任天堂の据え置き機として、最高の販売台数を積み上げている「Nintendo Switch」

【画像】え、こんなに売れてた!? 任天堂の歴代据え置き機と販売台数(7枚)

失敗と挑戦を繰り返す、任天堂の在り方

 花札やトランプなどの製造から始まり、今や世界的な人気を博する家庭用ゲーム機やゲームソフトを広く展開している任天堂。最も新しいNintendo Switchは、全世界累計で1億2255万台もの販売台数を記録(2022年12月末時点)しており、その勢いは留まるところを知りません。

 ですが、華やかな成功があれば、その裏には数々の失敗が潜んでいるもの。成功と失敗は分岐する2択ではなく、切っても切れない表裏一体の関係です。その二面性は任天堂であっても例外ではなく、据え置きのゲーム機に絞ってもさまざまな失敗を積み重ねてきました。

 とはいえ、失敗の多くは、後に繋がる成功への布石になることも少なくありません。出口のない失敗ではなく、成功の礎となった「愛すべき失敗」たち。果たして任天堂は、どんな失敗と成功を積み重ねたのでしょうか。同社の歴代ハードから、注目したい3つのゲーム機を紹介します。

立体視に挑み続けた過程にあった「バーチャルボーイ」

 家庭用ゲーム機における表現は2Dから始まり、3Dやバーチャル・リアリティ(以下、VR)など、多彩な発展を遂げました。先月発売された「PlayStation VR2」は、VRとゲーム世界を繋げる最先端のハードとして、高い関心を集めています。

 現状の任天堂はVR方面にあまり重きを置いておらず、Nintendo SwitchにおけるVR展開といえば「Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit」くらい。このキットに対応するゲーム作品が一部あるものの、今の任天堂はVRに対して目立った動きを見せていません。

 ですが任天堂は、ゲーム表現に力を入れていないわけではなく、むしろ一歩も二歩も先に、ゲームでの立体視に取り組んでいました。古くはファミコン時代に「ファミコン3Dシステム」を提案し、当時のユーザーを大いに驚かせます。

 そして1995年に発売した「バーチャルボーイ」でも、ゲーム世界の立体表現に挑戦。本機は据え置き型ですが、ヘッドマウントディスプレイに近い形状をしており、現在のVR機器が辿(たど)り着いた合理的なデザインをこの時点で取り入れていました。

 左右にそれぞれ画面を出し、その視差でゲーム画面に奥行きを感じさせるバーチャルボーイの体験は大変に刺激的で、当時ゲームファンのみならず多くの人々が関心を寄せました。

 しかし、話題性と商業的な成功は必ずしもイコールではなく、ゲーム機として見ると販売台数はかなり控えめな結果に。発売された専用ソフトも20本に届かず、一時代を築くには至りませんでした。時代的に、「セガサターン」や初代「PlayStation」が発売された翌年だったこともあり、華々しい次世代機の活躍と比較され、失敗と判断した人も少なくありません。

 ただし任天堂は、バーチャルボーイでも挑んだ立体視への挑戦を諦めることなく続け、裸眼での立体視を携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」で実現。ゴーグルや専用の眼鏡などを必要としない手軽な立体視体験を、普及機で成し遂げました。その成功は、これまでの失敗があってこそでしょう。



Nintendo Switchに抜かれるまでは、この「Wii」が任天堂の据え置き機で最も売れていたゲーム機だった

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世界的にヒットした名機にも、失敗が潜んでいた

大きく成功するものの、コアユーザーからの賛同は得られにくかった「Wii」

 2006年に任天堂がリリースした「Wii」は、これまで苦戦が続いた状況を覆し、一躍世界的な大ヒットを遂げます。1億台以上も販売されたWiiは、幅広いユーザー層に支えられた名機であり、間違いなく成功を収めたゲーム機です。しかしその成功の裏に、細かな失敗もいくつか潜んでいました。

 Wiiの大きな特徴といえば、同梱されたコントローラーの形状もそのひとつ。TVなどのリモコンに近いデザインと操作性を採用し、普段ゲームに触れていない人でも操作しやすい直感的な取り扱いを可能としました。

 また、当時のゲーム機は大型化の一途を辿(たど)っていましたが、Wiiのサイズはかなりコンパクト。ライバル機と比べると価格も抑えめだったので手に取りやすく、カジュアル層のみならずゲームに触れてこなかった両親や祖父母なども取り込み、子供や孫と一緒に遊ぶプレイスタイルの提案に成功しました。

 新たなユーザー層の掘り起こしが功を奏し、大ヒットに繋がったWii。ですが、このスタイルがすべての層に心地よく響いたわけではありません。特に、のめり込んでプレイするゲーマー層やコア層の一部は、Wiiの方向性に賛同できませんでした。

 Wiiリモコンは、TVのリモコンのような操作を可能とした反面、TVに向けるポインター操作にせよ、傾きや動きを検知するモーションセンサーにせよ、その精度に甘さがあり、ゲーマー層からは不満が募ります。従来のような両手持ちも可能でしたが、リモコンの形状を重視した影響で持ちやすいとは言えません。

 また映像出力はHDMIに対応しておらず、AVマルチ出力端子のみ。本体性能の影響もあり、描画されるゲーム画面はライバル機より見劣りするケースも見受けられました。

 価格を抑え、誰でも操作しやすいWiiリモコンを用意し、その間口の広さでヒットを遂げたWii。ですが同時に、性能は控えめになり映像出力はHDMI非対応、本格的な操作を楽しむにはWiiリモコンだと役者不足と、ゲーマーからすれば「失敗」とも判断できる要素を抱えていたのも事実。Wiiは、成功の要因が失敗にも繋がっている、表裏一体のゲーム機だったとも言えるのです。

特徴的ながら、時代に追いつかれてしまった「Wii U」

 華やかな成功を収めつつも、コアなユーザーからは厳しい視線も集まったWii。その後継機だったWii Uは、新たなゲーム機に移行するといった習慣がないカジュアル層とうまく繋がれず、またWiiで離れていったコア層の呼び戻しにも苦労します。

 Wii Uの機能面で大きな特徴は、タブレット機能を搭載したコントローラー「Wii U GamePad」です。Wiiでは、リモコンフォーマットの操作性でカジュアル層の取り込みに成功しましたが、今後はタッチパネルを採用し、さらに直感的な操作を実現させました。

 画面を直接タッチして操作する分かりやすさは、現在広く普及しているスマートデバイスの人気ぶりを見れば疑う余地もありません。当時のWii Uが打ち出した方向性は、消費者が求める機能性と合致していたのです。

 しかし2012年12月に発売されたWii Uの躍進を阻んだ一因も、そのスマートデバイスにありました。2013年の6月に総務省が公開した「平成24年通信利用動向調査の結果」によると、2011年末時点のスマホの世帯保有状況は29.3%。持っていても不思議ではないものの、固定電話(83.8%)やガラケー(94.5%)の保有率に全く届きません。

 それが、2012年末におけるスマホの世帯保有状況となると、一気に49.5%と急激な伸びを見せました。また、翌年の調査における2013年末のデータだと62.6%まで増えており、スマホの急速な普及が窺えます。

「画面をタッチするゲーム機」という提案はWii Uの大きな強みとなるはずでしたが、それが実を結ぶよりも先にスマホが勢力を広げ、なかなか勢いに乗れません。むしろスマホと直接比較し、Wii U GamePadの大きさと重さをネックと感じた人もいました。

 据え置き機ながら2画面構成も可能という独自性もあったものの、肝心なゲーム側がこの構成を十分に活かしたとは言えず、さまざまな狙いが裏目に出た感のあるWii Uは苦戦続きのまま2017年1月に生産を終了。世界累計販売台数も1356万台で打ち止めと、残念な結末を迎えました。

 ですが、「手元に操作可能なタッチパネルを用意する」「TVを占領せずにゲームが遊べる」といったWii Uの設計思想は、後続機のNintendo Switchに受け継がれ、そうした特徴も魅力となって見事に開花。発売直後から好スタートを切り、たびたび品切れするほどの人気ゲーム機となりました。

 さらに、『マリオカート8』や『ピクミン3』、『ドンキーコング トロピカルフリーズ』に『スーパーマリオ 3Dワールド』など、Wii U向けにリリースされたタイトルたちがNintendo Switchにも登場し、最新ゲーム機の盛り上がりを大きく後押し。Wii U時代の設計思想とゲームソフトの資産が、Nintendo Switchの大きな成功の一因となったのです。

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 時に失敗も味わった任天堂は、しかしその経験を元に新たな道を模索し、その果てに成功を手にしてきました。ですが、そこをゴールとはせず、再び失敗と成功が交錯する未知の世界に飛び込みます。その飽くなき挑戦心こそが、任天堂がつかみ取った「成功」そのものなのかもしれません。