40年にわたる長期連載にコミックス201巻刊行と、脅威の記録を打ち立てた漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。主人公・両津勘吉は巡査長として「亀有公園前派出所」に勤めるお巡りさんだ。彼と彼の周りの人物が繰り広げるドタバタ人情劇でお馴染みだが、過去に殉職した刑事と両津の絆が描かれた「シリアス回」があったことをご存知だろうか。いつも破天荒な振る舞いで周囲を振り回す“両さん”の意外な一面が見られるエピソードをご紹介しよう。

両津勘吉はむかし交番勤務じゃなくて刑事だった!?

 殉職した刑事が描かれたのは、コミックス41巻に収録されている「両津刑事! の巻」。両津勘吉がかつて刑事をしていた頃を、大原部長が振り返るかたちで語られたエピソードだ。話は両津が20年前に刑事課にいたことを、大原部長が中川たちに語る場面から始まる。両津は今でこそやることなすことメチャクチャで、職務に対してもやる気があるのかないのかわからない人物だが、当時はガッツを買われて刑事課に所属していた。

 刑事課に配属された両津は、上司の南部刑事と組んでとある大物組長を追うことに。聞き込みや張り込みを繰り返す中で、両津は南部に刑事としての本質を教わっていく。そしてついにターゲットと遭遇した2人。組長の身柄を確保するも、組長の部下によって南部刑事は銃で撃たれてしまう。慌てて南部刑事に駆け寄る両津だが、南部の「俺にかまわずやつを追うんだ!」の声で組長を追いかけついに逮捕することに成功したのだ。

 からくも組長を逮捕した2人だが、南部刑事は銃撃された傷が原因で数日後に死亡。両津はこの事件を機に外勤を願い出て、派出所に戻ることになった。作中ではなぜ両津が外勤を希望したのかは詳しく明かされていないが、南部刑事の命日には1人で墓参りを続けていることから何か思うところがあったのは想像に難くない。

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こち亀の過去回には神回が多い!

 いつも陽気な両津に隠された悲しい過去、そしてそれを自らは語らない姿に「作中屈指の神回」と名高い本エピソード。ネット上では「南部刑事のお墓に語りかける両さんの一人称が『ワシ』じゃなくて『俺』なのすごくエモい」「いつもコメディタッチだから忘れがちだけど、警察官って死と隣り合わせの職業だもんな……」などの声が見られた。

また今回ご紹介したエピソード以外にも、「こち亀」の過去回には感動する話が多いとの声もあがっている。たとえば両津の少年時代のエピソードを描いた「おばけ煙突が消えた日」。臨時教師として赴任してきた女性教師へ抱く淡い恋心と、かつて下町のシンボルとして愛された「おばけ煙突」の思い出を描いた物語だ。ちなみに「おばけ煙突」は東京都足立区に実在した煙突である。

 ほかにもかつての優等生がヤクザになり、落ちこぼれの両さんが警察官となって再会する「浅草物語」など、懐かしさとなんとも言えない悲哀とが交差するエピソードの多い「こち亀」の過去回。殉職した南部刑事のように、過去の回想に出てくる人物たちが両津勘吉のキャラクターに深みを与えているのは間違いないだろう。ちょっとしんみりしてしまうエピソードを知ってからだと、いつものドタバタコメディがより一層輝いて見えるかもしれない。