「RG 機動戦士Ζガンダム MSZ-006 ゼータガンダム 1/144スケール 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)

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可変機を必要とする軍隊とは

 アニメ『機動戦士Zガンダム』は、ガンダムシリーズで初めて「変形するモビルスーツ=可変機」が登場する作品です。

 第10話でライバルでありラスボスでもある、パプテマス・シロッコが自ら開発した可変機・メッサーラで、主人公カミーユが搭乗するガンダムMK-IIや、シャアが搭乗する百式を圧倒します。メッサーラの大きさ自体が頭頂高23mと、頭頂高18.5mのガンダムMK-IIよりも一回り大きく、その高性能ぶりも含めて非常に存在感がありました。

 メッサーラは一般に試作可変モビルアーマーに分類される機体ではありますが、人型に変形して、ビームサーベルで格闘戦を行えるなど「モビルスーツ」としての性能も高く、最初期の可変モビルスーツと捉えても問題は少ないでしょう。

 宇宙世紀0087年が舞台の『Z』にはそれ以降、アッシマー、ギャプラン、サイコガンダム、サイコガンダムMK-II、ガブスレイ、バウンド・ドック、ガザC、メタス、Zガンダムと、続々と可変機が登場しています。

 数が多すぎるので、アニメ化された作品だけを取り上げますが、続編『機動戦士ガンダムZZ』でも、変形だけでなく、機体各部が変形合体するZZガンダムが主役機になるなど、可変機の活躍が印象的でした。

 宇宙世紀0092年を舞台とした『機動戦士ムーンガンダム』にも、シータプラス、リガズィード、ガザG、メドゥッサ、サイコバウといった可変機が登場します。

 しかし、宇宙世紀0093年の『逆襲のシャア』では、リ・ガズィが変形機構を簡略化したバックウェポンシステムを備えているくらいで、他のモビルスーツは変形しなくなります。

 宇宙世紀0096年の『機動戦士ガンダムUC』には、リゼル、ロト、Zプラス、デルタプラス、ガザDが登場しますが、『機動戦士ガンダムNT』(0097年)と『閃光のハサウェイ』(0105年)には新規可変機は登場せず、『機動戦士ガンダムF91』(0123年)も、過去の遺物であるガンタンクR-44に変形機構が備わるのみです。

 しかし、宇宙世紀0153年の『機動戦士Vガンダム』で、主役機VガンダムとV2ガンダム、ザンスカール帝国もゾロ、トムリアット、アビゴル、ガルグイユ、ドムットリアと、多種多様な可変機が登場するようになります。



ミノフスキークラフトが搭載されており、変形せずとも長時間飛行が可能となったΞガンダム。「『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』Ξガンダム(クスィーガンダム) 1/144スケール 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)

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なぜ可変モビルスーツは廃れた?

 なぜモビルスーツは変形するようになり、変形しなくなり、また変形するようになったのでしょうか。「おもちゃ会社の都合」ではなく、劇中の設定から考察してみます。

『Z』の劇中描写では、可変機は「移動速度を向上させたい時」と「大気圏内で長時間飛行する」際に、航空機型に変形しています。例えばZガンダムは、ウェイブライダーに変形するとスラスターノズルが全て後方に向けられることで、強力な加速が可能となります。

 劇中では不利な状況からの離脱や、味方の危機に駆けつける際には、概ね変形していました。地球上でも、変形することで他の機体よりも速く、長時間飛行しています。

 こうした変形の効用は、味方の機数が少なく「ひとつのモビルスーツが多種多様な任務に対応しなければならない時」に役立つものです。

 例えば『Z』『ZZ』時のネオ・ジオンは、量産機であるガザC、ガザD、ガ・ゾウム、バウに変形機構が備わっています(ズサも変形機と言えなくもありません)。

 可変モビルスーツの設定では「変形機構はコストが高く、整備性が悪いため、量産に向かない」と説明されることが多いです。高コストなのは確かでしょうが、ネオ・ジオンのように多数の可変機を運用した軍隊もあるわけですから、それだけが原因ではないでしょう。

 例えばZZガンダムのコストや整備性が、量産機の5倍悪くても、10倍の戦果を挙げていれば、トータルコストでは問題ないと考えることもできるわけです。

 ネオ・ジオン(アクシズ)とエゥーゴ、ティターンズに共通するのは「人的資源に乏しい」ということです。実際、一年戦争時には数百隻の艦隊と数千機のモビルスーツが戦闘を行う戦いもありましたが、『Z』以降では大規模戦闘は、ほぼ見られません。

 地球連邦軍は『Z』で描かれたエゥーゴとティターンズの内乱以前に、『0083』の観艦式への攻撃で主力艦隊の一部が消滅しています。また『ガンダムセンチネル』では、主力艦隊の反乱による同士討ちも起こっています。

 そうした損害が積み重った結果、『ZZ』の「小規模戦力の精鋭を、縦横無尽に酷使する」状況が成立していたのでしょう。ニュータイプパイロットを、歴戦のベテランの整備部隊が支える少数精鋭部隊ですから「パイロットごとにモビルスーツが異なり、変形や合体で整備性が悪そうなガンダムチーム」でも、何ら問題なく運用していたものと思われます。

 また、ネオ・ジオン(アクシズ)は、ただでも人口が少ないジオンの残党の一部が宇宙要塞アクシズに集まった勢力ですから、人的資源に乏しいはず。少ない人的資源で多方面の戦線や任務に即応する必要がある軍隊では「可変機の量産」は、一定の合理性を備えていると言えます。

『ムーンガンダム』以降の地球連邦軍で、新規の可変機が減ってきたのは「内乱が収まり、超少数の可変モビルスーツが、多様な任務に対応する必要性が減った」「戦乱の規模が小さくなり、新兵器の開発・整備リソースを抑制したい」が原因でしょう。

 ネオ・ジオンで可変機が減少したのは、経済基盤が乏しい中で、グレミーの反乱で消耗したこと。また、フラグシップ機に新技術サイコフレームを導入したこともあり、コクピット回りの設計に制約が生じたことなどが考えられます。こうしたこともあって、フラグシップ機も通常型のモビルスーツにしなければ、最低限の数も揃えられなくなってきたからでしょう(なお、可変機はバインダーなど、モビルスーツ形態では必要性が低い装備が多いため、モビルスーツとしての性能は通常型の方がいいのかもしれません)。

『閃光のハサウェイ』では、意味合いが異なると考えます。Ξ(クスィー)ガンダムやペーネロペーには、ミノフスキークラフトが搭載されており、変形せずとも長時間飛行が可能です。他の機体も最新鋭サブフライトシステム「ケッサリア」の導入もあり、大気圏内で変形をしなくても困ることが減ったのでしょう。宇宙でも、モビルスーツの制御システムが進歩し、変形せずとも同方向に推力を集中させやすくなったのだと思われます。

 そして、ペーネロペーで頭頂高26m、量産機のグスタフ・カールでも22mと、モビルスーツが大型化しすぎたことがコスト高にもつながり、『閃光のハサウェイ』以降での可変機減少につながっているのでしょう。

 その後、大型モビルスーツを製造してきたアナハイム・エレクトロニクスが、モビルスーツの小型化を進めるサナリィとのコンペに敗れた結果、モビルスーツの頭頂高は15m程度に減少します。小型機に複雑な変形機構を仕込むことは、『F91』までの技術では難しかったのでしょうし、ビーム・ローターの実用化で単独飛行が可能となったことや、可変機の多くがアナハイム製で、サナリィに変形技術のノウハウが乏しかったことも影響していると思われます。

『F91』から30年を経た『V』の時代では、小型機変形の技術的な困難はクリアされているでしょう。そして、サイド2単独で他のサイドや地球を制圧しようとするザンスカール帝国も、その圧政を連邦政府が傍観しているために、自力で対抗しようとした民兵組織リガ・ミリティアも「少ない人的資源で、多数の任務に対応」する必要があり、可変機の長所が再び注目されたのだと、筆者は考える次第です。