カルト教団のようなレストラン
こんなに意地の悪い映画は見たことがない! 『ザ・メニュー』の登場人物が直面する事態はもちろん、彼ら自身も様々な面で“厭な”部分を持ったキャラクターだからだ。物語冒頭から、その片鱗が垣間見られる。
アメリカ北西部、太平洋沖の孤島で営業している高級レストラン、ホーソン。孤島にあるにも関わらず人気店であるホーソンはめったに予約が取れないのだが、今日は特別に招待された人々が集う日。
ホーソンに向かう船に乗り込むのは、グルメオタクのタイラー(ニコラス・ホルト)と、その連れ合いのマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)だ。これから人気レストランで食事をするというのに、タバコをふかすマーゴに向かって彼は言う。
「タバコはよせ、味覚を殺す」
そして同船する著名な料理評論家リリアンを見つけると、「今日はすごいディナーになるぞ!」と勝手にテンションを爆上げさせる。このやり取りから、マーゴとタイラーは恋人同士ではないことが分かる。とにかく「三度の“飯”よりも“美食”」といった具合。
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リリアンもなかなかの曲者。ホーソンのシェフであるスローヴィク(レイフ・ファインズ)は、私が育てたと慢心した言葉を口にする。これはリリアンが料理界に多大な影響を与える人物であることが見て取れる。
島に到着した後も、癖のある連中ばかりが顔を揃えている。味音痴の役者(ジョン・レグイザモ)、なんでも金で解決しそうなIT起業家3人組……。そのうえ、ホーソンのスタッフは全員が同じ宿舎で寝泊まりし、軍隊のような生活を強いられている。ホーソンに絶対的服従心をもつ彼らは、もはやカルト教団のようだ。