著:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第19巻(集英社)

【画像】蛇柱・伊黒小芭内の毒舌被害者たち

「信用しない」「死ぬまで戦え」キツすぎる蛇柱の言葉のワケ

『鬼滅の刃』に登場する「柱」のひとり、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)。「柱合会議」で初登場した伊黒は、炭治郎に対してひどい言葉をぶつけます。間もなくアニメ放送が開始される「遊郭編」でも、彼の毒舌が聞けるかもしれません。伊黒の放った厳しい言葉から、口が悪い理由が見えてきます。

※この記事では、まだアニメ化されていないシーンの記載があります。原作マンガを未読の方はご注意ください。

「信用しない」を繰り返す

 柱合会議で、鬼となった禰豆子を連れている炭治郎にきつく当たる伊黒。まず「どう処分する どう責任をとらせる どんな目に遭わせてやろうか」とネチネチ追求してきます。炭治郎が「人を喰ったことはないんです」と禰豆子をかばっても、伊黒は考えを曲げませんでした。

「くだらない妄言を吐き散らすな そもそも身内なら庇って当たり前 言うこと全て信用できない 俺は信用しない」

 お館様が炭治郎と禰豆子を容認していると聞いても、伊黒は態度を変えません。

「信用しない 信用しない そもそも鬼は大嫌いだ」

 このシーンで伊黒は3回も「信用しない」と言っています。恋柱・甘露寺蜜璃には「しつこくて素敵」に見えるようですが……。

上弦の鬼と戦い、瀕死の状態でも厳しい

 次に、伊黒が登場するのは上弦の陸を倒したあとです。左目と左腕を失い、禰豆子の血鬼術がなければ死んでいたほど傷ついた音柱・宇髄天元に向かって、伊黒はいやみを言います。

「ふぅん そうか ふぅん 陸(ろく)ね 一番下だ 上弦の 陸とはいえ上弦を倒したわけだ実にめでたいことだな 陸だがな」

「褒めてやってもいい」とも言っていますが、そのコマの伊黒はちっとも褒めているように見えません。しかも、炭治郎や天元が瀕死の重傷を負ってようやく倒した上弦の鬼にたいして、「たかが」と言い放ちます。

 さすがに引退すると言った天元に、伊黒は「許さない」と答えました。炎柱・煉獄杏寿郎亡きあと、さらに天元まで抜ければ鬼殺隊の戦力は大きく落ちてしまいます。

「お前程度でもいないよりはマシだ 死ぬまで戦え」

 天元の妻たちは来るのが遅すぎた伊黒に猛抗議しますが、返ってきた言葉はやはりキツイものでした。

柱稽古で鬼殺隊士への理不尽な罪状

 鬼舞辻無惨に挑むため、鬼殺隊は「柱稽古」を始めます。「柱稽古」は、柱がそれぞれ鬼殺隊隊員を鍛え上げるというもの。なかでも伊黒の稽古は精神をやられるものでした。

 なにしろ、道場のあちこちに縛られた鬼殺隊隊員がいます。その隊員を避けながら攻撃する、というのが伊黒の稽古です。あまりの光景に、炭治郎はなぜ隊員が縛られているのか問います。伊黒は4つの罪状を挙げました。

「弱い罪 覚えない罪 手間をとらせる罪 イラつかせる罪という所だ」

 最後の「イラつかせる罪」はただの言いがかりです。いくら無惨や上弦の鬼と戦う為に鍛えるといっても、伊黒をイライラさせただけで縛られたり仲間の太刀で叩かれたりするのは理不尽です。とはいえ、伊黒なりに無惨に対抗する戦力を鍛え上げる意図もあったのかもしれません。

鬼を憎み、自分自身も憎んでしまう生い立ち

 伊黒のネチネチした言葉は、鬼を倒すために放たれたことが多いようです。伊黒は生い立ちから、人一倍鬼を憎んでいます。

 伊黒家の人々は、鬼を利用してぜいたくをしていました。蛇の鬼が人を襲って奪った金をもらう代わりに、自分たちが産んだ赤子をエサとして渡していたのです。伊黒はそんな一族に産まれた370年ぶりの男の子でした。珍しがられた伊黒は、座敷牢で大きくなるまで育てられます。12歳の時、伊黒はその事実を知ります。

 信じられるのは、迷い込んできた蛇の鏑丸だけ。伊黒は盗んだかんざしで座敷牢の格子を削り、逃げ出したところを当時の炎柱に救われました。炎柱は蛇の鬼も倒し、生き残ったいとこを合わせてくれました。しかし、いとこが伊黒に言ったのは、お礼ではなく呪いの言葉でした。

「あんたが逃げたせいでみんな殺されたのよ!! 五十人死んだわ あんたが殺したのよ 生贄のくせに!! 大人しく喰われてりゃ良かったのに!!」

 伊黒は、自分が逃げたら親族が殺される可能性もあると分かっていました。それでも逃げた自分を、伊黒はクズだとさげすみました。伊黒の毒舌は、鬼へ向けたやり場のない怒りそのものだったのでしょう。

※禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正しい表記