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「体験格差」大人になったらどんな影響がある? 全国調査が明らかにした“ヤバい実態”

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■さまざまな体験がもたらす子供への影響

 岐阜県の盆地で育った自分には「子供の頃から通った、思い出の映画館」がない。地元の映画館はごく幼い頃に潰れてなくなり、映画館は子供だけでは行けない都会にしかなく、ゆえに「映画館で映画を見ること」は年に1~2回あるかないかという稀なイベントになった。

  おかげで、地元にいた頃に公開された作品を、自分は全く映画館で見ていない。ネット配信などもない時代だったため、ソフト化されてから近くのレンタルビデオ屋に借りに行くしかなかった。就職して東京に出てからは毎週映画館をハシゴして映画を見まくったが、どれだけ見ても「ああ、中学生や高校生だったころの自分にこの環境が与えられていればなあ……」という、取り返しようのない鬱屈をどこかに感じていた。

  このように、子供の頃の「体験」の有無は、大人になってからも精神的に引きずるものである。親となって2歳の子供を育てている今となっては、自分の子供には「体験がなかったこと」で後々まで記憶に残るようなつらい思いをしてほしくない……と、強く思っている。そして、そんな「体験」の格差に切り込んで話題になっている新書が、そのものずばり『体験格差(著・)』だ。

  本書における「体験」とは、塾や習い事や各種スポーツ教室のような放課後に子供が教わるスタイルのものから、家族旅行やキャンプなどアウトドア系イベント、美術館や科学館といった文化施設に行くことや、地域のお祭りなど地元のイベントへの参加といった、学校教育以外に子供が関わる幅広いアクティビティ全般を指す。

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  本書によれば、体験によって単にいい思い出ができたり運動ができるようになったりするだけではなく(もちろんそれらにも非常に大きな意義はある)、社会情動的スキル(目標達成や他者との協調、情動の制御などに関係する精神的スキル)が発達するかどうかにも体験の有無は大きく関わってくるという。精神面での成熟、それも対人関係の構築や目標達成への意欲にも関わってくるとなると、将来的には就業機会の有無や収入の多寡にも関係してくることになる。「子供の頃に色々なところに連れて行ってもらった」とか「地元のサッカーチームで運動をした経験がある」といった体験があるかどうかが、その後の一生で相当大きな影響を及ぼすというのである。

  しかし、各種の体験は受験などに直結する学業に比べるとどうしても「どちらかといえば遊び」「就職などに直接影響しない」というイメージが強く、そもそも全国的な調査すらまともに行われてこなかった。そこで著者の今井氏が所属する非営利団体「チャンス・フォー・チルドレン」は、2000人の保護者を対象に、体験格差に特化した全国調査を2022年に実施。本書はその結果をもとにして書かれている。

  まあなんというか、読む前から「そうだろうなあ……」と思っていたような調査結果がてんこ盛りである。基本的には親が高所得な家庭ほど子供は色々なアクティビティに参加しており、貧乏であればあるほど体験の機会が減っていく。年収300万円以下の低所得家庭においては、過去1年間で何かしらの体験の機会が「ゼロ」だったという子供が、全体の1/3近くを占めたという。

  資金の有無以外の面でも、本書はさまざまなアプローチから子供の体験に切り込んでいく。習い事への送り迎えや同席に費やせる時間的リソースの有無、地域と体験格差についての関係、タダで参加できる地域の祭りでも発生する格差といった視点から調査結果を見ることで、一筋縄では行かない子供の体験の実情が浮き彫りになっていく。

  特に「確かにそうかも……」と思わされたのは、「親が子供に体験させたいと思うネタは、親自身が子供の頃に体験させてもらったことに限定されやすい」という点を検証したくだりである。たとえば子供の頃によくキャンプに連れて行ってもらった親は自分の子供をキャンプに連れて行きがちだったりするが、その反面で自分が特に体験していないものについてはそもそも想像すら及ばないことが多いという。

  自分も子供から「映画館で映画を見たい」と言われたらホイホイ連れていくだろうし、旅行に行きたいと言われても「ずっと家にいてもヒマだし、そりゃ行きたいよな」と理解できるだろう。しかし自分が全く興味がなく子供の頃にやったこともない野球やサッカーのようなスポーツの教室や、ピアノ教室や習字のような習い事に行きたいと言われたら、「ほんとに行きたいの~?」くらいは言ってしまいそうである。親の体験が子供の体験を限定しがちであり、ひょっとしたらそれによって子供の可能性を潰すかもしれないという事実にはゾッとさせられる。

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