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【徹底解説】名画から生まれたマスターピース『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』── 第1回:誕生の軌跡

キネマ旬報WEB

その「誰か」として白羽の矢が立ったのが、ラーマンがその演出作品を観た際、「ストーリーテリングの手法に私の映画の影響を少し感じた」と語るアレックス・ティンバース。名作映画「ロッキー」のミュージカル版(2012年世界初演/14年ブロードウェイ初演)でなんと、客席にリングを作ってしまうという前代未聞の趣向で話題を呼ぶなど、ミュージカルの本場ブロードウェイで頭角を現し始めていた気鋭の──今となっては飛ぶ鳥を落とす勢いの──演出家である。

映画は観るもの、舞台は聴くもの

Karen Olivo as Satine and Aaron Tveit as Christian

ラーマンが舞台を観て感じ取った通り、ティンバースは確かにラーマンの影響を受けていた。以下は、ティンバースの言葉から。

「彼の映画は私だけでなく、私の世代のアーティスト全員に影響を与えています。どの舞台を演出した際にも、バズの映画監督として、そして素晴らしいストーリーテラーとしての影響が、私の心から離れたことはありませんでした」

当然ながら、映画「ムーラン・ルージュ」にも大きな衝撃を受けていたティンバースが、初めてラーマン本人と出会ったのは2013年のこと。共通の知人のパーティーで隣り合わせた二人はすぐに意気投合し、ティンバースは早くもその翌日、舞台化を打診するメールをラーマンから受け取っている。原作映画がもたらす興奮を、映像技術の力を借りずに創出することができるのか、はじめは自問したと明かすティンバース。そんな彼に道しるべを示したのはやはり、“伯父”たるラーマンだった。

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「バズの家で議論を交わした私たちは、次の二つの結論を得ました。①舞台版は映画と同じくらい、観客が没入できるものでなければならない。②映画公開から15年の間に生まれた音楽の力を借りなければならない。舞台版のスコアは、初めて原作映画を観た観客が感じたのと同じくらい、新鮮で現代的である必要がありました」

こうして方針が決まると、ティンバースは早速クリエイティブ・チーム集めに取り掛かる。ここで加わったのが、ティンバースが長年ファンだったという脚本家のジョン・ローガンだ。映画はもちろん、日本でも小栗旬主演で上演された『RED』や、スティングが音楽を書き下ろしたミュージカル『ザ・ラスト・シップ』など、舞台においてもいくつもの代表作を持つ彼は、映画と演劇の違いについてこう語っている。

「映画では、壁塗りパン(キャメラを左右に速く動かす)、ディゾルブ、クロスカッティング、モンタージュ、クローズアップといった映像技術が感情表現の源となります。演劇には、そのどれもありません。舞台上では、時はリアルタイムで流れ、感情は視覚効果ではなく、ドラマとその語り方によって高められていく。映画は観るもの、舞台は聴くものなのです」

豊富な経験に裏打ちされたこの見識に基づき、物語と登場人物をさらに掘り下げる作業に着手したローガン。その際、20世紀フォックスの脚本保管庫に足を運び、ラーマンらによる草稿を読みふけったという証言からは、原作映画への深いリスペクトが窺える。そして“伯父”ラーマンも、“甥”あるいは“姪”たる舞台版の成長を温かく見守っていたようだ。

「草稿を読みながら、私は登場人物たちに思いを巡らせていました。彼らはどこで生まれ、その人生はどのようなものだったのか。互いにどんな関係性にあるのか、より親密に関係させる方法はあるか。バズ・ラーマンは常に、私たちが大胆に解釈し、自分なりの作品を作るよう背中を押してくれました」

新たな命が吹き込まれた舞台版

Sahr Ngaujah as Toulouse Lautrec, Aaron Tveit as Christian and Ricky Rojas as Santiago

ローガンと共にプロットを練り直す一方で、ティンバースは残りのクリエイティブ・チーム集めにも奔走していた。音楽監督、振付家、セットや衣裳デザイナーが加わり、作品が出来上がっていった過程を、ティンバースはこう振り返る。

「新作ミュージカルの創作プロセスは、往々にして曲がりくねった道ですが、幸いなことに『ムーラン・ルージュ!』の道は直線的でした 」

とはいえもちろん、創作にトライ&エラーはつきもの。本作では特に、ラーマンとティンバースが最初に決めた方針②にあたる音楽において、多くの議論がなされたようだ。ティンバースとローガンは音楽監督と共に、既存の楽曲を物語に当てはめるという原作映画の手法を踏襲しながら、脚本と時代の変化に応じて追加楽曲を選ぶという難題に挑んだ。

「私たちはいくつもいくつもアイデアを出し、出したアイデアを捨てては新しいものに置き換える、という作業を何度も繰り返しました」(ティンバース)

「私には、この舞台版に命が吹き込まれた、と感じた瞬間があります。それはとある週末、タイムズ・スクエアの小さなホテルの一室でのこと。アレックスと音楽監督と私が自ら缶詰めになり、使用する楽曲を決めたときでした」(ローガン)

原作映画を尊重しながら、舞台ならではの、かつ現代ならではの表現を追求した舞台版クリエイター陣と、彼らの自由な創作を後押しした原作映画の監督と。映画の舞台化において考え得る最高に理想的な関係の中で、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は産声を上げた。最後に、開幕した舞台を見届けたバズ・ラーマンの言葉を紹介しよう。

「それは近年稀にみるスリリングな体験でした──そこでは『ムーラン・ルージュ』の奇想天外な着想が、保たれているにとどまらず、さらに花開いていたのです! 私が創造に深く関与した作品は、今や新たな命を生きていました。伯父さんは、本当に喜んでいます!」

引用:『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』公式パンフレット韓国公演版

構成・文=町田麻子 制作=キネマ旬報社

演出:アレックス・ティンバース
Alex Timbers/劇作家・演出家。1978年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。21年、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』でトニー賞ミュージカル演出賞、『デイヴィッド・バーンのアメリカン・ユートピア』で同特別賞受賞。主な演出作品に『ブラッディ・ブラッディ・アンドリュー・ジャクソン』(08/脚本も)『ロッキー・ザ・ミュージカル』(12)『ビートルジュース』(18)など。

脚本:ジョン・ローガン
John Logan/脚本家、劇作家。1961年生まれ、アメリカ・カリフォルニア出身。主な映画に「ラスト サムライ」(03)「007/スカイフォール」(12)「007/スペクター」(15)「エイリアン:コヴェナント」(17)など。「グラディエーター」(00)、「アビエイター」(04)でアカデミー賞脚本賞、「ヒューゴの不思議な発明」(11)で同脚色賞にノミネート。09年、舞台『RED』でトニー賞受賞。

原作:バズ・ラーマン
Baz Luhrmann/映画監督、演出家。1962年生まれ、オーストラリア・シドニー出身。90年、オペラ『ラ・ボエーム』を演出。02年にニューヨークで上演、トニー賞名誉賞受賞。92年、「ダンシング・ヒーロー」で映画初監督。「ムーラン・ルージュ」(01)は監督、脚本、プロデューサーを兼任。主な映画に「ロミオ&ジュリエット」(96)「オーストラリア」(08)「華麗なるギャツビー」(13)など。22年公開の「エルヴィス」はアカデミー賞8部門にノミネート。

 

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』
脚本:ジョン・ローガン
演出:アレックス・ティンバース
音楽監督・オーケストレーション・編曲:ジャスティン・レヴィーン
振付:ソニア・タイエ
出演:望海風斗/平原綾香(Wキャスト)、井上芳雄/甲斐翔真(Wキャスト)、橋本さとし/松村雄基(Wキャスト)、上野哲也/上川一哉(Wキャスト)、伊礼彼方/K(Wキャスト)、中井智彦/中河内雅貴(Wキャスト)、加賀楓/藤森蓮華(Wキャスト)ほか 
◎公演期間/6月29日(木)〜8月31日(木) プレビュー公演 6月24日(土)〜28日(水) 
◎一般前売り券発売開始/[6・7月公演]5月6日(土)[8月公演]5月20日(土)
©2023 Global Creatures. Moulin Rouge® is a registered trademark of Moulin Rouge.

公式サイトはコチラ

〈STORY〉
1899年、パリ。作家を目指すアメリカ人の青年クリスチャンは、モンマルトルの丘にあって、絢爛豪華たるショーを見せるナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」のスター、サティーンと恋に落ちる。しかし、経営難のムーラン・ルージュと女優を志すサティーンのパトロンになったデューク公爵が二人の仲を引き裂こうと画策する。クリスチャンとボヘミアンの友人たち──画家のロートレック、ダンサーのサンティアゴ──らは、窮地のムーラン・ルージュの復活と、サーティンの心を摑むべく新たなショーを作り上げようと奮闘するが……。

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