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その悲劇は、何故止められなかったのか?『ニトラム/NITRAM』が見つめる、孤独な襲撃犯の肖像

キネマ旬報WEB

そんな俳優陣の名演と詩情豊かな映像が醸し出す独特の気配は、本来なら想像するのも恐ろしい凶悪犯の心の奥を覗くための、先入観を排した「透明な眼」となって観る者を引き込んでいく。そこから次第に見えてくるのは、常人には理解不能な怪物などとは程遠い、我々と変わらぬ「弱き者」の、寂しく哀れな後ろ姿だ。

皆と同じとなることを望みながら、決して「輪の中」に入ることが出来なかった二トラムが抱いていた未成熟な愛情の渇望が、やがて世間への不条理な「憎悪」に変貌し、最終的に陰惨な暴力へと発展していく過程を、主演のジョーンズは常軌を逸した行動とは不釣り合いな澄み切った瞳で体現していく。まるで「傷付いた子ども」と「憎しみを抱える復讐者」の間を行き来するような佇まいは、凡百のサイコスリラー映画で描かれる犯罪者とは一線を画す存在として、強烈に瞼に焼き付くだろう。

作り手たちが映画に込めた、静かな未来への「祈り」の想い

またカーゼル監督は特典インタビューの中で、未曾有の犠牲者を生んだ銃撃事件の顛末について「隣のバスの席にも座っていそうな青年が、釣り竿を買うように銃を買い揃えることが出来た」当時の社会的な問題についても、広く考える機会になってほしいと語っている。

実際にオーストラリア国内では、この事件をきっかけに銃の販売に大幅な規制が掛けられ、更には国民が所持していた銃器を政府が「買い取り」することによって、国内での流通を大幅に減らすことに成功した。現在も容易に犯罪者の手に銃が渡らぬよう、法の下で厳しい監視が敷かれているという。

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そして本作で描かれた主軸とも言える、この陰惨な事件を引き起こした犯人の哀れな半生と歪んだ憎悪の根源を「醒めた眼差し」で見据えることは、今も世界中で繰り返される幾多の暴力犯罪について人々が冷静に考え、何らかの「歯止め」を掛ける方法を議論するための一つの契機にもなるのではないか。本作を観終わった後に誰もが感じる、絶望感に満ちていながらも不思議な「静寂」に包まれたような余韻は、そんな作り手たちの未来への「祈り」にも似た想いが、込められているのかも知れない。

文=Takeman 制作=キネマ旬報社

リバーシブル・ジャケット仕様

『ニトラム/NITRAM』

●9月2日(金)Blu-ray&DVDリリース(同日DVDレンタル開始)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込)
●Blu-ray映像特典(約34分)※セルのみ
・劇場予告編
・特報映像
・メイキング映像
・インタビュー映像(アンソニー・ラパリア、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・グラント、ニック・バッツィアス、ジャスティン・カーゼル、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)
●DVD映像特典(約3分)
・劇場予告編
・特報映像

●2021年/オーストラリア/本編112分
●監督:ジャスティン・カーゼル 脚本:ショーン・グラント
●出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、アンソニー・ラパリア
●発売元:有限会社セテラ・インターナショナル 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

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