著:吾峠呼世晴 『鬼滅の刃』第22巻(集英社)

【画像】猗窩座殿の特徴的なカラーリングが素敵! 実用的な『鬼滅』グッズ(5枚)

冷酷で非情な無惨が特別扱いした鬼の特徴は…?

『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨は、1000年以上生き続けている鬼の始祖です。自分の血を分け与えて鬼を生み出していましたが、仲間づくりを楽しんでいたわけではありません。鬼化しても太陽で死なない体質の人間を探すためであり、彼自身、「増やしたくもない 同類を 増やし続けたのだ」と言っています。

 とはいっても、作り出した鬼のなかには、ごく一部ですが、お気に入りもいたようです。この記事では、「パワハラ会議」など、自分の血を分けた鬼たちにも冷酷非情極まりない無惨が特別扱いしていた鬼たちをご紹介します。

※この記事では、まだアニメ化されていないシーンの記載があります。原作マンガを未読の方はご注意ください。

似た境遇に同情した? 下弦の伍・累

 下弦の伍・累(るい)は、父、母、兄、姉とともに那田蜘蛛山 (なたぐもやま)に巣食っていました。とはいっても彼らは疑似家族であり、父、母、兄、姉の役割を演じる鬼たちを累が力で支配していたのです。

 本来、鬼たちは共喰いをするため、群れることができません。これは、鬼たちが束になって自分に襲いかかってこないように無惨がコントロールしているせいだといいます。にもかかわらず、累は家族で暮らし、彼らに自分と同じ蜘蛛の能力を分け与えてもいました。このことについて累の姉役だった鬼は「累は あの方のお気に入りだったから そういうことも許されていた」と回想しており、累が無惨のお気に入りだったことは周知の事実だったようです。

 なぜ、累が無惨のお気に入りだったのでしょう。

 鬼になる前の累は生まれつき体が弱く、走ることはおろか歩くことすら苦しいほどだったといいます。そんな彼のもとに現れたのが無惨です。無惨は累を鬼にし、日光に当たれず、人間を喰らうようになることと引き換えに強い体を与えました。

 無惨自身も生まれつき病弱で、鬼になる前は20歳まで生きられないと言われていました。そんなかつての自分と累の境遇を重ね、同情したのかもしれません。無惨は累に対して、「可哀そうに 私が救ってあげよう」と言葉をかけています。累が自分の鬼化を喜んでくれない両親を殺害した際にも、無惨は彼のもとを訪ね、「己の強さを誇れ」と励ますほど。この細やかなケアは、他の鬼に対しては見られません。

 もうひとつ注目したいのが、累の姉役の回想です。

「累の意味不明な家族ごっこの要求や命令に従わない者は 切り刻まれたり知能を奪われたり吊るされて日光に当てられる」

 この疑似家族のなかで累は末っ子役を演じていますが、鬼としての能力がもっとも高いのは彼であり、累は力をもって家族を支配していました。自分の気に入らないことがあれば、家族であっても平気でひどい仕打ちをするというのは、自分の血を分けた部下である下弦の鬼たちに言いがかりをつけてなぶり殺した「パワハラ会議」の時の無惨と同じです……。

 もしかすると無惨はそんな累の残虐な資質にも、自分と似たところを感じて、累を気に入っていたのかもしれませんね。

美しさがすべて 上弦の陸・堕姫

 無惨は外見的な美しさにこだわりがあったようで、それは彼自身が人間に姿を変えている時の容姿やファッションからも見ることができます。一方で、病に侵された鬼殺隊の当主、産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)には「……何とも醜悪な姿だな」と言い放ち、無惨の毒で顔がただれた炭治郎のことも、「醜い姿だ」と言っています。

 そんな無惨が「お前は誰よりも美しい」と称賛したのが、「遊郭編」に登場する上弦の陸・堕姫(だき)です。堕姫は、生前、幼い頃から、まわりをたじろがせるほどの美少女でしたし、花魁に化けていても店のトップを張るほどで、美しさは折り紙付きと言えます。

 しかし性格は最悪……。性悪で傲慢、サディスティックでかんしゃく持ちでもあり、年端のいかない禿(かむろ)たちに対しても容赦なく手をあげます。無惨同様、すさまじいパワハラ体質です。

 自分の正体を見破った遊女屋の女将を惨殺した堕姫が部屋に戻ると、そこには無惨が来ていました。無惨は「私はお前に期待しているんだ」と堕姫を持ち上げ、頬を手で優しく包み込みながら、「これからも もっともっと強くなる 残酷になる 特別な鬼だ」と甘い言葉をささやくのです。

 堕姫の兄である妓夫太郎(ぎゅうたろう)によれば、彼女は「染まりやすい素直な性格」だそうなので、無惨の言葉が暗示のように心に沁みこみ、凶悪さを増していたのかもしれませんね。

 そして堕姫は醜いものが何よりも嫌い! 美しくない者は食べないし、老いた者も食べないという偏食ぶりです。そして、人には平気で不細工と言い放ち、「美しくて強い鬼は何をしてもいいのよ……!!」と自分を正当化します。こんなところも無惨と堕姫の共通点であり、彼女が特別扱いされた理由でしょうか……。

「ずるい」とうらやまれる 上弦の参・猗窩座

 上弦の参・猗窩座(あかざ)が水柱・冨岡義勇と炭治郎に倒されたことを知った上弦の弐・童磨(どうま)は、対峙していた栗花落カナヲに、こんな愚痴めいたことをこぼしました。「だけど猗窩座殿って女を喰わない上に殺さないんだよ! それを結局あの方も許してたし ずるいよねえ」と。

 人間をどれだけ喰らうかで強さが変わる鬼にとっては、食の選り好みをしている場合ではないと思いますし、強くなることを喜びとする猗窩座なら、手あたりしだいに多くの人間を食べようとしても不思議ではありません。しかし彼はそうしませんでしたし、何より無惨も猗窩座が女性を食べないことを黙認していました。それを童磨は「ずるい」「特別扱い」と言ったのです。

 猗窩座は、恋人と恩師を殺されたかたき討ちとして多くの人を殺したことで無惨に見いだされ、強い鬼を造るために血を与えられました。彼なら女性を喰らわなくても強くなっていくであろうと、ある意味、無惨に信頼され、それが特別扱いになっていたのかもしれませんね。『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』によれば、実直なまでの戦闘姿勢が無惨に認められていたようです。

お気に入りなのは本体ではく… 上弦の伍・玉壺

 本編中では、お気に入り感は見られないものの、『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』によれば、上弦の伍・玉壺(ぎょっこ)も無惨のお気に入りでした。

 醜い者に厳しい無惨がなぜ、グロテスクな姿の玉壺を気に入っているのでしょう? 不思議に思っていたら、公式ファンブックに書かれていた、お気に入りの理由がちょっと切ないものでした。

「壺がなかなか綺麗。高く売れる。」

 玉壺本体ではなく、彼の生み出す作品の美しさを気に入っていたのですね。しかし、その後に続く「高く売れる。」のひと言……。鬼の頂点に立つラスボスにもかかわらず、ファンの間で「小物」と言われてしまう無惨らしすぎて笑えます。

* * *

 上記の鬼たちの他に、無惨のお気に入りといえば、後に上弦の鬼となる鳴女(なきめ)もいます。気分屋で自分しか大切ではない無惨ですから、たとえお気に入りであってもハッピーとはほど遠い気がします。実際、鳴女も無惨によって殺されていますし……。