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伝説のヤラセ番組「川口浩探検隊」の功罪とは? プチ鹿島「演出があるからこそ、やらなくてもいい真剣勝負をしている」

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鹿島:ちょうどこの本が発売された昨年末に、動画配信プラットフォーム「TELASA」で『川口浩探検シリーズ』として配信がスタートしたんですけれど、そこでは「昭和の傑作バラエティ番組」として紹介されていました。当時、僕はクソ真面目に観ていて、もちろんネットなんてないから友達と感想を語り合うくらいしかなかったわけだけれど、なるほどバラエティとして解釈すれば問題なかったわけですね(笑)。当時のネタはどのように作っていたのか、改めて教えてもらえますか。

小山:当時はネットとかがないから、図書館に行ったりして百科事典を引いたりするんです。例えば蛇の図鑑なんかを読んでいると、蛇とトカゲの違いは足の有無じゃなくて、中には足のある蛇もいるということがわかる。じゃあ、この足のある蛇がデカかったらすごいよねという話になって、蛇ならタイに行けばなんとかなるだろう……と企画ができていくんです。で、蛇にトカゲの足をつけた「蛇トカゲ」と、トカゲの尻尾に蛇の胴体を付けた「トカゲ蛇」を作った。動画を見た学生は、まさかそこまで作っているとは思わなかったみたいです(笑)。

鹿島:僕も実際に小山さんと一緒に映像を観て、解説してもらったんですけれど、そうなると演出のために本当に危険なこともしていることがわかってくるんです。「双頭の巨大怪蛇ゴーグ」の回で、寺院の下には蛇がうじゃうじゃいるんですけれど、そこに入る階段のところにキングコブラが仁王立ちしていて、蛇使いの人が正面から“ガッ!”と獲る。テレビの絵的に良いからということで、わざわざ正面からそのシーンを撮影しているけれど、実際にはめちゃくちゃ危険な行為です。演出があるからこそ、やらなくてもいい真剣勝負をしている。そういうお話を聞くと、僕には「ヤラセ」と一笑に付して終わらせられることだとは思えないんです。実際に、川口隊長が大怪我したこともあるんですよね。

小山:川口さんがピラニアに噛まれたのはガチでしたし、足の親指を複雑骨折したこともありました。中国でのロケが始まる前日に飲み会をしたんですけれど、その時にベッドの底が抜けて川口さんの足に落ちて骨が折れちゃった。手術をしなければいけない状況だったんですけれど、中国の病院にいくのは嫌だから、ロケが終わったら日本で病院に行くと言って、そのまま足の指を固定してロケに臨んだんです。当然、歩くことができないんですけれど、ほとんど歩いているシーンばっかりだから、カメラをうまく動かして、上半身だけ歩いているような絵にして撮影したり(笑)。でも、その状態でロケをやりきったんだから、すごいですよ。

奥山:僕はメディアの中の人間として本書を読んで、すごく共感するところがありました。鹿島さんご自身も取材を通して「ヤラセ」に対する認識の変化はあったのでしょうか。

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鹿島:僕自身、ヤラセや捏造を肯定したいわけではないんです。ただ、小山さんをはじめとした現場の方の声を聞いていると、単に視聴率主義でこういう番組を作っていたわけではなく、「すごい絵を撮りたい」という情熱で現場が夢中になってしまったわけで、そういう物作りをする人の性分みたいなものは簡単に断罪できないのかなと。一方で、「あの頃のテレビは出鱈目だった」とか「あの時代はおおらかで良いよね」というだけではなく、小山さんのように今も胸をチクチクさせていて、授業でメディアを志す人に「だからヤラセはダメなんだ」と具体的なメッセージを伝えている人もいます。

小山:「川口浩探検隊」を担当していた加藤秀之プロデューサーのような豪胆な人が、いかに面白い映像を撮るかを考えていた時代は、たしかに衝撃的な番組は多かったかもしれないし、彼らが汗水垂らして頑張って撮ったんだからまあ良いよねということになってしまいがちだけれど、その積み重ねによって今のテレビは信頼を失ってることも忘れてはいけないと思います。今、多くの人は、テレビで本当のことをやっているとは思っていないですよね? だから僕は、テレビをダメにしちゃった人間の一人として、若い人には「嘘をついて視聴率を稼いで、人気者になるような世界で生きていきたいのか」と問いかけるようにしているんです。これからテレビ業界を担っていく人には、ちゃんと視聴者から尊敬されるような世界を作ってほしいから。

■伝説のテレビマンと出会って

奥山:『第14章 「俺がテレビだ」伝説のテレビマンは実在した!』では、放送作家・鵜沢茂郎氏のインタビューが独白の形式で描かれています。

鹿島:鵜沢さんの独白は圧巻で、「川口浩探検隊」のような気持ちで当時のことを調査していたら、ラストで本当に未知の怪物に出会ってしまったという印象でした。編集の栗田歴さんと相談して、「これはあまり修正などせずに、そのまま独白形式で掲載しよう」ということになりました。当時のテレビマンならではのオーラをそのまま伝えたかったし、結局のところ、あの時代のテレビのあり方は正しかったのかどうかを、読者に投げかける形で終わらせたかったんです。当時の番組のスタンスとして「金色のコブラがいるとかいないとかじゃない。『いてもいいだろう』っていう考えだから」としつつも、原始猿人バーゴンの捕獲については「さっき『いてもいい』って話したけど、あれは、ただ、『いすぎた』」と話していて、その感覚というか匙加減が絶妙なんですよね。「いてもいいけど、いすぎてはだめ」というのは、「ヤラセ」の問題を考える上での大きなポイントだと思います。

小山:テレビにおいて、広い意味での「ヤラセ」は絶対になくならないと思います。説得力のある絵を撮ろう、この説に根拠を持たせようと思ったら、どうしても演出が入ってくる。「川口浩探検隊」では、例えば蛇を撮影するにしても、すぐにピントが合うとリアリティがないからといって、わざわざブレた感じで撮ったりしていました。本当はちゃんと撮れているのに、ブレた方が視聴者に信じてもらえるんですね。過去に某番組が、納豆の効能についてのデータを捏造したことがきっかけとなって打ち切りになりましたが、あれはまさに「いすぎた」例ですよね。納豆が身体に良いことは本当だし、タレントが「身体に良いですよ」というくらいであれば「いい」。でも、そこに捏造した数字で裏付けしようとしてはだめだと。

鹿島:その点、新聞など旧来のメディアは数字的な裏付けをすごく気にしていて、ちゃんと記事に落とし込んでいますよね。僕は新聞14紙の読み比べが趣味で、その論調の違いなどを楽しんでいるわけですけれど、新聞に限らず、メディアはうまく利用すれば良いと思っているんです。新聞はちゃんとトレーニングを詰んだ記者が集団できちんと裏を取って書いているのだから、そこは信頼すれば良いし、テレビはテレビで鵜呑みにするのではなく、半信半疑で観ていいと思う。鵜沢さんは、当時の撮影の裏側を全部話した上で「俺は、視聴者を信じている」と言っていましたけれど、それは視聴者に判断を委ねているということでもあるのかなと。

奥山:新聞の話でいうと、一番コストをかけているのは社説と書評なんです。社説はなにかを主張しているようで主張していなかったりするわけですけれど、あの短い文章に何人もの人が携わって、時間をかけて徹底的に作り込んでいます。書評に関しても、第一線で活躍する書評家たちを集めて拘束して、珠玉の一冊を選ぶために議論を重ねているんです。Webに掲載してページビューが稼げるような記事ではないけれど、新聞社にとってはコストを度外視して注力している「情熱」の部分であって、そういう新聞社だからできることは続けていかなければいけないと思いました。

■「クレイジージャーニー」を観て気づいたこと

鹿島:鵜沢さんは「俺がテレビだ」と言いきってしまうような豪胆な人ですが、インタビューの最後には、毎晩のようにあの頃のテレビ制作の夢を見ると言っていて、それが切なくてたまらなかったです。

小山:昭和のテレビ業界には良いところも悪いところもいっぱいあって、今だと考えられないけれど、飲み会で夜の遅くまでずっと居させられたりするから、「川口浩探検隊」のタクシーチケット代だけで月に何百万とかかったりしていた(笑)。良くも悪くも楽しかったんですよ。

鹿島:最近のテレビ番組をご覧になったりはしますか?

小山:海外に行く情報バラエティなんかを観ていると、例えばナスDが現地の人も食べないようなものを食べたりしているじゃないですか。そういうのは実際、我々もテレビに映らないところでやっていたわけだけれど、本当に腹を壊すからやめた方がいいよ、と思いながら観ていますね(笑)。「川口浩探検隊」はドキュメンタリーではなくて「インディ・ジョーンズ」をやりたかったから、作った絵を観せていたけれど、今はスタッフの現地調査そのものを見せる方がリアルで面白いという風になっていますよね。当時、スタッフが日射病になってかなりヤバかったことがあったんだけれど、あまりに辛そうで逆にヤラセっぽいから映さないということもありました。なにが本当でなにが嘘か、本当にわからなくなっちゃいますよね。

鹿島:「クレイジージャーニー」(TBS)などは、本当の研究者とか探検家に言わば外注しているわけで、そこにスタッフが付いていけば面白い絵が撮れるという形になっていますね。

小山:「クレイジージャーニー」を観ていて面白かったのは、いっさい光の入らない洞窟に入るときに、探検家の方がパウダーを買うんです。なんでパウダーを買うかというと、靴や服が濡れるとぜんぜん乾かなくて、足の皮がめくれてしまうからだと。それ、実は「川口浩探検隊」でもやっていたんですよ。今も昔と同じようなことをしている(笑)。山に登って水がない時は、葉っぱについている朝露を舐めて凌いだりとか、そういうこともたくさんあったんだけれど、撮っている暇がないほど過酷でした。

鹿島:うわー、そのお話もたまらないですね! 次回はぜひ小山さんの解説付きで「川口浩探検隊」の上映会をやりたいです。

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