「鳥山先生の絵は、漫画家からするとちょっとした発明のようなもの」――。そう評したのは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの作者・荒木飛呂彦である。彼の言葉通り、鳥山明の『ドラゴンボール』はバトル漫画における“発明”が数多くあった。

 しかし鳥山が“後世に与えた影響”という視点で考えてみると、『Dr.スランプ』の存在も忘れてはならない。同作の連載が始まった1980年、「週刊少年ジャンプ」には大きな革新があったという……。

 当時といえば、まだまだリアリスティックな絵柄、いわゆる劇画調の漫画が主流であった。75年~90年代あたりのヒット作を見てみると、『サーキットの狼』『ドーベルマン刑事』などに始まり、『コブラ』『北斗の拳』『魁!! 男塾』といった“男らしい”漫画が人気を博していたことが分かる。

 ゆえにハードボイルドな世界観の作品が多かった時代でもあるのだが、その中で鳥山は他の作品とは一線を画す『Dr.スランプ』を生み出した。デフォルメされたポップなキャラクターをメインとしながらも細部を緻密に描写した作風は多くの人に衝撃を与え、なんとその頃から新人賞の応募作品や新人漫画家による持ち込み作品の半分近くが“鳥山調”になったというのだ。

 もしかすると、鳥山の『Dr.スランプ』がなければ「ジャンプ」の“色”はまた違ったものになっていたかもしれない。

 そして彼のように「ジャンプ」の“色”を変え、新時代の礎を築いた偉大な漫画家は他にも……。

後世に多大な影響を与えた“黄金システム”の発明

 『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎も、次世代の漫画家に多大な影響を与えた人物だろう。同作の主人公であるモンキー・D・ルフィは、海賊でありながら行く先々で村や人々を救ってきた。

 だがルフィは決して正義のため、世界平和のために人助けをしていたわけではない。どちらかといえば、ごく単純な動機で行動を起こすことが多いのである。そんな軽快で小気味よい主人公の冒険活劇は、新人漫画家の間で一種の“黄金システム”として確立していった。当時の「ジャンプ」を知る人であれば、設定やストーリー構成がよく似た読切作品を数多く目にしていたのではないだろうか。

 余談ではあるが、『銀魂』(第361話)で新人漫画家の持ち込みがネタにされ、その中で「君以外の新人もみ~んな打ち合わせでもしたかのように同じモン描いてくるんだよ」「『ハラ減った~』から始まり一宿一飯の恩義で悪者から村を守る漫画」といった批判があったため、そこから少しずつ似たような作品は減っていったようだ。

 また尾田と同様の黄金システムを確立した人物は、最近だと『チェンソーマン』の藤本タツキが挙げられる。少し前に「JUMP新世界漫画賞」で紹介された漫画家・松井優征のコメントが大きな注目を集めていたのはご存じだろうか。

 松井は総評の中で「藤本タツキ先生の影響を受けたような一話完結のヒューマンドラマ」が多かったことを指摘していた。彼の言葉に共感する漫画ファンは少なくなかったが、それは藤本がいかに強い影響力を持っていたかの証明に他ならない。

 インパクトのある展開からキャラクターの感情や人間関係を深掘りしつつ“エモい”結末に辿り着く。藤本の作風は一話完結の読切において読者の印象に残りやすく、かつファンタジーよりヒューマンドラマとの相性が良い。漫画アプリの普及によって発表の場が多くなった現代で、この“黄金システム”を使用した作品が横行するのは必然だったのかも……。

 もちろん、彼らのように漫画史を変えるほどの影響を与えた人物は他にも数多く存在する。「ジャンプ」から離れれば、「週刊少年マガジン」でファンタジーは成功しないと言われながらも『RAVE』をヒットさせた真島ヒロ、熱血漫画が多かった「週刊少年サンデー」に“ラブコメの隕石”を降らせたと言われている高橋留美子などが挙げられるだろう。

 果たして次は、どんな漫画家が新時代の扉を開いてくれるのだろうか。