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稲垣吾郎が「“素”の僕に当て書きされていると感じた」最新作『窓辺にて』東京国際映画祭で観客賞受賞! 今泉力哉監督作

BANGER!!!

“恋と愛”の間にある距離

パートナーの自分への愛は本物なのか。そのことに悩む人物を中心に据えた映画は数多いが、自分のパートナーへの愛について悩むのが、『窓辺にて』稲垣吾郎が演じる市川茂巳だ。

「もうこれ、吾郎ちゃんそのものなんじゃないの?」と錯覚してしまうほど、あまりに自然にそこに存在し、語り、動いたり動かなかったりするので、個人的には今年の主演男優賞は決定である。

市川は評価の高い小説を1作発表しただけで、自ら小説を書くことをやめ、フリーのライターになった。彼は、編集者である妻が若い人気作家と浮気をしていることを知っているが、そのことに動揺しなかった自分に、動揺している。自分の感情の希薄さに、だ。

主人公は「素の稲垣吾郎」への当て書き

脚本は、監督の今泉力哉によるオリジナル。稲垣吾郎を想定して書いたそうだから、ぴったりなのは当然かもしれないが、単なるハマり役以上の化学反応が画面を通して伝わってくる。今泉は『街の上で』(2019年)『愛がなんだ』(2018年)など会話劇であり恋愛群像劇を多く撮っているが、今回もそうでありながら、何者かになれずにいる若者ではなく、「何かをなし得てしまった後の人生」を丁寧に描き出している。これはウディ・アレンやホン・サンスも描いてきたことで、今泉力哉が映画作家として次の段階に進んだ証と言えるだろう。

もちろん、稲垣吾郎はSMAPとして時代を背負ったことのあるスターだ。今もスターであり、同時に40代の中年男性として、ちゃんと日常を生き、きちんと教養を持っている様を漂わせることが出来る。でもどこか、他の星からうっかり落ちて来てしまった異星人のような浮遊感とおかしみがあり、何かを成し得てしまった人物を演じるには、これほどふさわしい人はいない。

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稲垣自身も、東京国際映画祭での上映後の質疑応答で、「ここまで役作りしない役ってないんじゃないかなっていうくらいに、役作りはしませんでした。僕のパブリック・イメージに対する当て書きではなく、素の僕に当てて書かれているように感じて。僕が言いそうな言葉が出てくるので、監督には僕が思っていることを見透かされている気がしました」と、素顔を見られてしまったように照れていた。

市川と不思議な交流をすることになる高校生作家の久保留亜(玉城ティナ)も、若くして何かを成し得てしまった人物で、彼女は何かを手に入れ、手放す、ということに自覚的だ。そして市川の友人の有坂(若葉竜也)も、ピークを過ぎつつある有名プロスポーツ選手で、彼もまた浮気をしている。もちろん、特別な才能を持つ人たちだけでなく、何かを成し得た=欲しかったものを手に入れてしまった後はどうするのか、ということも描かれる。

その姿は市川の妻である編集者の紗衣(中村ゆり)が象徴していて、おそらく好きな職業につき、好きな小説を書く市川と結婚し、おしゃれな家にも住んでいるが(編集者とライターの家にしては本棚に本が少ないのが気にはなるが、きっと書斎は別にあると思いたい)、夫の自分への愛に疑問を抱いてしまう。彼女はきっとずっと優等生で、ある種の理想を追い求め手に入れたはずなのに満たされない、成果主義の犠牲者なのだろう。

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