修行をするシッダルタ(ブッダ)が描かれた、手塚治虫の『ブッダ』第6巻(手塚プロダクション)

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「疫病」は身分を区別しない

『火の鳥』や『ブラックジャック』など、手塚治虫作品には人の生と死を描く名作が数多く残されています。そのなかでも特に「生きることの意味」や「死との向き合い方」が色濃く描かれたのが『ブッダ』です。シャカ族の王子として生まれたシッダルタが、世のなかの苦しむ人びとを救う道……悟りを開くためにあらゆる苦行や苦悩に立ち向かい、ブッダ(目覚めた人)となって生きる姿が描かれています。

 今回は、同作に登場するシッダルタ(ブッダ)の名言をご紹介します。そこには、いじめ、差別、死との向き合い方など、現代にも通じる部分が多くありました。

「世界が滅びるかどうか気にしているうちに僕は死んでしまう」

 これは若き日のシッダルタが、悟りを開くための修行の旅に出ようとしていたときに言ったセリフです。「なぜ、わざわざ王族の身分を捨ててまで世界を救いたいと思うのか?」と聞かれたシッダルタはこう答えました。

「バラモン(司祭)もクシャトリア(王族・貴族)もバイシャ(市民)もスードラ(奴隷)もみんないずれは死ぬ!」「疫病はバラモンとスードラと身分を区別するだろうか?」「世界が滅びるかどうか気にしているうちにぼくは死んでしまう だからこそ生きているうちに……やりとげなくてはならないんだ」と。

 身分に関係なく死は平等にやって来る。限りある時間を何かを心配することに使うのではなく、少しでも自分の使命を全うするために使いたいという強い決意が込められたセリフでした。

「ひとりを生きながらえさせるのはとうとい百万人になる」

 これは、アヒンサーという何百人も人殺しをしてきた盗賊の男が最期を迎える前にブッダが掛けた言葉です。洞窟の穴に落ちてしまい、その中で窒息しそうになるアヒンサー。死を前にした彼はブッダに「おれァ死ぬのか? 死ぬって苦しいのか?」と救いの言葉を求めます。

 するとブッダは「お前はいままでに何百人も殺したという だが一度ぐらいなさけをかけてやったことはないか?」と聞きます。「一人だけ赤ん坊を見逃したことがある」と答えるアヒンサー。

 それに対しブッダは「それだけでお前は大きな善をほどこしたのだ なぜならその子は無事に育ち子孫を増やすことができるだろう」「百人殺すのはよくない だがな ひとりを生きながらえさせるのはとうとい百万人になるからな……」

 アヒンサーの行いはもちろん許されることではありませんが、ブッダの言葉でアヒンサーは死ぬ間際に改心をするのでした。



最後まで人びとを救う旅を続けたブッダ。画像は手塚治虫の『ブッダ』第13巻(手塚プロダクション)

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ブッダが説いた死への向き合い方とは?

 マンガ『ブッダ』に登場する名言。「いじめ」「SDGs」「死への向き合い方」など、最近よく聞かれるワードと通ずるようなセリフも多くあります。

「どんな小さなことでも原因があればかならず結果が生まれる」

 これは、国を支配され迫害を受けるシャカ族の人びとと、そのシャカ族に迫害を行っていたコーサラ国の人びとの、両方に対して言ったセリフです。シャカ族に対しては、これまで豊かな生活をいいことに毎日酒盛りと踊りに明け暮れた日々を送っていたことが、他国に支配される原因になったのだと戒める意味でブッダは言いました。

 そしてコーサラ国に対しては「いま みなさんは思うがままにシャカ族を迫害している……これが将来どんな結果を生むか……それをおそれなさい!!」と強く警告する意味で言いました。

 ひどい仕打ちを他人にすれば、その者に因果となって返る。「いじめ」問題がなくならない現代でも考えさせられる言葉です。

「人間もこの自然の中にあるからにはちゃんと意味があって生きてる」

 これはピッパラの樹の下で、シッダルタがヤタラという男に対して言った言葉です。「なんで人間はこの世に生まれるのか?」と問うヤタラに対して、シッダルタは「木や草や山や川がそこにあるように人間もこの自然の中にあるからにはちゃんと意味があって生きてるのだ あらゆるものとつながりを持って そのつながりの中でお前は大事な役目をしているのだよ」と答えます。

 これは、自らも悩みながら人が生きる意味を探していたシッダルタから無意識に出たセリフとして描かれています。この言葉をキッカケにシッダルタは悟りを開き、ブッダ(目覚めた人)となったのでした。

 最近「SDGs」という言葉がよく使われるようになりましたが、まさにこの言葉に通じるところがあるように思われます。

「木は何もできない だからいさぎよく切られる日を待つだろう」

 これは、死が近づいていることを予言され、その日が来ることに怯えていたマガダ国の王・ビンビサーラに対してブッダが言ったセリフです。

「死を待つ恐怖の苦しみをどうしたらなくせるのか?」と問うビンビサーラに、ブッダは「木になりなさい 木になったと思い込むのです」と答えます。

 ブッダ曰く、木は欲を持たず、わめいたり泣いたりすることもない。いつかは枯れるか切られてしまう運命だが「木は何もできない だからいさぎよく切られる日を待つだろう」「あなたも逃げられない運命なら勇気だ 覚悟だ 正しい行動だ 正しい生活で……その日を待つのです!」と諭すのでした。

 いろいろなセリフを断片的に紹介しましたが、マンガ『ブッダ』の魅力は、シッダルタ(ブッダ)や周りに登場する人物たちの生き方にあります。完全無欠の完璧超人ではなく、常に悩み苦しみながら前へと進むシッダルタ(ブッダ)の姿には、むしろ我々と同じ人間らしい強さと弱さを感じさせてくれます。ぜひまだ読んだことのない方はぜひ一度、本を手に取ってみてはいかがでしょうか。