ステルス戦闘機の時代は終わり? 「AI戦闘機」が変える戦い方 求められるのは“頭脳と学習”

日常生活の中に急速に浸透しつつAI、すなわちコンピューターによる「人工知能」。軍事利用も模索されていますが、それを流用した無人戦闘機は生まれるのでしょうか。超えるべきハードルは多いようです。

AIが高度化しても最終的に判断するのは人間

 航空軍事分野でAIの適用が始まり、AIを活用した軍用機が実際に登場しています。

 筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)が思うに「AI」すなわち「人工知能」という言葉は魅惑的な響きを持っています。それは、人間が創造した機械が人間の知能を超える日が来ることを予感させるからで、早くから研究が盛んであった将棋や囲碁のコンピューターソフトなどは、すでにトップランクのプロを相手にしても勝利しうる実力であることが知られています。また、AIは直近1年で美麗なイラストが描けるようになり、自然な文章を書くことができるようになりました。まさに日進月歩の勢いであると言えるでしょう。

 そして「AI戦闘機がついに登場」。そうと聞くとパイロットが乗っていない自律型殺人ロボットに操られた戦闘機が配備されたかのようなイメージを抱く人も中にはいるでしょう。筆者も「AI戦闘機がいつ登場するのか」という質問を仕事柄よくぶつけられますが、これについてはAIの高度化や技術というよりも「最終的な武器使用の意思決定を行うのは誰であるのか」という責任や倫理の問題に拠るところが大であり、回答としては「わからない」としか言えないのが現状です。

 ただ、そうはいってもAI戦闘機について現状、確実に断言できそうな影響としては、カウンターステルス能力の大幅な向上、すなわちステルスを見破る技術の獲得が挙げられます。

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軍用AIもまずは学習させるところから

 そもそも「AI」とは何なのでしょうか。AIの定義は時代やその場によって異なりますが、人間の脳神経細胞の働きを模擬、学習して判断するコンピュータープログラムを意味します。そのしくみは連想ゲームに近く、たとえば動物の特徴を学習済みのAIに「もふもふ」「耳が大きい」「目が大きい」「しっぽ」「鋭い牙つめ」「かわいい」といった内容の入力を行うと、もっとも可能性の高い答えを出力してくれます。

 実際に筆者がChat GPT3で試したところ「ネコ30%、キツネ25%、ウサギ20%、キツネザル10%」という回答が得られました。筆者は猫をイメージしていたので、AIは見事正解を導いてくれたと言えるでしょう。この「どうぶつなぞなぞ」は、他愛のない遊びにすぎませんが、実は学習させるデータを「敵」に置き換えるだけでカウンターステルスに応用することができます。

 ステルス機とは、機体にぶつかった電波の反射をコントロールし、相手のレーダーから隠れる技術が適用された飛行機のことですが、それはあくまでも「見えにくくしている」だけで、ほんの僅かな信号の痕跡は捉えることが可能です。

 とはいえ、通常その信号は極めて小さく、常に移動しており、加えてごく短時間で消えてしまうことなどから、ノイズと識別することは困難であるのも事実です。ゆえに、ステルス機を探知することは、さながら大きな針山の中から1本の縫い針を見つけるようなものだと例えられます。

 カウンターステルスを実現するためには、まずAIにノイズを含む信号とノイズを含まない信号、そしてステルス機からの信号と通常の飛行機(非ステルス機)からの信号、これらを事前に学習させることから始めます。

 これらを踏まえ、戦闘機搭載のミッションコンピューターに学習データを適用したプログラムを実行させ、レーダーから得られた信号データと、ステルス機から出た信号を抽出する命令を入力することで、より遠方から高い確率でステルス機を検出する能力を得られるとされます。