今年2月より「ウルトラジャンプ」で連載が開始された、荒木飛呂彦の最新作『The JOJOLands』(ザ・ジョジョランズ)。同作は『ジョジョの奇妙な冒険』の第9部にあたるが、これまでのシリーズとは決定的に違う部分がある。それは主人公となるジョディオ・ジョースターのキャラクター造形だ。

(参考:【写真】作品から飛び出してきたようなリアルさで圧巻の姿を見せる空条承太郎のフィギュア

 『The JOJOLands』は太平洋の島、ハワイを舞台として繰り広げられるストーリー。オアフ島に暮らす15才の少年、ジョディオはスタンド能力者であり、「大富豪になる」という目標を胸に抱いている。

 そしてその目標を実現するための手段として、彼は“ボス”ことメリル・メイ・チーのもとで、怪しい裏家業に手を染めているという設定だ。

 ジョディオは法律ではなく信用の「仕組み」(メカニズム)を信じており、反社会的な行為を淡々と行っていく。それによって犠牲者が出ることも厭わないようで、第1話から日本人旅行客の別荘に忍び込み、高級ダイヤモンドを強盗するというミッションを請け負っていた。

 もっとも、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズにおいてアウトローの物語が描かれるのは、今回が初めてではない。5部ではギャングスターを目指すジョルノ・ジョバァーナ、6部では刑務所の囚人である空条徐倫の活躍が描かれている。

 しかしジョルノは自身の正義を貫くギャングであり、徐倫の場合は冤罪の被害者という経緯だった。彼らはあくまで強い意志をもって正しい行いを貫徹する「黄金の精神」の持ち主であり、悪人ではない。

 歴代主人公たちと比べると、私利私欲のために悪事を働く現状のジョディオがいかに特異な存在か分かるだろう。

 とくにジョディオは第1話からためらいなくドラッグの密売を行っているのだが、ジョルノは子どもにドラッグを流すギャングを一掃することを目的としていた。こうした描写は、2人のスタンスの違いを象徴しているようにも見える。

ジョルノとジョディオに共通する要素は……

 対称的なキャラクターと言えるジョルノとジョディオだが、両者の間にとある共通点を見出すこともできる。それは“悪のカリスマ”ディオ・ブランドーとの関係性だ。

 念のため振り返っておくと、ジョルノはディオと日本人女性との間に生まれた子どもだった。そしてジョディオは血縁こそ不明だが、名前に「ディオ」の名が隠されている。

 たんなる言葉遊びではなく、ジョディオとディオはその境遇にも近いものを感じざるを得ない。第1部の序盤で、ディオは父親から「金持ちになれ」という遺言を受け、ジョースター家へと取り入る計画を画策した。

金目当ての行動からスタートする点も含めて、大富豪を目指すジョディオの姿と重なる部分があるのだ。

 とはいえディオの血族でありながら、ジョルノは他の主人公たちと同じように「善の道」を歩んでいった。それに対してジョディオがこのままディオのような生き様を見せるとすれば、シリーズで初めて「悪の道」を歩む主人公となるだろう。

 もしかすると荒木は『The JOJOLands』にて、シリーズに通底する「黄金の精神」のあり方を問い直そうとしているのかもしれない。

 善悪の基準が複雑化する現代社会にあって、『ジョジョの奇妙な冒険』の最新作はどんな景色を生み出すのか。ジョディオの物語の行く末に期待したい。

文=キットゥン希美