「夕陽の丘プレイランド」オープニングセレモニーのゲストに招かれた西武キッズクラブの子どもたち(筆者撮影)

鉄道会社が手掛けるレジャー事業の定番中の定番といえば「遊園地」……。

この書き出しが通用したのは一昔前。レジャー多様化などで、鉄道会社の遊園地はかつての勢いを失っています。しかし、そうした流れが当てはまらないのが埼玉県所沢市の「西武園ゆうえんち」。2023年度のテーマは「とびっきりスゴYEAR!」。「没入型ドラマティック・レストラン~豪華列車はミステリーを乗せて」、「ウルトラマン・ザ・ライド 世紀の大決闘」など、10件を超すアトラクションやイベントを相次いで繰り出しました。

締めくくりで2024年3月19日にオープンしたのが「夕陽の丘プレイランド」。小さな子どもも楽しめるアトラクションをそろえ、ファミリー客に楽しく過ごしてもらう趣向です。本コラムはプレイランド開業にあわせ、ゆうえんちの近況から成功の秘密を探ります。

ファミリーで楽しめる「遊具」

「夕陽の丘プレイランド」には何がある? 場所はウルトラマン・ザ・ライドの映画館型アトラクション「夕陽館」のすそ野です。


プレイランドから続く丘の上には映画館アトラクションの「夕陽館」。館内では「ウルトラマン・ザ・ライド」と「ゴジラ・ザ・ライド」を体験できます(筆者撮影)

夕陽の丘は、狭山丘陵に沈む夕陽が美しく見えるのが命名の由来。ゆうえんちスタッフも、「一日を楽しく過ごした子どもたちに、夕陽とともに思い出を持ち帰ってもらえれば」と期待します。

(アトラクションと呼ぶより、この名がふさわしい)「遊具」は全部で13種類。ブランコ型の「スイング・スイング」、高さ10メートルから降下・上昇を繰り返す「スプリング・ライド・タワー」もありますが、いわゆる「絶叫型マシン」は他エリアにお任せ。ボール当てゲームやバルーンアートのほか、子どもたちが運転手気分を味わえる「ジャングル!ドライブ」など、ファミリー客にターゲットを絞りました。


新登場の「スプリング・ライド・タワー」。タワーを囲む座席が音楽にあわせてリズミカルに上下しながら回転します(筆者撮影)

園内では、大道芸を思わせるパフォーマンスも。セレモニーを兼ねた3月18日の取材会では、西武鉄道キッズクラブの子どもたちが風船を持ったパフォーマンスで、新ゾーンの誕生をアピールしました。

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「歴史」と「古さ」を逆手に取る


西武園ゆうえんち絡みの鉄道余話。鉄道アクセスで西所沢~西武球場前間の狭山線には1969年に登場の新101系電車が運行されます。片側3ドアは西武では今や〝希少種〟。往復のどちらかに乗車するのも一興でしょう(筆者撮影)

鉄道会社と遊園地……。かつて遊園地は、鉄道会社のレジャー事業の定番でした。目的は、鉄道の利用促進と沿線イメージアップ。しかし、1990年代後半から多くは苦戦を強いれらます。

理由はさまざまですが、共通項を探せばバブル経済崩壊から新型コロナにいたる環境変化。さらにはレジャー多様化や大型テーマパーク開園が挙げられるでしょう。

西武園ゆうえんちも、例外ではありません。戦後6年目の1950年に開業、2020年に70周年を迎えた名門ながら、1988年に年間194万人を数えた入場者数は、2019年度には37万8000人まで落ち込みました。

ばん回に向けて打ち出したのが3年強をかけた全面改装で、2021年5月にリニューアルオープンしました。

仕掛人が、レジャー業界の仕事師・刀(かたな=企業名)の森岡毅さんです。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再生させた経営手法は数多くの経済書で紹介されますが、西武園ゆうえんちで採用したのは徹底したマーケティング(市場調査)と顧客志向です。

ゆうえんちのイメージ調査で挙がったキーワードは「歴史」や「古さ」。ならばそれを逆手に取ろうと、前回東京オリンピックのころをモチーフに、入り口広場に路面電車、エントランス空間に約30店舗の昭和の商店街を配置しました。園内各所に祖父母・父母・子ども(孫)の3世代ファミリーが、懐かしさに浸れる仕掛けを取り入れました。

リニューアル3年目の「とびっきりスゴYEAR!」、打ち出した新機軸は今回のプレイランドを含め全部で13弾。これだけイベントが続けば、「また行ってみよう」と考えるリピーターが数多く現れます。

西武園事業本部マーケティング部の話では、2024年度にも新しい企画が目白押し。期待して待ちましょう。