水素エンジン ハイエースは想定外に「はやかった」!?そしてル・マン優勝マシン、ゲットに挑戦【週刊スタッフブログ】

取材先での印象的な出来事から個人的に注目したい最新ニュースまで、編集部員おススメの注目トピックを一週間分、まとめてご紹介する新コーナー。第1回は引き続き、Webモーターマガジン編集部でもっとも落ち着きがないと言われる編集委員 神原が富士スピードウェイから四方山話をお送りします。(11月5日~11月11日版)

今週の刺激的公道実証モデル「水素エンジン ハイエース」

2023年10月23日から年をまたいで1月まで、おおよそ4か月間の間「オーストラリア・メルボルン近郊の公道」で、水素エンジンを搭載したハイエースの公道実証実験が行われます。建設会社や警備会社のビジネスをサポートするのだそうです。

今回はその実証実験用水素エンジンハイエースに、ほんのちょっとだけですが試乗することができました。スーパー耐久シリーズの最終戦「S耐ファイナル富士4時間レースwith フジニックフェス」でトヨタが用意してくれた、スペシャルプログラムです。

ベースとなっているのは、日本でも大人気のスーパー箱型トランスポーターではなく、短いけれどスラントノーズがちゃんとついている輸出仕様のHIACEです。外観はカラーリング以外、変更されていないそうですが、エンジンはV6ターボユニットに換装してあります。主に、走りのパフォーマンスを実用的なレベル(標準搭載の2.8L 直4ディーゼルターボと同等)まで引き上げるための、グレードアップです。

さらにインジェクターや制御系を、水素燃料用に調整してあります。タンクは圧縮水素(気体)を3本積んであるそう。目標としている航続距離は、満タンで約200km。給水素口には、NOx(窒素酸化物)対策のアドブルー注入口が備わっていました。

実はこのクルマ、航続距離の課題さえクリアすれば、そのまんま市販してもOKなレベルで完成しているのだとか。走らせてみても、ふんわりアクセルからしっかりトルクが立ち上がり、踏み込めば過不足のない加速感を発揮。しかもディーゼル特有のガラガラ音はないし、総じてとってもスムーズな「速さ」を実感させてくれました。

そういえば先日、大規模な天然由来の水素ガス鉱床が発見されたそうです。今は、「実質カーボンフリー」と少々歯切れが悪い水素エンジン搭載車ですが、天然由来なら完全にカーボンニュートラルな未来を描くことが可能になるでしょう。

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広がりを見せる水素の利活用

トヨタが実証実験の場にオーストラリアを選んだ理由は、かの地の政府がカーボンニュートラルを巡る取り組みへの協力について非常に積極的であり、関連するチャレンジに対しても法的側面からの課題についても寛容な対応をしてくれるから、なのだといいます

日本(の政府)はそういった面について、今一つ融通が利かないのでしょうか。試乗したハイエースの高い完成度を考えれば、「まんまこのクルマ」ではなくても、同様のメカニズムにコンバージョンしたスーパー箱型トランスポーターを作って、国内でも「実証実験」に臨めそうです。

なにしろ水素エンジンは、さまざまな「可能性」を秘めています。たとえばスーパー耐久シリーズで2023年シーズンからトヨタが取り組んでいる、液化水素の利活用は、水素エンジン車の弱点である燃料搭載量の問題を一気に解消するかもしれません。

マイナス253度という極低温状態での取り扱いなど、克服すべき課題は多々あります。それでもたとえば、既存の水素ステーションの施設を拡大活用することができるのは、普及に関しては大きなメリットになりそうです。えば、既存の水素ステーションの施設を拡大活用することができるのは、普及に関しては大きなメリットになりそうです。

さらにトヨタは、水素エンジンをベースに、弱点と言われる低回転域のトルク不足を補うためにハイブリッド化する仕様なども研究しているのだとか。その根底には、今そこにある熟成された技術をうまく活用してCO2削減を目指す、という目標があります。

FCEVも含めて、水素によるリアルなモビリティの可能性を広げている一方で、普及の段階に向けても、非常に地に足のついた展開が計画されているようです。たとえばハイスペックな水素エンジンを搭載した「水素スペシャル」的なモデルは、今のところ開発する予定はありません。

ことほどさように、てっきり「未来のモビリティ」だと思っていた水素エンジンは、いつの間にかそうとうリアルな次世代モビリティへと急速に進化していました。なにより、コンバージョンという普及に向けた万人受けしそうな可能性には、大いに期待したいところです。