「穂高の秘境の池」で自分だけの瞬間を探して。|フォトコン2023優秀賞・土手 光貴さん

YAMAPフォトコンテスト2023で優秀賞を受賞した、東京在住の土手光貴(どてこうき、Instagram@dk_rem1)さん。受賞作は、コバイケイソウと岩峰のコントラストが際立つ一枚。奥又白池のガスが抜けるのを待ち、前穂高岳が姿を現した瞬間を捉えた執念の作品です。

被写体の見つけ方や構図、念願の個展を開催してみて感じたことなど、写真へのこだわりをお聞きしました。

誰も撮っていない被写体を探して

優秀賞を受賞した作品。夕立が上がった瞬間を狙って、奥又白池に群生するコバイケイソウ越しに前穂高岳(3,090m)を捉えた

──受賞作はとても幻想的な写真です。撮影地の奥又白池は一般登山者に知られた場所ではありません。前穂高岳の南東にあって、井上靖の長編小説『氷壁』に出てくる場所だそうですね。

土手光貴さん(以下、土手):いつも、誰も撮ってないような被写体や場所、タイミングを撮りたいと思っています。極力、存在感の薄いルートや場所をいろいろ攻めていて、面白そうな場所を探していて、たまたま見つけたのが、この奥又白池でした。

──そういった場所はどうやって見つけるのでしょうか。

土手:バリエーションルートを登っている人のブログとか山行記録を見て、普段人が入らないような場所から見た山の角度でかっこいいものがあったら、そこにいくためのルートを調べています。

奥又白池は、穂高の周辺にいくつかあるマイナーな池の一つで、それらの池は「穂高の秘境の池」と呼ばれているんです。その存在を知ってネットで調べていたら、池の周りにコバイケイソウがたくさん咲いている奥又白池の写真が数枚出てきたので、行ってみようと思いました。

池までのルートも、踏み跡も一応ちゃんとあるんですけど、きつい急登と、登山道脇のクマザサをかき分けながら進むルートでした。あまり人が入っていないというのは分かりました。

モルゲンロート(山々や雲が赤く染まる朝焼け)を狙うつもりでしたが、このガスに巻かれた夕方に撮った写真がよく撮れました。

──朝でも夕方でもないような、不思議な雰囲気が漂っています。雨が上がった瞬間の空気感が伝わってくる写真です。到着したときは前穂高岳は見えなかったのでしょうか。

土手:到着時にチラっと見えてはいたのですが、すぐに隠れてしまいまいした。土砂降りの夕立をやり過ごして、止んだ瞬間はまだ、周囲はガスに包まれていました。

池に着いたときにロケハンをして、近くにいい場所を探していたので、とりあえずそこに行ってみて、ガスが明けるのを待っていました。

しばらくすると抜けてきて、前穂高岳のいかついシルエットが見え始めたんです。ただただ自然の迫力に圧倒されながら、夢中でシャッターを切りました。

別山(2,880m)の辺りから撮った剱岳(2,999m)

──写真歴はどのくらいになるのでしょうか。

土手:登山と同じで8年くらいです。最初は山にこだわって撮っていたわけではなく、いろんな被写体を撮っていました。

カメラを持って登ってはいましたけど、今みたいに山頂から朝焼けを撮りたいとか、そこまでガチなことはやっていなくて、普通に昼間の登山中に歩きながら撮る感じでした。

次第にだんだんのめり込むようになって、朝とか夕方を狙うようになっていきました。そうなってくると、山で1泊する必要があり、徐々に写真を撮るために登るようになりました。

──参考までに、山で使っているカメラとレンズを教えてください。

土手:ボディはNikon Z7Ⅱで、レンズはNIKKOR Z 14-24 F2.8 Sです。前はSONYのαを使っていましたが、ニコン製品の耐久性の高さとレンズの性能のよさに惹かれて乗り換えました。

山などの過酷な環境では耐久性があるほど安心して使えます。耐水性も高いので、雨が降る森の中だけでなく、波を浴びるような荒れた海の撮影でも安心して使えるのもいいですね。

レンズの写りも申し分なく、明るいので、これ一本で星まで撮れます。

普通、超広角レンズだと大口径だったり、レンズの前面が飛び出ている出目金だったりして、大型のフィルターしか付かないことが多いのですが、これは超広角レンズでありながら比較的コンパクトで、フィルターも比較的小さめなものが付けられるので、荷物の軽量化にもなります。

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富士山で思い出した、自然への想い

涸沢岳(3,110m)から写した北アルプス。左に槍ヶ岳(3,180m)、右は奥穂高岳(3,190m)方面

──山に登るようになったきっかけは学生時代に登った富士山だったそうですね。

土手:元々自然が好きだったんですけど、高校、大学時代はインドア派でした。その頃にふとしたきっかけで、友達とふたりで「富士山に行こうぜ」みたいなノリになって、登ってみたんです。

それ以来、自然が好きだったことを思い出したかのように、山にはまり出しました。

──自然が好きだったっていうのは、子どものときでしょうか。

土手:親がキャンプに連れて行ってくれてたりしたので、それが大きかったと思います。

小学4年の時にも、家族で富士山に登りました。でも高山病にかかってしまって、気持ち悪かったことしか覚えてないんです。中学の時も家族で登って、その時も少し気持ち悪くなりました。

大学の時に富士山に登ったのがきっかけで、父も富士山に登りたいと言い始め、一緒に丹沢など、低めの山を登り始めました。

──親が登っていて、その影響で自分も登り始めたという話はよく聞きますが、逆は珍しいですね。今も一緒に登られたりするのでしょうか。

土手:最近は一緒には登ってないですが、父も続けています。「今の時季だったらどこの山がいいか」とか相談されることはあります。父の場合は、近場の日帰りで登れるところばかりですね。