クワトロ・バジーナを名乗るシャアがジャケットに描かれる、『機動戦士Zガンダム』DVD(バンダイビジュアル)

【画像】シャアも惚れる? 美しく育ったミネバ・ラオ・ザビを見る

ミネバを巡ってハマーンに激昂したシャア

 人気アニメ『機動戦士ガンダム』の続編として、1985年に放映開始された『機動戦士Zガンダム』。エゥーゴ、ティターンズ、アクシズの3勢力(地球連邦も含めるなら4勢力)による三つ巴の複雑な抗争、主人公・カミーユのナーバスな性格や、精神崩壊してしまう結末など、衝撃的な作品でした。

『Z』は、エンディングクレジットの先頭に、本来の主人公であるカミーユを差し置いて、前作の人気キャラクターであるシャア・アズナブルの名前があることでも話題となりました。『Z』のシャアは、地球連邦軍大尉クワトロ・バジーナを名乗って、反地球連邦組織「エゥーゴ」に所属し、スペースノイド弾圧を進めるティターンズと戦います。

 エゥーゴのリーダーであるブレックスが暗殺され、シャアはエゥーゴのリーダーとなって「ジオン・ダイクンの息子であるキャスバル」「そして、ジオン軍エースであるシャア・アズナブル」として、ダカールで演説を行います。この演説の効果もあって、エゥーゴは地球連邦の正規軍的な立場となり、ティターンズと政治的立場を逆転。グリプス戦役を勝利に導きます。

 ところが、最終決戦でアクシズ(後のネオ・ジオン)のハマーンにより、乗機の百式を破壊されたシャアは、行方不明となりました。

 続編の『機動戦士ガンダムZZ』にシャアは登場せず(オープニングアニメには登場するのですが……)、作品の最後でエゥーゴに敗北したネオ・ジオンは、名目上のリーダーであるミネバ・ラオ・ザビを連邦に拘束されます。

 ところが、このミネバは影武者。本物のミネバは『ZZ』の物語中でシャアに拉致されていたのです。シャアは『機動戦士ガンダム』の後で、潜伏した宇宙要塞アクシズ内で、ハマーンと共に、ミネバの教育役をしていました。なぜ、シャアは仇であるはずのザビ家唯一の生き残りである、ミネバを拉致したのでしょうか。

 普通に考えると、シャアの行動はリスクの大きなものです。シャアの父であるジオン・ダイクンから権力を奪ったのが、ミネバのザビ家ですが、その娘を自分が立ちあげたネオ・ジオン(ハマーンのネオ・ジオンとは同名ですが別組織)で保護すれば、部下にザビ家を信奉する反乱勢力がいた場合に、その旗頭になりかねないからです。

 シャアの心情はエゥーゴからの使者として、ハマーンと対峙した際のセリフに現れています。シャアはジオン至上主義を語るミネバの姿を見て、ハマーンに「よくもミネバをこうも育ててくれた! 偏見の塊の人間を育てて、何とするか!」と怒りをぶつけます。

 ハマーンからすれば「勝手に出て行った元夫に、娘の教育方針で説教された」ような気分でしょうが、シャアにとってミネバは仇の一族ではなく、自分の家族のような存在なのでしょう。

『ZZ』でミネバを誘拐するのは、ミネバの後見人の地位にあったハマーンの正統性を破壊し、ミネバを再教育するためだと考えられます。シャアの教育がよかったのか、『UC』での成長したミネバは、聡明で意志が強い少女に成長します。「偏見の塊」となる教育を受けていたのに、聡明に育つということは、地頭がよかったのでしょう。

 シャアは「人に期待するところ」が強い性格です。期待したカミーユが精神崩壊したことで、失望したのかエゥーゴのリーダーをやめてしまうほどなので、自分が幼少期で教育したミネバの聡明さを感じており、将来に期待していたと見られます。

 ミネバの側もシャアのクローン的存在であるフル・フロンタルに「(シャアは)お前のような空っぽの人間ではなかった」と論評するほどなので、シャアへの信頼感はあったのでしょう。

 そんなシャアが、ミネバを拉致した目的は「ダイクン家とザビ家の統合」にあるのだと考えます。ミネバを妻として迎えれば、ふたつに分かれたジオンはひとつになるからです。

 ミネバが成人(18歳)した時に、シャアが生きていれば38歳。年の差があり過ぎますが、シャアは「大佐はロリコン」とギュネイに言われるような人物ですし(マンガ『機動戦士ガンダム MSV-Rジョニー・ライデンの帰還』では「シャアはロリコンではなく、周囲に家族を求めるファミリーコンプレックス」とシャアを支えるエンジニア・アルレットが指摘していることは、申し添えます)、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で戦死するまで、恋人や愛人はいても、妻は迎えていません。

 エースパイロットなのに、なぜかミネバの教育役をし、ミネバの教育方針に立腹しているところを考えても「最初から妻に迎えるつもりだったのではないか」とすら思えます。

 聡明で意志が強い『UC』のミネバは「間違えた自分を叱責してくれる、母」を求めるシャアの理想のような人物でしょうし、ミネバは聡明ゆえに「シャアの妻になることの、政治的な意味」を理解するでしょうから、シャアが生きていれば、結婚したかもしれません。

 もしこの推論が当たっているのであれば、『逆襲のシャア』でシャアが戦死して、ミネバがバナージと出会ったことは、色々な意味でよかったのではないかと思えます。