シリーズではリストラされる呪文もあった。画像はNintendo Switch版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』より

【画像】えっ、「たいまつ」使ってる…? こちらが実は暗かったらしい『DQ8』のダンジョンの様子です

初期シリーズにのみ登場した呪文から背景を読み取る

 1986年にエニックス(現:スクウェア・エニックス)より『ドラゴンクエスト』(以下、DQ)が発売されて以来、多くのシリーズ作品が誕生しています。シリーズ内で登場した数々の呪文のなかには、初期の作品でのみ使われたものもありました。その理由について独断と偏見で考察してみます。

 初代『DQ』でのみ登場した呪文が、暗い洞窟内を明るくする「レミーラ」です。洞窟内に入るとキャラクターのいるマスだけが見える状態で、レミーラやたいまつを使わないと周囲が見えない設定でした。レミーラは、使用すると一定範囲が明るくなるのですが、時間(移動した歩数)とともにその範囲は狭まっていきます。

 その後のシリーズでは、洞窟やダンジョンのなかは明るくなっています。もしかしたら『DQ』の洞窟に登場する「まもの」は、夜目が効くか、ほとんど動かずに1か所に留まっていたのかもしれません。それ以降のシリーズでは、まものの夜目が効かなくなったのか、洞窟を明るくする必要があったのでしょう。

 たとえば『DQ2』の洞窟内に出現するまものでいえば、「やまねずみ」「おおねずみ」は手と指があるため、洞窟内のたいまつに火をつける役であったり、炎を吐く「ドラゴンフライ」、炎に覆われた「フレイム」といった火を扱えるまものが灯りを照らす役であったりと、まもののなかでも役割分担があったのかもしれません。人を襲うようなまものの世界にも、ルールが存在していると思えば、かわいらしく見えてこないでしょうか。

 また『DQ3』以降になると、炎系の呪文「メラ」が登場するので、こちらを活用して洞窟内に明かりを灯していたのだとも考えられます。

『DQ3』に登場する呪文「レムオル」も、ほかのシリーズには登場しない呪文です。この呪文は唱えると透明になる効果があります。ゲーム内で透明になる必要のある場面は、門番が見張る「エジンベア」の城にこっそり忍び込む際です。ただ「きえさりそう」でも代用できるため、レムオルが必須ではありませんでした。つまり『DQ3』の物語世界のなかですら、道具に取って代わられ、廃れゆく運命にあった呪文といえるでしょう。

 さらに時間の流れの観点からも考察すると、ロト3部作完結編である『DQ3』は時系列的に、初代『DQ』よりも前の世界が描かれています。とすると『DQ3』の時代には魔王を倒す勇者という存在がまだ世界中に知れ渡っておらず、エジンベアのように非協力的な城もあったのかもしれません。

 その後の世界では勇者の存在が知れ渡ったため、透明になってまで忍び込まないといけない場所がなくなった、とも考えられます。一部の村では旅人扱いされ、勇者だと認識されない場合もありましたが、もともと誰でも入れる村だったので問題ありませんでした。そのためレムオルの必要性がなくなったのではないでしょうか。

 また、鍵のかかった扉を開ける「アバカム」は、『DQ2』と『DQ3』にのみ登場した呪文です。時系列では『DQ3』→『DQ』→『DQ2』の順番になりますが、間の『DQ』時代だけ存在しないのはなぜなのでしょう。

 恐らく鍵の技術の進歩と、呪文の進化のいたちごっこがあったのではないでしょうか。それぞれのシリーズで登場する鍵の種類について見てみると、『DQ3』では3種類、『DQ』では1種類、『DQ2』ではアバカムが通じない「すいもんのカギ」を含む4種類の鍵が登場します。

 鍵が1種類しかない『DQ』の時代にアバカムがなかったということは、この鍵がアバカムで開錠できない鍵になっていたからだと考えられます。そこから時が経ち、人びとがアバカムの存在を忘れ、闇雲に鍵の種類を増やした結果、『DQ2』の時代には再びアバカムが使われるようになったのではないでしょうか。そう考えると、同じアバカムでも『DQ3』の時代のそれとは異なる、改良が施された呪文になっている可能性もあります。

 呪文の変遷をもとにした考察は、長く続くシリーズだからこその楽しみ方です。ゲームそのものだけでなく、背景まで楽しめるのも『DQ』の魅力なのかもしれません。

Nintendo Switch版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』:
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