハリウッド大客員教授で自身も参加経験のある白井暁彦は、参加時の心境を振り返りつつ、公開資料をもとに予算面での継続可能性の有無などについて詳細に分析している(※10)。推論の妥当性についての論評は避けるが、今回の決定が現場のクリエイターたちの声を反映したものでなく、官庁主導の結論ありきで進められたことは言えそうだ。

 他方、同祭で審査員を務めたこともある美術家の中澤英樹のように、発展的な改組や解消に肯定的な声もある。中澤は自身のかつての提言を再掲する形で、日本独自の概念である「メディア芸術」=複数形のメディア・アーツへの違和感を述べている(※11)。そこでは逆に従来的な観念での美術一般が排除されているが、同祭設立時には顕著だった美術一般とデジタルメディアの力関係の差が相当程度縮まったと考えられる今、こうした線引きがはたしてどこまで意味をもつのかという彼の疑問には、たしかに一考の余地がある。

〈文化庁芸術祭の贈賞も廃止 縮小する顕彰の場〉

 しかし、いま のところ、メディア芸術祭なき後の受け皿として文化庁があげているのは『芸術選奨』だ。荒木飛呂彦(第69回)や小島秀夫(第72回)などメディア芸術祭で受賞経験のある面々も選ばれているとはいえ、本制度は作品ではなく個人を対象としたものであり、たとえば今年度のメディア芸術祭のアート部門やエンタメ部門の大賞作品のようにチームで制作している場合、全員の選出はむずかしそうだ。またこれまで選出されたのはほぼ全員日本人であり、外国人アーティストをも巻き込んだ「クールジャパン」戦略の発信地としての性質は、大幅な変更を余儀なくされるだろう。

 ほかに考えられる道として、『文化庁芸術祭』への合流がある。こちらは前述の『文化庁映画賞』として離脱した映画を除き、演劇・音楽・舞踏・大衆芸能・テレビ(ドラマ)・テレビ(ドキュメンタリー)・ラジオ・レコードの各部門が設けられている。ここにメディア芸術祭の審査員やスタッフが合流すれば、幸い贈賞については両者ともに大賞・優秀賞・新人賞と共通しているので、メディア芸術祭の審査委員会推薦作品を別途くわえても大きな影響はないと思われる。今後芸術選奨は人、芸術祭は作品を対象に、新旧のアート全体をカバーするというのは、中澤のいう方向性とも合致するのではないか。

  ……と考えていたところ、その『文化庁芸術祭』まで贈賞が廃止されることになってしまった(公演など芸術祭自体は存続。※12)。あわせて『文化庁映画賞』も今年度で終了となり、少なくとも現場のクリエイターたちにとっては、来年度以降の芸術顕彰をめぐる環境が先行き不透明なまま、見切り発車を余儀なくされたかたちとなった。

 もちろん、顕彰自体は多くのアーティストにとって副次的な結果にすぎず、むしろこれまでのような「祭」をハブにした有識者と製作者、作者と観客、日本と海外といった人的ネットワークをどのように存続させるかのほうが重要な課題だ。既存の大規模なイベントとしてはメディアアートの国際的な祭典で、日本からも落合陽一などが受賞している『アルス・エレクトロニカ』や、日本を含むアジア地域で開催されるCGアート系イベントの『SIGGRAPH ASIA』などがある。

 とはいえ前者の日本支部のサイトでは、その目的として「文化・創造戦略の活動では、Ars Electoronicaの雰囲気を日本にもたらすと共に、アーティストと人々が共に未来の社会を議論するための文化的なプラットフォームを様々な場所に創り出」すことが掲げられており(※13)、国際的なスタンダードを日本に“もたらす”、あるいは日本のレベルをそこに“引き上げる”というミッションがうかがえる。

 これは日本文化をありのまま発信し、また海外からの“挑戦を受け入れる”ことで国内シーンの活性化をはかるメディア芸術祭とは立場が逆であり、相互に補完関係にはあるが一方が他方を代替するものではない。

 鑑賞者の立場では、地理的に気軽かつ多頻度でアートと触れ合える場が消失するのと同義であり、その点でも国内で安定的に開催されるメディア芸術祭関連イベントがはたしてきた役割の大きさを再認識させられる。

 今後、新規あるいは既存のイベントが部分的に代替するとしても、これまで築いてきたブランドを一から作り直す労力は小さくない。もしそれがアーティストや鑑賞者たちの声に沿ったものであれば、我々自身が積極的に認知度の向上に関与していくことも必要だろう。

〈時代とともに変容してきたメディア芸術祭を振り返るには〉

 今後、公式サイトなどもいつ閉鎖されるかわからない。同祭のこれまでの歩みを記憶しておくためのリソースも紹介しておこう。

 筆者たちもゼロ年代を中心に同人ゲームやなろう系小説、フラッシュ動画などのWebコンテンツのアーカイブを作成しているが、失われた記録のサルベージには雑誌やCD-ROMなどのアナログメディアが役立っている(※14)。『メディア芸術祭』も毎年度の目録や関連書籍を刊行しており、それらは古書店やオンラインで今でも入手可能だ。

 メインとなるのは『文化庁メディア芸術祭 受賞作品集』(文化庁メディア芸術祭実行委員会)で、kindleなど向けに第16回から第25回までが無料で公開されている(※こちらも電子書籍版は予告なく削除される可能性がある。※15)。各回400ページほどあり図版も多いが、そのぶんファイルサイズが大きいので注意されたい。

 第1回から第15回については、ダイジェスト版ではあるが『メディア芸術アーカイブス 15 YEARS OF MEDIA ARTS』(古屋蔵人ほか編、ビー・エヌ・エヌ新社、2012年)にまとめられている。こちらは草原真知子(メディアアート)やばるぼら(ネット文化)など、各分野の有識者による2012年時点での総括が掲載されており、ちょうど10年後の現在の状況と読みくらべると環境の変化がわかって面白い。

 『TOKYOメディア芸術オフィシャルガイド「文化庁メディア芸術祭20周年企画展―変える力」ガイドブック』(現代企画室、2016年)は20周年の記念号で、文化庁協力のもと先の『メディア芸術アーカイブス』と同様に過去回の振り返りや、本田翼など著名人へのインタビューを掲載している。作品だけでなく20周年記念の主催・協力イベントについてもまとめられているので(「ガンダムカフェ」や「GAME SPOT21」などの在りし日の姿も)、そうした記録の面でも重要な一冊だ。

 『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』(国書刊行会、2015年)は、2015年に国立新美術館で開催されたイベントの図録で、メディア芸術祭と直接のかかわりはないものの、『Wii Sports』のように同祭の受賞作品がとりあげられていたり、さやわかのように両方にかかわる人物がいたりする。こうしたイベントもまた、今後「メディア芸術」にかんするコミュニケーションの場として期待される。上記の図録と本書をあわせて読めば個々の作品の理解が深まるだけでなく、同時期のエンタメ・アニメ作品が官庁主導のメディア芸術祭と“館”主導の本イベントにおいてそれぞれどのように位置づけられていたのかも、より立体的に把握できるだろう。

〈おわりに〉

 文化庁メディア芸術祭は、メディアアートの上位カテゴリとしての複数形の「メディア芸術」という政策的な括りのなかで、四半世紀のあいだ手探りで発展してきた。設立当初にみられた非伝統的なアートと伝統的なそれとの社会的な評価の差が少なからず埋められた今日、一度その存在意義を問い直そうとする文化庁などの考えもかならずしも理解できないわけではない。

 しかし同祭廃止後の受け皿となる場が適切なのかが不透明な状態で、現場の意見も十分に斟酌しないままなし崩しに消滅させてしまえば、製作者・支援者・鑑賞者を失望させることは避けられない。のみならず、文化庁みずからが政策目標として掲げている「クールジャパン」戦略の推進とも矛盾することになる(※16)。

 折しも16日から26日まで、最後の「祭」がひらかれる。この機会にあらためてメディア芸術祭の意義を考えてみることは、次の一手への有効な準備と思われる。本稿で紹介した書籍なども参考に、ぜひ今一度その軌跡を辿ってみていただきたい。(向江 駿佑)

〈注釈〉
※1:「令和4年度文化庁メディア芸術祭について」 https://j-mediaarts.jp/news/r4/(2022年8月25日閲覧)
※2:「メディア芸術祭について」 https://j-mediaarts.jp/about/ (2022年8月25日閲覧) 第6回まではアートとエンターテインメントではなく、デジタルアート(ノンインタラクティブ)と同(インタラクティブ)だった。
※3:「文化庁メディア芸術祭高知展「ニューツナガル」」 https://kochi2021.j-mediaarts.jp/ (2022年8月25日閲覧)
※4:文化庁「クールジャパン推進に係る文化庁の主な取組」https://www.cao.go.jp/cool_japan/kaigi/renkeirenraku/4/pdf/siryou4-10.pdf(2022年8月29日閲覧)
※5:内閣府「クールジャパン戦略リンク集」 https://www.cao.go.jp/cool_japan/link/link.html (2022年8月29日閲覧)
※6:読売新聞「「もののけ姫」「バガボンド」も大賞受賞の文化庁メディア芸術祭、第25回で終了」 https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220825-OYT1T50183/(2022年8月25日閲覧)
※7:朝日新聞「文化庁メディア芸術祭、終了へ 今年度の作品募集せず「役割終えた」」 https://www.asahi.com/articles/ASQ8S6VTBQ8SUCVL03C.html(2022年8月25日閲覧)
※8:たとえば、ITmedia NEWS「「メディア芸術祭」が25年の歴史に幕 なぜ終了するのか文化庁に聞いた」  https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2208/25/news150.html(2022年8月25日閲覧)。
※9:https://natalie.mu/comic/column/492980
※10:白井暁彦「メディア芸術祭公募展中止、理由がわからなかったので徹底的に調べてみた。」 https://note.com/o_ob/n/nb83d7e6a2bea(2022年8月29日閲覧)
※11:https://twitter.com/nakazawahideki/status/1562883945166802944(2022年8月29日閲覧)
※12:朝日新聞「文化庁芸術祭贈賞を廃止へ」2022年8月31日。
※13:ARS ELECTRONICA JAPAN 「Cultural Initiatives」 https://ars.electronica.art/japan/jp/initiatives/cultural/(2022年8月31日閲覧)
※14:「「ゼロ世代」WEBコンテンツ保存プロジェクト」(https://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/app/newarc/news/download/17_takenaka_arc_day_2020.pdf)として2019年から継続しており、現在はこの報告時とはやや建てつけが変わっているが、データ数27,000件程度のベータ版DBを近日公開予定。
※15:文化庁メディア芸術祭「受賞作品集」https://catalog.j-mediaarts.jp
※16:朝日の記事では、公募停止の理由として「今後は国際的な発信により力を入れていく局面ではないか」と文化庁の担当者が述べているが、前述のとおり文化庁は少なくとも官邸向けにはメディア芸術祭を対外発信の主要なプラットフォームとして位置づけてきた。

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