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「多様性を受け入れる」って、苦手な人も受け入れなければダメ?

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――また、多様性を尊重するという文脈で「人それぞれ」といった言葉もよく使われますが、捉え方によってはちょっと冷たい感じもします。自然と相手を尊重できるようなスタンスとはどのようなものでしょうか?

南野 多様性の尊重というと、ともすれば無関心という形をとってしまうこともあります。人それぞれのやり方で生活しているんだから、マイノリティの人と進んで関わらなくてもいいじゃないかという声もあります。でもそれは多様性の尊重における本質ではありませんよね。

総務省では、地域における多文化共生について『国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと』と定義しています。これは単純に同じ地域の中に住所があるというだけではなく、人と人の関わりをもち、一緒にいろいろな考え方を共有しながら、困ったことがあったら助け合おう、そうした考え方がベースになっています。

ですから、マイノリティな人が同じ地区に住むことに反対しないということだけでは、多様性を尊重することにはならないんですよね。無関心ではなく、前向きな関わり、というスタンスが必要になってくるのではないでしょうか。

ともに豊かに生きるために大切な「多様性を受け入れる」教育

――これからの未来を担う子どもたちが、多様性を尊重できる人になるためには、どんな教育が必要なのでしょうか?

南野 私は外国ルーツの子どもの研究もしているのですが、中には見た目が違う、肌の色が違うということで、いじめや子どもの生活全体の幸せが奪われるような状況になるような子どもたちもいます。『みんなと違う』ということが特に子どもの世代にとっては大きく影響するようです。

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多様性を理解するという解釈は広いので、そのひとつの切り口として障がいに焦点を当てた研究を2020年に行ったのですが、文献研究をする中で、特に海外では『子どもが障がいのある人に対する態度は、何によって変わるのか?』という調査が多くありました。そこから分かったことは『当事者との接触を持つことが重要』だということ。子どもの頃に当事者に接する機会をもった子は、その後、障がいのある人と接しても肯定的な態度を取る傾向がみられたというデータがありました。

また、『障がい理解教育には何が有効か?』という研究では、当事者と接する以外に、障がいのある人に関してのレクチャーや教育、パラスポーツの経験というのがあり、どれが一番有効か、という答えは出ていませんが、組み合わせながら繰り返すことが有効ではないか、というのが現段階での回答になっています。

――具体的な教育や研究プロジェクトの例には、どのようなものがありますか?

南野 例として幼稚園や保育園向けのプログラムで、『おしり鬼ごっこ』という足を使わずにおしりだけで移動する遊びがあります。他にも座った状態でうちわで風船を叩き合うという、シッティングバレーボールを子ども用にアレンジしたプログラムもあります。

――障がいについて子どもたちへ教えるときに、どのように伝えるのが正解なのか悩んでしまうことがあります。どうしたら誤解を生まないように教えられるのでしょうか?

南野 障がいがあることに誤った意味付けをしないことが大切です。つい大人が言ってしまうのが、『あの人は障がいがあるけど、あんなに頑張ってあそこまでできるようになって凄いね』というフレーズ。または『いろいろな場面で苦労することがあるだろうから、助けてあげないとダメなんだ』という、困難を克服して頑張っている人や助けてあげないといけない人という意味付けを大人はしてしまいがちです。

他の昔の研究では、子どもの頃に悪いことをすると『おへそがなくなっちゃうよ』とか、『足が折れちゃうよ』など、例としてそういったフレーズが出てきます。要は身体の不具合が起きるのはあなたの悪い行いと関連しているという、大人のちょっとした言い方が子どもに誤った学習をさせてしまう例があります。障がいというのはあなたが頑張った、頑張らなかったという、努力の有無で生じるものではありませんので、間違った価値の意味付けを教育の中でしないことが大事だなと思います。

――最後に、すでに一定の価値観や考え方が根付いている大人が、多様性への理解を深めるためにはどんなことが必要だと思いますか?

南野 やはりまずは『自分は過去に受けた教育にとらわれている』、そういう“自覚”が必要ではないでしょうか。自分たちがたくさん学び、吸収した時代と現在では、あらゆる価値観が大きく変わってきています。多様性について考えてみるときに、心の中に沸き上がってくる感情を俯瞰しつつ『今の時代でこの価値観は違うのかもしれない』と一言問いかけてみる。そういうことが大事なのかなと思います。

「多様性を受け入れる」。人によって捉え方は様々だが、今回いろいろな角度から教えてもらい、新たな気付きがたくさんあった。中でも一番目の覚めるような感覚にさせてくれたのが、自分が多様性を受け入れる側ではなく、他者に受け入れてもらう側でもあるということ。無意識に自分は受け入れる側だと一方的に思っていた人も多いはずだ。まずはその認識を改めるだけでも、多様性への理解がまた一歩深まっていくのではないだろうか。

text by Jun Nakazawa(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

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