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『オーメン:ザ・ファースト』監督が語る、ホラー映画の“金字塔”への挑戦

MOVIE WALKER PRESS

「私は1970年代のホラー映画を観て育ちましたが、そのなかでも大好きな作品が『オーメン』です」。『ローズマリーの赤ちゃん』(68)や『エクソシスト』(72)によって急激に拡大した1970年代のオカルト映画ブームを牽引した作品である『オーメン』(76)。その前日譚が描かれる『オーメン:ザ・ファースト』(公開中)で長編映画監督デビューを飾った女性監督のアルカシャ・スティーブンソンは、偉大なオリジナル版に敬意を表する。

■「“新しいことをやろうとしている”とわかった瞬間、すぐに引き込まれました」

「第1作はとても完璧な映画です。演出や撮影、演技、どれをとっても本当に見事で、特にすばらしいキャストたちが揃っていることもあり、恐ろしいカーニバルライドではなく一つのヒューマンドラマとして、真剣に受け止めざるを得ない作品でした。そこに描かれていたのは自分の子どもを充分に理解できないことからくる夫婦の混乱。そうした人間的な部分がスーパーナチュラルな部分よりも先行しており、そこから恐怖が生みだされる。だからこそ、その前日譚を作るということはとても恐ろしい挑戦でした」。

のちに『スーパーマン』(78)を手掛けるリチャード・ドナー監督がメガホンをとり、『ローマの休日』(52)の名優グレゴリー・ペックが主演を務めた『オーメン』では、妻が死産した外交官の男が神父から孤児を託され、“ダミアン”と名付けるところから物語が始まる。今作ではその孤児がどのようにして、6月6日午前6時に生まれることになったのか。複数のシリーズ作とリメイク、ドラマシリーズまで作られた「オーメン」の原点へと立ち返ることとなる。

「プロデューサーの一人が友人で、彼女に脚本を見せてもらったことから始まりました」と、スティーブンソン監督はこのプロジェクトに関わった経緯を話し始める。「大好きな映画の前日譚を作ろうとしている人たちは、いったいどんなことを考えているのだろうか。そう期待しながら読んでみると、物語が若い女性の視点から描かれていました。この映画に関わっている人たちは皆、なにか新しいことをやろうとしている。そうわかった瞬間、すぐに引き込まれていきました」。

ちょうどその頃スティーブンソン監督は、本作の製作総指揮を務める脚本家のティム・スミスと、“強制生殖”をテーマにした映画の話をしていたのだという。それがきっかけとなり適任と判断されたのであろう。プロデューサーチームやスタジオから、本作の監督へと指名されることになる。「以前から“ボディ・ホラー”、すなわち肉体の破壊や変容によって生みだされる恐怖を映画で描くことに興味がありました。その視点を私が持ち合わせていることに、彼らは興味をそそられたのでしょう」。

■「第1作がいまなお古びないのは、権威に対するあからさまな不信感があるから」

『オーメン:ザ・ファースト』の主人公は、修道女になるためローマの教会へとやってきたアメリカ人修練生のマーガレット(ネル・タイガー・フリー)。同じように奉仕に勤しむカルリータ(ニコール・ソラス)と出会い、彼女と過去の自分を重ね合わせるマーガレットだったが、周囲で不審な連続死が発生。そんななか、教会から破門されたブレナン神父(ラルフ・アイネソン)から“悪の化身”を誕生させようとする教会の企みを知らされたマーガレットは、その母として利用されようとしているカルリータを救いだそうとする。

「この映画は内容やストーリーの性質上、女性の身体の自立性について語っています。同時にホラー映画たらしめる部分は、ボディ・ホラーであり、身体への侵害からきているといえるでしょう。このようなイメージを通して身体を探求することは非常に興味深いことです。なぜなら『この痛みを私たちに与えているのは誰なのか?』ということを再認識させてくれるからでしょう」と、スティーブンソン監督は本作のもつ大きなテーマについて言及する。

「組織にしろ人にしろ、権力の追求というものはその周囲の人々に影響を及ぼす。その多くの場合、女性たちが矢面に立たされ重荷を背負い、その追求の影響を受けることになります。だから観客の皆さんは、心と身体と魂が不安定になっている主人公の姿を見ることになるでしょう。そしてあまり深くは言えませんが、誰かを不安定にさせればさせるほど、その人を利用しやすくなるものです」。そう語りながら、具体的にそのようなテーマが表出している部分として出産シーンを例に挙げる。

「劇中には出産シーンがいくつかあります。私たちはシーンをよりしっかりとしたものにするため、女性の声や息づかいをサウンドデザインやスコアに多く取り入れています。そうすることで、女性の身体について強く意識することができる。そのような意図をもって作りあげました」。

そして最後にスティーブンソン監督は、第1作の『オーメン』を「斬新で生々しく、限界に挑戦した映画であった」と称え、その前日譚をこうして現代の観客たちに向けて作りだしたねらいに触れる。「当時作られた映画の多くに共通していて、かつ私がとても気に入っているのは、組織や権威に対するあからさまな不信感があることです。それこそが、本作がいまなお古びない理由なのです。それらのテーマは変わっていないどころか、かえって悪化しているだけなのですから」。

構成・文/久保田 和馬
 
   

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