まるで昭和の京王帝都!? 伊予鉄「郊外電車」に乗る オリジナル新車導入で雰囲気一変?

かなり久々にオリジナル新型車両の投入が発表された伊予鉄道の郊外電車。しかし現時点では旧京王帝都車の“王国”といった雰囲気です。横河原線と高浜線に乗ってみると、見どころ豊富でした。

15分ヘッドの郊外電車

 四国の主要都市・松山を中心に、路面電車の松山市内線と、通常の鉄道である郊外電車を運行する伊予鉄道。観光列車「坊っちゃん列車」の運行中止や、2025年からの新型電車7000系導入など、近ごろ話題の鉄道ですが、郊外電車は、東京の京王電鉄(旧・京王帝都電鉄)から譲渡された車両の“王国”といった雰囲気でもあります。

 郊外電車は、高浜~松山市間の高浜線(9.4km)、松山市~横河原間の横河原線(13.2km)、松山市~郡中港間の郡中線(11.3km)の3路線から成りますが、高浜線と横河原線は直通運転しているため、事実上ひとつの路線です。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2023年12月、郊外電車に乗るために、JR松山駅から高浜線の大手町駅まで250mほど歩きました。同駅の近くでは路面電車と郊外電車が平面交差しており、線路が直角に交差しています。同様の事例は名古屋市内にもありますが、全国でも珍しい光景です。

 ちょうど横河原行きの普通電車が到着したので乗りこみます。やってきたのは700系、もともとは京王帝都電鉄の5000系(初代)です。5000系は1963(昭和38)~1969(昭和44)年に製造された電車ですから、最低でも製造後54年が経過しています。

 伊予鉄へ譲渡されるにあたり、台車を東武2000系や小田急2200形などの廃車発生品に換装しています。理由は線路幅(軌間)が異なるから。京王は1372mm、伊予鉄は1067mmです。ただし室内は京王時代と大差なく、首都圏の名車が現役で活躍していることに感動を覚えました。

 車体も窓もピカピカに磨かれており、車内も清掃が行き届き、とても54年目の車両とは思えませんが、自動ドアが両開きではなく、片開きであることには時代を感じます。なお、側扉の上には液晶モニターが追加され、駅情報や広告が表示されるところは、しっかりと「令和の電車」になっています。

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まずは横河原駅まで乗り通す

 電車は郊外電車3路線が接続する松山市駅に到着しました。ホームが3面もある松山市の中心駅です。高浜線を走った電車は、ここを起点とする横河原線にそのまま乗り入れます。高浜線は複線でしたが、横河原線は単線です。

 最初の停車は石手川公園駅。橋梁上にある珍しい駅で、現役の鉄道橋へ移設されていないものとしては日本最古です。1893(明治26)年に建設され、土木学会選土木遺産に認定されています。

 次のいよ立花駅からはかつて、森松線が分岐していました。ここでは列車交換が行われますが、横河原線は15分に1本の高頻度運転のため、全線を通じて交換駅の多いことが特徴です。

 平日夕方の列車ですが、3両編成の座席はほぼ埋まり、利用客は多い印象。福音寺、北久米と停車しますが、乗客は減りません。久米駅で30人ほど下車しました。1981(昭和56)年に松山市方向へ170m移転して、列車交換を可能とした主要駅です。

 運転席の後ろから眺めていると、18パーミル(1000mにつき18mの高低差)などの勾配が連続しており、ずっと上り坂なのが分かります。梅本駅は「四国がんセンター前」が副駅名で、がんセンターの利用者なのか多くの乗降がありました。2つ先の牛渕駅は郊外電車で最も利用客が少ない駅とのことですが、それでも1日237人。JR特急の始発駅である北海道の網走駅(333人)や和歌山県の紀伊勝浦駅(343人)に近い利用客数があり、地方鉄道の無人駅感はありません。

 最後の交換駅である見奈良駅を出て、終点の1つ前である愛大医学部南口駅では、大量の下車がありました。2015(平成27)年に駅舎が新築され有人化された駅です。