姉畑支遁先生の奮闘を描いたOVAのパッケージ(23巻同梱版特典)『支遁動物記』(集英社)

【画像】OVAも見逃せない『ゴールデンカムイ』単行本(6枚)

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう、「親分と姫」のエピソード

「週刊ヤングジャンプ」でに連載された人気マンガで、TVアニメも三期まで放送されている『ゴールデンカムイ』ですが、アニメ化されていない部分も存在します。いくつかのエピソードはカットされたままですが、後にコミックスにDVDで同梱される形でOVA化されたものもありました。今回は、数多くの変態が登場する『ゴールデンカムイ』のなかでも、特に強烈な珠玉のエピソードのOVAを紹介します。

ヤクザ同士の純愛が衝撃「モンスター(親分と姫)」編

「モンスター編(親分と姫)」は単行本19巻に同梱する形でアニメ化されたエピソードで、原作の63話から69話が該当します。アシリパ(リは小文字)さんの大叔母の家に伝わる花嫁衣装を取り戻すため、アメリカ人牧場主・エディー・ダンに協力して、「モンスター」と呼ばれるヒグマを退治することになった杉元たち。しかし、ヒグマが巣食う森に乗り込んだ杉元たちは3頭のヒグマに追われ、やむなく農家へと逃げ込みます。

 そこで出会ったのが、若山輝一郎(わかやまきいちろう)と仲沢達弥(なかざわたつや)でした。実はこのふたり、キロランケが競馬で八百長の指示を無視し博打で大損をしたために後を追ってきたヤクザであり、親分の若山は素性を怪しんだ杉元に長ドスで襲いかかります。切りかかる瞬間は別の方向を見ているのか、それとも目をつぶっているのか、どちらとも取れるような描写となっているにも関わらず、鋭い太刀筋、見事な構えを見せてくれるのが印象的なシーンです。

 その後、ヒグマの脅威に晒されるなか、次第に人間同士で共闘せざるを得ない状況に追い込まれ、二転三転のあげくに若山と仲沢は死亡。それまでに両者の真の関係が明らかになる一連のシーンは、筆者もリアルにお茶を噴き出してしまうほどの衝撃がありました。そして、最後は美しい「純愛」を見せています。

 難波日登志(三條なみみ)監督のインタビューによると、TVアニメ化の際には話数の都合上カットされたようですが、後にOVA化されたのは1ファンとして感謝したいです。若山役が銀河万丈さん、仲沢役が田中秀幸さんという豪華キャストとなり、話題を呼びました。

白石の過去が明らかに「恋をしたから脱獄することにした」編

 杉元たち一行のコメディリリーフでもある脱獄王・白石由竹の過去エピソードは、単行本17巻に同梱される形でアニメ化されました。原作では、9巻に収録された84話から85話に該当します。

 白石は赤子のころに寺に捨てられ、少年のころから素行不良で、幼年監獄(現在の少年院)に収監されるたびに脱走を繰り返していたため、成人後も常に脱獄を警戒される存在でした。

 明治維新後の内乱によって、国事犯(政治犯)が激増したために建設された樺戸集治監(後の樺戸監獄)に収監されていた白石。彼は紙幣偽造の罪で捕えられている贋作のプロ・熊岸長庵(くまぎしちょうあん)と出会い、長庵が描いた「シスター宮沢」の絵を見ているうちに、彼女に恋をしてしまいます。そして、白石はどこかの監獄で奉仕活動をしているはずのシスターに会うため、日本各地の監獄に収監されては情報を集め、脱獄を繰り返し、いつしか「脱獄王」の異名で呼ばれるようになりました。そしてついに、シスター宮沢を見つけ出した白石でしたが、彼が目にしたのは……。

 同エピソードは白石の掘り下げには重要ですが、直接本編に絡める必要はないため、カットされたものと思われます。彼の凄すぎる脱獄テクも次々披露されるので、白石ファンにとっては、うれしいアニメ化だったのではないでしょうか。



『支遁動物記』同梱の『ゴールデンカムイ』23巻(集英社)

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驚異の「ウコチャヌプコロ」エピソード

姉畑先生が見せた生きざまに感動?「支遁動物記」編

 個性豊かな変態たちが多数登場する『ゴールデンカムイ』ですが、なかでも1、2を争う変態が、刺青囚人のひとり・姉畑支遁(あねはた・しとん)です。連載時から「TVアニメ化は無理だろう」とささやかれており、実際にカットされた際には難波監督が、「動物を強姦したり虐殺する描写があるためアニメ化はNG」と直接メッセージを出しました。それに対し、カットを残念がる声よりも、納得する声の方が大きかったほど、姉畑先生は変態として強い印象を残しています。単行本23巻に同梱されたDVDに収録されていますが、よくこれをアニメ化できたものだと心底思います。

 単行本では11巻の108話から12巻の113話まで登場する姉畑支遁は、動植物をこよなく愛する自称動物学者の刺青脱獄囚です。極めて特殊な性癖を持っており、作中では若いエゾシカの雄をウコチャヌプコロ(プとロは小文字)してから殺害、木の洞とウコチャヌプコロして嫌悪感のあまり切り倒そうとするなど、常軌を逸した行動を見せています。

 そんな姉畑の究極の目標は、北海道最強の猛獣であるヒグマとのウコチャヌプコロ。まず実現不可能、仮に成功したとしても死は免れない夢を叶えるため、姉畑はヒグマのメスのオソマを全身に塗りたくり、ヒグマへの接近を試みます。そして、姉畑に死なれては刺青を手に入れられない杉元たちが乱入してヒグマと戦い始めた隙をつき、姉畑はついに本懐を遂げるのです。人とヒグマがウコチャヌプコロするという信じられない光景に、杉元も思わず「やりやがった!!」と叫び、拳を大地に叩きつけます。しかしこのときすでに、姉畑の身には異変が起こっていたのです……。

 アニメでは姉畑支遁の声を、ベテラン声優である堀秀行さんが演じています。マンガでしか見ていない方は、堀さんの熱演が光る姉畑先生の姿を見てみるのはいかがでしょうか。よりすごいものを見た気分になれるかもしれません。

 その他、OVAでは土方&永倉vs尾形の戦いを描いた「茨戸の用心棒」編(15巻同梱)や、ミニエピソード「恐怖の猛毒大死闘!北海道奥地に巨大蛇は存在した!」(白石エピソードと同じ17巻同梱)「怪奇!謎の巨大鳥」(15巻同梱)も見ることができます。