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全国47都道府県制覇の「旅するおむすび屋」同じ釜の飯を握るワークショップ通し人の縁をむすぶ

女性自身

 

「入社してまもなく出会ったのが、新潟でお米の普及活動をしていた同世代の女性。生産者の思いや地域の魅力を届けたいという気持ちが同じことに気づいて」

 

彼女は米、香菜さんも熊本時代から懇意にしている海苔漁師がいて、思わずこう口にしていた。

 

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「お米とのりで、まるでおむすびだね……そうだ、これだ!」

 

誰にも身近で、日本のソウルフードともいわれるおむすびを通じて、いろんな土地の食文化にふれ、発信することを生業にできないだろうか。幸い、勤務先は副業もオッケーの会社だった。

 

そう思うや、半年後には最初のワークショップを開催し、続いて本業のかたわらクラファンで約1千万円の開業資金を集めて、’17年5月、「旅するおむすび屋」を立ち上げた。

 

「学校の食育の授業に参加させていただいたり、その土地の食材を使うおむすびのワークショップを開催したり。次第にSNS等を通じ声がかかることが増えていき、本業と副業が入れ替わるかたちでおよそ2年後に独立しました。個人事業主でしたから、正直、それほど気負いもなかったです」

 

知らない土地を訪ね、そこ特有の食文化を知るのが楽しかった。

 

「おむすびって、ハレの日の食事ではないから、地域のお母さんたちにとっては当たり前すぎるのか、『文化を残さなきゃ』という思いも少ないんですね。でも、そんな当たり前の食べものにこそ、その土地の知恵と愛情が詰まっている。一緒におむすびを握って私が喜んでいるのを見て、お母さん、おばあちゃんたちも、また喜んでくれている……それが新鮮な発見であり、素直にうれしかった」

 

各地をまわると、小さな島国にもかかわらず、実に多様でユニークなおむすびがあると知らされた。

 

「海のない県では、海苔の代わりに高菜や紫蘇で巻いたおむすび。青森・津軽の巨大な卵のようなおむすびを包むのは昆布だったり。徳島のスダチごはんや沖縄の炊き込みごはんジューシーを握ったり、岩手の雲丹たっぷりのカゼ飯を握るというぜいたくな味わいのおむすびもありました」

 

全国をまわり、さまざまな出会いを重ねるなかで、香菜さん自身も自分の故郷を思い出していた。

 

「拒食症になる前の中学時代、母が部活用に持たせてくれたのが、明太マヨネーズのおむすび。アルミホイルをほどくときが楽しみでした。思い返せば福岡名産の明太子ですから、私も知らずに地元の味を食べていたんですよね」

 

拒食症のことを、今では子供たちの前で話すこともある。

 

「病気は苦しかったですが、悪いこととは思っていません。営業の仕事もですが、どんなつらいことがあっても、何かの糧になることを身をもって体験したからです。私は食べることで苦悩しましたが、また食べることで救われました。だから、食を通じての恩返しも続けていきたいんです。学校をまわるのも、子供好きもありますが、やはり自分の体験から、幼いうちから食の大切さをわかっていることが大事なんだ、との思いも強いです」

 

香川のワークショップもそうだったが、どこか素朴で、手のひらにのるほどのおむすびを前にして、誰もが笑顔に、饒舌になる。

 

「『同じ釜の飯』とはよく言ったもので、共に食卓を囲むことで食も進むし、仲よくなれます。そして、地域のみなさんには、おむすびをむすぶことで、人の縁も結んでほしいと思うんです」

 

 

■独立したと思ったらすぐにコロナ禍に。SNSで声がけしてもらい、新しい縁も広がった

 

〈旅できなくなったおむすび屋さん〉

 

香菜さんのツイッターに、こんな一文が出現して仲間やファンを心配させたのは3年ほど前のこと。

 

「独立したと思ったら、1年もたたずにコロナ禍となりました。ワークショップなども人が集まるのが大前提なので、なかなかできなくなって。でも、いったん立ち止まるきっかけにもなったんですね。それで、よし、改めて日本中におむすびを見に行こうと。幸い、生活のほうはCAMPFIREでの仕事が増えたりして、しのげました」

 

そして2年をかけて、沖縄から東京までおむすびを握りながらまわり、47都道府県を“制覇”。

 

「ツイッターでまだ行ってない場所についてつぶやくと、『ウチの県へおいでよ。こんなおむすびの具に合いそうな名産も』と声をかけてくれる人が次々に現れて」

 

こうした活動ぶりを綴った著書の出版やドキュメンタリー映画の話も進行中とか。拒食症の闘病中は、さぞ心配したと思うが、両親も今は、

 

「楽しそうに働いてるね」

 

と、活動を見守ってくれている。

 

「私もいずれ結婚して、子供を育てたい。お手本は、保育士として働いていた母なんです。おむすびや食に関する仕事はこれからも続けますが、そのとき、私がそうだったように、『ママ、楽しそう』と思ってもらえるような働き方をしたい。できたら、子供と一緒に日本中をまわりたいと、そんなことも考えたりしてます」

 

一人で食べることの寂しさと味気なさを誰より知る香菜さんは、おむすびの旅を続けながら、人と人の縁を結んでいく。

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