ファミコン版『ドラゴンクエストIII』公式ガイドブック書影

【画像】スライムの裏設定がおもしろい! 「ドラクエ」関連書籍たち(6枚)

ゲーム本編が倍楽しくなる!

 1980年代後半。エニックス(現 スクウェア・エニックス)がファミコンで「ドラゴンクエスト」シリーズを続々とリリースして当時のゲーム少年たちを夢中にさせる一方で、ゲームプレイをより一層楽しいものにする「ドラクエ」関連書籍も数多く出版されました。

武器防具のデザインにワクワクした「公式ガイド」

 最初に振り返るのは「公式ガイドブック」シリーズです。ファミコンで『ドラゴンクエストIII』が発売された1988年に、『III』→『II』→初代『ドラクエ』の順で相次いで発売されました。初代『ドラクエ』は黒、『II』は青、『III』は赤…とそれぞれのゲームのパッケージデザインにちなんだカラーをあしらった色使いや、3冊そろえて横に並べると「ロトの剣」のイラストがひとつなぎになるデザインにシビれました。

 筆者が一番楽しく読んでいたのは全武器・防具の紹介です。ひとつひとつの武器・防具にきっちりイラストが添えられており「こういう見た目なのか!」と何度も何度も読み返していました。そうしたデザインは今も多くが踏襲されており、武器や防具の見た目をゲーム中で確認できる『ドラクエIX』、『X』、『XI』などに活用されています。

ゴーレムのけなげさに感動!「モンスター物語」

 モンスターたちにスポットを当てて来歴や日常などを描くオムニバス形式のサイドストーリー集で、「ドラゴンクエスト モンスター物語」、「ドラゴンクエストIV モンスター物語」の2冊が発売されました。

「ドラゴンクエスト モンスター物語」で印象に残っているのは「メルキドの守護神ゴーレム」です。ゴーレムはメルキドの町を竜王の軍勢から守るために人間が生み出した存在でしたが、竜王軍が投入した「きめんどうし」からメダパニの呪文を受けて混乱してしまいます。

 しかし、町を侵入者から守るという本来の命令を守る気持ちも残っていたため、「町に入ろうとするものは、人でも魔物でも片っ端から倒そうとする」存在になってしまった…という初代『ドラクエ』の前日譚となっていました。

 そして本書籍で一番の存在感を発揮するのが「スライム年代記」です。安住の地を求めて旅をするスライムたちが、行く先々でさまざまな苦難に見舞われてバブルスライムやホイミスライム、メタルスライムなどにさまざまな進化(?)を遂げていく過程がコミカルかつ壮大に描かれました。

「けんじゃのいし」の真実にビックリ!「アイテム物語」

 前述の「モンスター物語」と同じコンセプトで、特定のアイテムを主題としたエピソードが描かれるサイドストーリー集です。

「大不況 ゴールドカードの誕生」は、平和な時代が長く続いたゆえに、皮肉にも大不況に見舞われてしまった商人たちの物語。彼らは知恵を出し合い、新たな需要を生み出す起死回生の一手として全国展開の「ふくびき」と、目玉景品である恒久割引券の「ゴールドカード」を思いつくのでした。ちなみに筆者は『ドラクエII』でゴールドカードを当てたことがありません。

 読者を一番驚かせたのは「賢者の石の謎」でしょう。『ドラクエIII』の勇者が残した、使用者たちの体力を瞬く間に回復する「けんじゃのいし」。青く輝く石のどこにそんな力があるのか研究に研究を重ねた学者たちは、ついにその謎を解き明かします。すると石のなかからは「ホイミン」の愛称で知られるあのモンスターが大量に飛び出してきて……? シリーズファンにはおなじみの重要アイテムが、かわいらしく見えてくるエピソードでした。



コミック「ドラゴンクエストへの道」書影

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名作の裏にドラマあり!コミック「ドラゴンクエストへの道」

名作の裏にドラマあり!コミック「ドラゴンクエストへの道」

 堀井雄二氏、中村光一氏、鳥山明氏、そして故・すぎやまこういち氏らがどのような経緯で集い、そして『ドラゴンクエスト』を生み出すに至ったかを描くドキュメンタリー風コミックです。

 ゲームスタート直後に主人公を王の間に閉じ込めることで、スムーズに「はなす」や「とびら」コマンドの用途を知ってもらうお手本のようなチュートリアルが生まれるまでや、「このままでは子供たちに楽しんでもらえるゲームにならない!」と当初の納期を踏み倒してまでバランス調整に苦心し続けるスタッフの姿など、今読んでも楽しめる作品です。

 ラストは少し時代が飛び、『ドラクエIII』を完成させた打ち上げを終えて帰途につくスタッフたちの姿が描かれます。「このシリーズはどこまで続くかな」、「スター・ウォーズのように続いたりしてね」と夜空を見上げながら軽口を叩き合う姿は、今あらためて見るととてもエモいです。いまや『ドラクエ』は、『スター・ウォーズ』のスカイウォーカー・サーガ9作品をしのぐ11作品がリリースされました。

歴史に埋もれた伝説がここに!「知られざる伝説」シリーズ

 シリーズに登場するさまざまなキャラにスポットを当てたサイドストーリー集で、全4冊が発売されました。筆者が一番好きなのは『ドラクエIV』をフィーチャーした「ドラゴンクエストIV 知られざる伝説」です。

「天空」装備を身にまとってアネイルの町を守り続け、そして魔王軍との激戦に散った悲劇の青年リバストを描く「アネイル攻防戦」、戦士ライアンとどのような経緯で別れ、そして人間になれたのかを描く「ホイミンの夢」、魔王軍を偵察するスパイでありながらロザリーの優しさに心打たれ、集落の存在を記した報告書をそっと火にくべて定住を決める「ロザリーヒルの老人」など、心を揺さぶられるエピソードが目白押しでした。

 コミカル色の強いエピソードもありますが、ほんのりとした悲しみに彩られた話が多いのは『ドラクエIV』自体がそういう物語だったからかもしれませんね。

読んだらゲームを再プレイ!小説シリーズ

 トリを飾るのは、1989年から刊行が始まった小説シリーズです。『VI』までのハードカバー版と文庫版はイラストレーターのいのまたむつみさんが表紙と挿絵を手がけており、耽美さすら感じられるキャラクターたちの姿はオリジナルデザインと異なる魅力を提供してくれました。

 ゲームのストーリーをベースにしつつ小説オリジナルキャラクターの登場や独自の展開なども随所に見られました。「小説ドラゴンクエストII」を例に挙げると、「ルプガナの町でモンスターに襲われている少女」に名前や設定が与えられてサマルトリアの王子コナンといい感じの仲になったり、稲妻の剣に宿る力を使ってロトの剣に往年の輝きを取り戻させるシーンなどがありました。全部読み終えたら、小説の主人公と同じ名前にしてゲームを最初からプレイし直すのが筆者の通例でした。

 初代『ドラクエ』が発売されたファミコン以来の家庭用ゲーム機の発展は日進月歩。やがてゲームのみでボリュームのある物語を楽しめるようになり、こうした書籍は少しずつ役目を終えていきました。とはいえ、当時の「関連書籍を読みふける」行為も、これはこれで楽しかったなと思います。